システム分析(読み)システムぶんせき(英語表記)systems analysis

翻訳|systems analysis

改訂新版 世界大百科事典 「システム分析」の意味・わかりやすい解説

システム分析 (システムぶんせき)
systems analysis

大規模・複雑システムを有効に扱う方法としてシステム思考が生まれてきた。システム思考適用の最も包括的な呼び方はシステムズ・アプローチ(以下SAと呼ぶ)である。システム分析という言葉には二つの意味がある。一つは固有名詞として使うときで,例えばクオードE.S.Quadeらの整備した特定の方法を指す。もう一つは,広義の用い方で上述のSAを指す場合である。SAには大別して二つある。ハードシステム方法論(以下HSAと呼ぶ)とソフトシステム方法論(以下SSAと呼ぶ)である。HSAには,オペレーションズリサーチ(OR),システム工学(SE),狭義のシステム分析が属す。

 第2次大戦中に軍事的作戦に学際的方法による科学的分析が加えられ大いに成功を収め,これがORと呼ばれるようになった。システム工学がORの成功に触発され,より広い必ずしも計量的ではない戦略的,政治的な問題を指向してランド・コーポレーションによって1945年に始められた。ランド・コーポレーションの役割は基本的に長期的視野に立つ研究と分析に従事し,戦略的技術的な計画や作戦の支援を行うというもので,実験室を持たない,ハードウェアも作らない,通常の工学者としても活動しないという特別なものであった。システム工学とは,宇宙船,電力配電系統などのような大規模工学システムの設計を扱うSAである。ここでの重点は費用の分析と,設定された目的実現のために多くの代替案を比較評価するというものであった。工学分野での成功の中から,もっと広い社会的問題にも適用できるのではないかとして,よりソフトな問題領域へ適用されたのがクオードらのシステム分析(1968)である。

 システム工学の分析手順を述べる。(1)問題の定義(要求の明確化),(2)目標の選択(評価基準の明確化),(3)代替案の創出,(4)代替案の評価,(5)代替案の選択,(6)プロトタイプの製作実施,(7)本システムの実施と改善,である。システム分析,ORの手順もほぼこれと同様である。

 HSAにおける大事なポイントは,問題の設定・明確化,目的の明確化,代替案の設計,代替案の評価(費用-便益ないしは費用有効度の検討),および代替案の選択,特に目的の明確化と代替案の量的な評価である。しかしこれが可能なためには対象の構造が十分にわかっている必要がある。“良かれ”と思って行ったことが思いがけない副次効果を生むことは,生態系の例に代表される複雑な対象の場合にはよく起こることである。特に人間を主要な要素として含むシステム(ソフトシステムあるいは人間活動システムと呼ぶ)にHSAを適用した際に経験した反省の中から,SSAが生まれてきた。ここではチェックランドP.B.ChecklandのSSA(1970年代)を述べる。ソフトシステムとは,人間を主たる構成要素とするシステムで,SSAは目標の明確化,最適化,問題解決などをあきらめ,目標のかわりに当事者の世界観あるいは根底定義を,最適化のかわりに好ましさと実現可能性を,問題解決のかわりに議論学習概念を持ち込んだ方法論である。

 SSAの手順を述べる。(1)問題状況の把握 問題を把握するのではなく,問題状況をできるかぎり詳しく,かつ正確に問題状況の言葉で表現すること。(2)根底定義 問題状況に対して考えられうるいくつかのテーマに関連しそうなシステムを想定し,それに(何々システムのように)名前を付ける。どんな環境のもとで何を入力とし何を出力する変換システムであるか。(3)概念モデルの作成 根底定義だけに基づき,根底定義に表現された入出力変換を達成するために必要な活動のシステムのモデル作成。ここでは現実にあるシステムを参考にすることは極力避け,あくまでも論理的かつ思弁的に行う。概念モデルの十分性を見るためにシステム理論から得られる人間活動システムの形式モデルと対比する。その後でこれを従来の他の理論モデル,例えばシステムダイナミクス(SD)モデルなどに変換する。(4)問題状況と概念モデルの比較 上述の(1)で得られた問題状況と概念モデルの比較を問題状況の関与者と行い,可能な改革案を作る。(5)改革案の議論 改革案が論理的に望ましいか,また改革に関与する人々の態度,権力構造などから見て実行可能かを当事者と議論する。(6)改革案の実施 これはまた新たな問題状況を生む。HSAのように最適な代替案の設計を行うものではなく,議論を提供し,繰り返し学習することで問題状況のより深い理解に達する方法である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「システム分析」の意味・わかりやすい解説

システム分析
システムぶんせき
systems analysis

ある問題を解決し目標を達成するための多くの手段から,それらの代替的手段の費用,効果を比較,検討することによって最も適切な手段を決定しようとするもの。オペレーションズ・リサーチが特定のシステムのさまざまなオペレーションの比較分析をするのに対し,異なるシステムの比較検討を行う。各国で研究が進められ,公共部門の資源配分,政策決定に広く利用されるようになった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

ASCII.jpデジタル用語辞典 「システム分析」の解説

システム分析

ある業務のシステムを開発する前に、その業務の現状や問題点などを洗い出す作業のこと。システムの基本設計に欠かせない重要な作業のひとつ。

出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android