エジプト北東部にあるアフリカ大陸とアジア大陸をつなぐ半島。1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領したが、79年にイスラエルとエジプトの平和条約が結ばれ、82年までに大部分がエジプトに返還された。イスラエル、エジプト両軍の停戦監視活動をする「多国籍軍・監視団(MFO)」は79年の平和条約に基づき展開している。
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エジプト東端部、アフリカ大陸とアラビア半島との接点にある三角形の半島。東はアカバ湾、西はスエズ地峡とスエズ湾に、それぞれ限られ、北は地中海に面する。面積約6万平方キロメートル。南部は結晶質岩の山地で、この半島の最高峰カテリーナ山(2637メートル)がある。中央部はチーとよばれる砂質の高原、北部の海岸地域は低い丘陵地帯である。ほぼ全域が砂漠で、人口密度はきわめて低い。1967年の第三次中東戦争以来、その大半をイスラエルが占領していたが、82年エジプトに返還された。
[田村俊和]
この半島の山々は『旧約聖書』にも言及され、出(しゅつ)エジプトと、モーセ(前13世紀)が神ヤーウェから十戒を授かった舞台でもある。シナイの名称は、セム系楔形(くさびがた)文字アッカド語の「月の神」を意味するシンsinに由来するとされている。
古代エジプトの編年上、重要な史料であるパレルモ石碑文によると、すでに第1王朝のウディム王(前3000ころ)が遠征しており、以後第20王朝のラムセス5世(前12世紀)までの諸王が遠征を繰り返し、銅、くじゃく石、トルコ石などの採掘を行って同地を開発した。王朝衰退後はローマ帝国支配下のアラビア属領となり、現在のボスラがその中心となった。初期キリスト教時代は、半島南部の山地に多くの修道者が住み、527年にビザンティン皇帝ユスティニアヌス1世(在位527~565)がアレクサンドリアの殉教者聖カタリナを記念してジェベル・ムーサ(アラビア語で「モーセの山」の意)の北麓(ほくろく)(1529メートル)に現在の聖カタリナ修道院を建立した。同地はやがてキリスト教徒の聖地となり現在に至っている。1884年に同修道院から有名なシナイ写本(大文字ギリシア語聖書写本)が発見され、また1904~35年にわたって、この付近の神殿からヒエログリフを模したシナイ文字とよばれる文字で刻まれた碑文が発見された。1517年以後はオスマン帝国に併合されたが、19世紀初頭にエジプトは反乱を起こしてオスマン帝国から事実上独立し、1831年半島もエジプトの統治下に入った。他方、1840年のロンドン条約でオスマン帝国の統治権は1914年の第一次世界大戦勃発(ぼっぱつ)まで名目上保持された。1917年1月の北部シナイにおける戦いののちイギリス軍は全シナイ半島を占領したが、第一次大戦終了後エジプトに返還された。ついで1948年のイスラエル共和国の建国とともに半島は両国の国境地帯となり、56年のスエズ動乱の際はイスラエル軍が侵攻、占領したが、国際連合総会の要請により撤退した。67年6月の第三次中東戦争によりふたたびイスラエル軍によって占領された。北部シナイの住民は漁業を含む農業を生業としているが、戦後のガザはイスラエルとシナイ半島とを結ぶ交易・交通の中心地となった。その後両国間の和平交渉が進み、82年4月、「シナイ半島のターバ地区は係争地として残し、今後両国間で話し合いを継続する」との条件付きで、シナイ半島返還が実現し、ターバ区は89年3月に返還された。
[高橋正男]
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紅海北端のスエズ湾とアカバ湾に挟まれた半島。荒地であるが銅鉱石を産するため,前3000年頃からエジプト人により開発された。旧約聖書には,出エジプトに際して,モーセはここで十戒を授けられたと記され,シナイ山にはこの伝説にちなむ聖カテリーナ修道院がある。アジアとアフリカ,地中海と紅海を結ぶ位置にあるため,帰属をめぐる係争の的ともなり,第3次中東戦争後はイスラエルが占領していたが,1979年のエジプト‐イスラエル平和条約により,エジプトに返還された。
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…セラビート・エルハーデムで発見されたハトホル女神にささげられた神殿には,中王国・新王国時代の記録が残っており,その最後の王は第20王朝のラメセス5世である。古代エジプト王国はシナイ半島を領有していたが,その後ローマ帝国の属領となった。初期キリスト教時代に多くの隠修士が住むようになり,ユスティニアヌス1世はその保護を目的として6世紀中ごろにカタリナ修道院の前身である砦と教会堂をつくった。…
※「シナイ半島」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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