シャピロ(Meyer Schapiro)(読み)しゃぴろ(英語表記)Meyer Schapiro

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

シャピロ(Meyer Schapiro)
しゃぴろ
Meyer Schapiro
(1904―1996)

リトアニアに生まれアメリカで活動した美術史家、美術批評家。コロンビア大学名誉教授。ユダヤ系家庭に生まれ、3歳の時に渡ったアメリカで生涯を過ごす。1920年に入学したコロンビア大学で言語学、数学、文学、人類学、哲学、美術史など幅広く学び、24年に同大学で美術史と哲学の学士号を得る。28年より同大学で教鞭をとる。29年、フランス、トゥールーズ北西アベロン川沿いの町モワサックのサン・ピエール教会の柱廊および正面入り口の彫刻についての博士論文によりPh. D. を取得。この論文は31年に「モワサックのロマネスク彫刻」The Romanesque Sculpture of Moissacとして雑誌掲載され、ロマネスク美術、キリスト教図像学に関するシャピロ名声を確立することとなった。引き続きロマネスク美術における形式化、抽象化の問題に関心を寄せ、11世紀から12世紀における芸術家の行動や美的な評価に関する47年の総括的な論文に至るまで、後に著作集の第1巻『ロマネスク芸術』Romanesque Art, Selected Papers; Vol. 1(1977)にまとめられる数多くの論文を著した後、シャピロの関心は中世からより広い領域へと広がる。

 1950年代には、シャピロの眼差しは19、20世紀の芸術にも向けられ、クールベゴッホセザンヌスーラといった画家たちと彼らを取り巻く社会、芸術環境との関係を明らかにする数多くの論文に結実する。その関心、分析方法の広がりは、近現代美術をめぐる論集『モダン・アート――19―20世紀美術研究』Modern Art; 19th & 20th centuries(1978)としてまとめられた。

 シャピロの方法は、クールベやセザンヌの作品を古代彫刻やコロンブス以前のアメリカ芸術と比較するというように、それまでの美術史が守ってきた、時空における一貫性を自由に越えるもので、同時に比較する作品に共通する芸術創造の基盤にも迫り、比較を成り立たせる根拠も明らかにした。中世芸術を扱う場合も、近現代芸術を扱う場合も、ある時代のある芸術を取り巻く環境に固有の文化、社会実践の総体を把握しようとするシャピロの眼差しは、人々の視点や価値判断が変化し、既存の秩序が変容する危機の時代に向けられることが多かった。

 52年にコロンビア大学教授に就任。同年書かれた「アーモリー・ショー」展(1913)を扱った論文では、ヨーロッパの前衛芸術をアメリカに広く知らせた同展が、第一次世界大戦直前のアメリカの社会状況と無関係ではなかったことを明らかにした。こうしたシャピロの論文の多くは、コロンビア大学における講義にもとづいていた。シャピロの教育、批評活動が大きな影響力をもったことは、74年にコロンビア大学がシャピロが70歳になったのを記念し、彼の名を冠した講座を設けたほか、100部限定のリトグラフ集を刊行した際、作品が収められた芸術家たち、ロイ・リクテンスタイン、ジャスパー・ジョーンズ、フランク・ステラ、そしてアンディ・ウォーホルらの名前からも明らかである。

 73年にアメリカのアート・ディーラー・アソシエーションから賞を受けた際、シャピロは自らの仕事を一言で要約している。「私たちの芸術に関する仕事において、目指すところは芸術を称(たた)えることです」。シャピロがまず第一に自らに課したのは、対象となる作品をそれ自体として理解することにほかならなかった。モワサックの教会のティンパヌムアーチと楣(まぐさ)に挟まれた半円ないしは三角形の部分)を論じる場合も、クールベの絵画を論じる場合もシャピロはまず作品の内部構造、とりわけ作者の才能と関わる要素、すなわち作品の中のさまざまな像の配置におけるリズム、形態の割り振り、それらの間の均衡、不均衡を明らかにすることから取りかかった。作品に対するこうした関心が、シャピロの教えを受けた、後に抽象表現主義と呼ばれる芸術家たちに少なからぬ影響を与えた。

[松岡新一郎]

『二見史郎訳『モダン・アート――19―20世紀美術研究』(1984・みすず書房)』『Late Antique; Early Chiristian and Medieval Art (1979, George Braziler, New York)』『Theory and Philosophy of Art; Style, Artist and Society (1994, George Braziler, New York)』

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