可塑性のあるゴムの原料(鎖状高分子)に架橋剤をまぜて,分子間に架橋反応を起こさせ(加硫),三次元的な網目状高分子をつくり,流動性をなくしたゴム状物質を製造する操作をいう.歴史的には天然ゴムに硫黄を添加して架橋反応を行い,ゴムを製造したことから加硫といい,架橋と同じ意味で用いられる.加硫は,硫黄加硫と非(無)硫黄加硫に大別できる.天然ゴムや多くの合成ゴム(SBR,NBR,IR,BRなど)では,加硫剤(架橋剤)として硫黄が用いられ,クロロプレン系合成ゴムでは,マグネシウムなどの金属酸化物(非硫黄系)が使用される.このほかにも加硫剤として,セレン,テルル,無機,有機の硫黄化合物などが使用されている.ゴムの加硫は一般には,配合ゴム(ゴムの原料,加硫剤,補強剤,加硫促進剤,老化防止剤など)を蒸気や熱湯により加熱(110~170 ℃),加圧して行い,生成したものを加硫ゴムとよぶ.ゴムの架橋反応は,ゴム分子中に含まれる二重結合と硫黄(反応前の硫黄は環状八量体から構築されている)との間で化学反応が起こり,硫黄分子が架橋点を構築する.この架橋点では,硫黄分子は複数個(1~8個)連なっている.一般の硫黄架橋では,硫黄が1~2個のものが多い.加硫促進剤は加硫温度の低下,時間の短縮をもたらす効果があり,加硫ゴムの品質向上に役立つ.代表的促進剤として,グアニジン類,アルデヒド類,アミン類,チアゾール類,チウラム類があり,ステアリン酸や亜鉛華などの促進助剤と一緒に用いられる.ゴムの材料的性質を改良するために,カーボンブラックなどの補強剤が加えられる.一般に硫黄の添加量は,ゴム100に対し2~3程度加えて通常の加硫ゴムが製造されている.加硫ゴム製造時に,製品の表面に未反応の加硫剤(配合剤を含む)が析出する(花模様状に析出することによりブルーミングとよばれている)のを嫌う製品では,硫黄添加量を0.5以下(低硫黄加硫)にして軟質加硫ゴムを製造している.このような製品として,透明ゴム,耐熱ゴム,電線被覆用ゴムなどがある.硫黄を30% 前後含んだものを硬質ゴム(エボナイト)とよぶ.加硫するのに最低限必要な加硫剤,配合剤を用いて製造した加硫ゴムを純ゴム配合とよび,カーボンブラックを配合した加硫ゴムと対比される.このほかに,加硫剤(架橋剤)を一切使用しないで,ゴム状物質を作成する方法として,放射線により高分子鎖を架橋する放射線架橋(加硫)や,硬い分子鎖と軟らかい分子鎖から構成されているセグメントウレタンにおける硬い分子鎖の凝集力を利用した物理加硫(物理架橋)がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
原料ゴムに硫黄を加え,加熱することにより三次元網目構造化し,弾性や引張強さを大きくし,実用に耐える諸性質をゴムに与える反応をいう。原理的には,ゴム分子鎖中に存在する炭素-炭素二重結合を利用して,硫黄によりゴム分子鎖間に橋架け結合(橋架け)をつくる反応で,ラジカル反応機構によるものと考えられている(イオン反応説もある)。加硫という現象は1839年にアメリカのC.グッドイヤーによって偶然に発見されたもので,今日のゴム工業の発展の基礎となった,きわめて重要な発見である。ゴム加工においては加硫工程にさきだって原料ゴムに硫黄,加硫促進剤,軟化剤,充てん(塡)剤,老化防止剤などを添加し,よく混練りしておく。この添加する薬剤の種類や量によって加硫後のゴム製品の性質が大きな影響を受ける。加硫促進剤はその少量を添加することにより硫黄によるゴム分子鎖の三次元網目構造化を促進する効果のある薬剤で,チアゾール系化合物やスルフェンアミド系化合物が用いられることが多い。原料ゴムの種類,配合処方などによって加硫温度,時間などを適当に選ぶ必要があり一概にはいえないが,150℃前後,15~30分程度が一般的な加硫条件である。冷加硫といって硫黄の代りに塩化硫黄を用いることにより加熱せずに加硫を行うこともできるが,一般的ではない。ゴム製品をつくるには配合のすんだゴムを金型の中へ入れて成形し,金型ごと加熱して加硫し,型の中でゴム分子鎖間に橋架け結合をつくる。なお,二重結合をもたないゴムの場合には硫黄の代りに有機過酸化物,金属酸化物などを用い,この熱分解で生成するラジカル(遊離基)を利用してゴム分子鎖間に橋架け結合をつくるが,ゴム関係ではこれらも含めて加硫と総称することが多い。
執筆者:住江 太郎
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熱可塑性のある原料の生ゴムに硫黄(いおう)あるいは他の架橋剤と配合剤を加え、加熱または他の方法で生ゴム分子間に化学結合をつくる架橋反応をいう。一般の加硫は、生ゴム100に対して硫黄2~3.5、補強充填(じゅうてん)剤40~50、その他加硫促進剤、軟化剤、老化防止剤などを加え、素練り、混合、成形工程に続いて加熱蒸気により直接あるいは間接に加熱して行う。生ゴムの加硫法は1839年アメリカのグッドイヤーが発明した。熱可塑性と流動性をもった生ゴムは、加硫によってそれらの欠点が改良され、弾性、耐久性、強度などが実用に供しうるようになった。加硫という語は硫黄を加えて生ゴム分子中の炭素間二重結合と反応させ、橋架けをつくる反応に由来して名づけられた。しかし、1930年代より各種の合成ゴムが製造されるようになって、クロロプレン系合成ゴムのように、亜鉛華や酸化マグネシウムによって架橋が行われ硫黄を必要としない場合や、分子内に炭素間二重結合をもたない合成ゴムでは、シリコーンゴムのように有機過酸化物で架橋が行われる場合もある。そこで、硫黄を使わない場合はとくに無硫黄加硫とよぶこともある。
[福田和吉]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…無学から出発し,天然ゴムの品質欠陥の改良に専心,1839年,生ゴムと硫黄・鉛白の混合物をストーブのわきに放置しておいたことから偶然ゴムの硬化現象を発見,のちのゴム工業の技術的基盤をつくった。イギリスのゴム工場経営者ハンコックThomas Hancock(1786‐1865)は,この技術を一部改良し〈加硫valcanisation〉と命名し,1843年イギリスの特許を得た。グッドイヤーの加硫法は翌年アメリカの特許となったが,後半生は特許をめぐる訴訟に明け暮れ,みずからの発明から利益を得ることなく貧苦のうちに没した。…
…ラテックス中に含まれるゴム分を凝固,分離させると生ゴムが得られる。この生ゴムを原料として,これに加硫剤,充てん剤などを配合,混練りしたのち成形加硫すると,われわれが日常使用するゴム製品が得られる。 最近グアユールゴムgum guayuleが注目されている。…
※「加硫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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