固体のひずみと応力は,ひずみが小さいときはほぼ比例関係にある(フックの法則)。この比例係数を弾性係数,または弾性率modulus of elasticityという。応力の成分,ひずみの成分はそれぞれ6個あるので,弾性係数の数は36個あることになるが,応力,ひずみは対称テンソルであるから,独立な係数の数はもっとも一般的な場合21個である。結晶の対称性が増すと独立な係数の数が減り,対称性のもっとも大きい立方晶系では3個となり,さらに等方的な物質では2個になる。このほかに,結晶を構成する原子どうしの相互作用ポテンシャルが中心力(ポテンシャルが相互の距離のみに依存する)の場合,コーシーの関係と呼ばれる関係がある。
もっともふつうに使われる弾性係数は,ヤング率,剛性率(ずれ弾性率),体積弾性率,ポアソン比である。これらは等方弾性体について次のように定義される。(1)ヤング率 一つの方向に引張応力(または圧縮応力)σが働くとき,その方向の伸びのひずみεとの比E=σ/εをいう。(2)剛性率 せん断応力τとずれのひずみγとの比G=τ/γをいう。(3)体積弾性率 弾性体に一様な圧力pが加わるときの体積ひずみ⊿V/Vとの比として,K=-p/(⊿V/V)で表される。これら三つの弾性係数は,ふつうの金属などではほぼ1010N/m2程度の大きさをもつ。(4)ポアソン比 一つの方向に引張応力を作用させると,その方向に伸びのひずみεを生ずるとともに,それに垂直な方向にも縮みのひずみε′を生ずる。このときν=|ε′/ε|をポアソン比と呼ぶ。νは0と0.5の間の値になり,ν=0.5は体積の変化を生じない場合であり,弾力ゴムでは0.46~0.49である。ふつうの物質ではνは0.3の近傍の値になっている場合が多い。
等方性弾性体ではヤング率,剛性率,体積弾性率,ポアソン比は独立ではなく,相互に関係づけられる。前述のように,等方性弾性体で独立な弾性係数は2個であり,その2個としてよく用いられるものに,フランスのラメGabriel Lamé(1795-1870)によって導入されたラメの弾性係数(ラメの定数ともいう)λ,μがあるが,これを用いると,
の関係がある。
執筆者:二宮 敏行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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