サトラップ(その他表記)satrap

翻訳|satrap

改訂新版 世界大百科事典 「サトラップ」の意味・わかりやすい解説

サトラップ
satrap

ペルシア帝国の州総督の称号。サトラップの語源であるギリシア語のサトラペスsatrapēsは,〈帝国守護者〉を意味する古代イラン語クシャスラパーワンkhshathrapāvanに由来する。キュロス2世のときに征服地の管理のために置かれ,ダレイオス1世の行政改革において制度化された。ヘロドトスによればダレイオスは帝国に20州を設置したというが,その数や境界は時期によって変遷した。サトラップは王の代理として州の行政,治安,裁判をつかさどり,州民の召集軍を指揮し,定められた額の税を徴収して王に納めた。広大な権限を有するサトラップを監督するために〈王の目〉(巡察官)や〈王の耳〉(密偵)が派遣されたが,その自立的傾向を抑えることは難しく,アルタクセルクセス2世時代には約10年間にわたって西部諸州の反乱が起きている。ペルシアを征服したアレクサンドロス大王は帝国支配のためにサトラップ制を継承するとともに権限の抑制につとめ,その政策はヘレニズム諸国家に受けつがれた。サトラップの称号はパルティアやササン朝時代にも証されるが,その地位や職務については不明のところが少なくない。
クシャトラパ
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サトラップ」の意味・わかりやすい解説

サトラップ
さとらっぷ
satrap

アケメネス朝ペルシア属州に置かれた行政長官職。「王国の守護者」という意味の古代イラン語クシャトラパ*xšaθrapāの訛(なま)り。サトラップ制は同朝以前に始まるが、ダリウス1世(在位前522~前486)が整備確立した。普通ペルシア人王侯貴族が任命された。中央から派遣された監視官および駐在軍司令とともに中央政府に直属し、それぞれ独立した権限をもって属州を統治した。この制度は属州の支配力の分散を図ったものであるが、サトラップの権限は徴税権をはじめ強大であり、世襲化も進んだため、後期にはよく中央から離反した。サトラップの数はダリウス1世の時代には20余であったが、帝国の版図および属州の編成替えで増減した。この制度は同朝以降も長く東洋で継承された。

[奥西峻介]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サトラップ」の意味・わかりやすい解説

サトラップ
satrap

アケメネス朝ペルシアの州総督 (長官) クシャトラパバン khshathrapāvanのギリシア語の呼び名。キュロス2世領土をいくつかの州 (サトラピ) に分け,その長官に軍事,行政,徴税,司法の権限を与えた。この制度はダレイオス1世のときに確立した。サトラップは州統治の最高責任者として,帝国の衰微とともに事実上独立的な権力をもつにいたった。アレクサンドロス3世 (大王) はペルシア帝国征服後,この属州機構を継承し,マケドニア,ギリシアの将軍を長官としたが,ペルシア時代のサトラップをそのまま職にとどめた場合もあった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「サトラップ」の解説

サトラップ
Satrap

アケメネス朝の地方長官。ダレイオス1世の諸国征服後,全土を20余のサトラッピ(州)に分け,各州にサトラップ(知事)を任命して統治に成功したが,のちに門地高く権限大なる者が離反し,衰退の一原因となった。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「サトラップ」の解説

サトラップ
satrap

アケメネス朝の属州に置かれた行政長官職
もとは「国土の守護者」の意。この王朝の始祖キュロス2世が全国を多くの州に分け,ダレイオス1世が各州の長官としてサトラップを置き,中央集権体制を完成。帝国が衰退すると兵権を握り事実上独立していった。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のサトラップの言及

【ペルシア帝国】より

…統一を再建した彼は,新都ペルセポリスの造営とともに,統治組織の再編成に着手した。サトラップ制や税制の改革,欽定貨幣の鋳造,駅伝制と行政通信体系の整備など,彼の施策によって中央集権体制は強化され,その後2世紀にわたる帝国支配の基礎が確立された。 前5世紀に入ると,イオニア諸都市の反乱(イオニア反乱)を契機としてギリシアとの対立が生じ,ペルシア戦争が起こった。…

※「サトラップ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android