ショック

精選版 日本国語大辞典 「ショック」の意味・読み・例文・類語

ショック

〘名〙 (shock)
① (直接肌身で感じる)物理的な衝撃。
※別天地(1903)〈国木田独歩〉下「どすんと徒(ただ)ならぬ衝動(ショック)があったと思ふと『千代田』は〈略〉一丸(ぐゎん)を喰(くら)ったのである」
② 予期しない事態に接した時にとっさに感じる心の動揺。ぎょっとすること。また、こうした動揺を起こさせるような事件、出来事などにもいう。
※それから(1909)〈夏目漱石〉一四「代助の様子は三千代に夫丈(それだけ)の打衝(ショック)を与える程に強烈であった」
③ 急性の末梢循環不全のこと。精神性、神経性、血管性、失血性などの原因により、いずれも、血圧の低下、心拍数の増加、意識障害を示す。放置すれば短時間で死亡する危険がある。〔血液の科学(1944)〕

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デジタル大辞泉 「ショック」の意味・読み・例文・類語

ショック(shock)

人体や物が受ける物理的な衝撃。「ショックに強い時計」
予期しない事態にあい、心が動揺すること。衝撃。「ショックを受ける」
血液の循環などが急に阻害され、生命が危険な状態となること。「ショック
[類語](1衝撃打撃電撃/(2衝撃センセーション

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内科学 第10版 「ショック」の解説

ショック(循環器疾患の主要病態)

定義・概念
 ショックとは,何らかの原因により全身性の循環障害が起こったため,組織や臓器細胞機能低下を生じた状態であり,生体機能の異常を呈する臨床症候群である.早期では可逆性であるが遷延すれば不可逆性な全身疾患となり,多臓器不全から死に至る.このため,初期診断と治療を適切かつ迅速に行うことが肝要である.
 特に,急性心筋梗塞の臨床ではいまなおショックが重い課題となっている.たとえ,カテーテル治療により梗塞心筋への早期再灌流療法に成功したとしてもショックから脱することができないとその患者の50%をCCUで失っている.この現状からいまなお抜け出せずにいる(Stegmanら,2012).
 ショックの主徴候は血圧低下にある.血圧は心拍出量と末梢血管抵抗により規定されており,その調節によりホメオスターシスが維持される.つまり,心拍出量が減少するか,末梢血管抵抗が低下するか,あるいは両者が低下した場合に血圧は低下する.まず,血圧低下の原因を明らかにし,早期の根治的介入を目指す.
分類
 ショックは血行動態的特徴から,①循環血液量減少性,②心原性,③血管閉塞性,④血液分布不均衡性に大別できる(表5-3-6).また,臨床的重症度分類(Tebaら,1992)して,第Ⅰ期~第Ⅲ期に分類できる(表5-3-7).
1)循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock):
原因としては,外傷や大動脈瘤破裂,消化管出血,手術による出血や重症膵炎,腸閉塞,下痢,嘔吐,熱傷などによる.循環血液量あるいは血漿量の喪失により心臓の前負荷が軽減し,心室充満が不十分となり,その結果,心拍出量が低下し,末梢循環不全を生じる.反応性の交感神経緊張により末梢血管は収縮する. 循環血液量の15%以下の喪失では,血圧は保たれているが,頻脈となり脈圧は減少する.20%以上の喪失で,血圧は低下し,皮膚は蒼白となり,チアノーゼが出現する.末梢組織は循環不全に陥っている.40%以上の喪失は致死的である.
2)心原性ショック(cardiogenic shock):
心臓のポンプ機能障害により,心拍出量が低下し,末梢循環不全を生じる.反応性の交感神経緊張により末梢血管は収縮する.原因としては,心筋の収縮不全や調律不全がある.機序としては,①左心収縮力の低下による1回拍出量の低下,②心拍数の低下,③頻脈による拡張末期容量の減少に伴う1回拍出量の低下,④右心不全による前負荷減少に伴う1回拍出量の低下,があげられる.疾患では,急性心筋梗塞や急性心筋炎,乳頭筋断裂による僧帽弁閉鎖不全,心室中隔穿孔,心破裂,不整脈,拡張型心筋症や術後低心拍出量症候群などがあげられる.心原性ショックは,急激な臨床経過をとるため迅速な診断と治療を要する.
3)血管閉塞性ショック(obstructive shock):
主血流の物理的な閉塞により,末梢循環不全を生じる.疾患として,肺血栓塞栓症心タンポナーデ,緊張性気胸,左房粘液腫,妊娠子宮による下大静脈の圧迫によって生じる臥位低血圧症候群などがあげられる.原因となる閉塞を解除することが必要である.
4)血液分布不均衡性ショック(distributive sho­ck):
上記の異常は認めず,血液分布の異常によって生じるショックである.①体血管抵抗の減少,②血管透過性の亢進,③静脈系の拡張による前負荷減少に伴う1回拍出量の低下,が血圧低下の主因である.原因としては,敗血症やアナフィラキシー,神経性ショックなどがあげられる.
 敗血症性ショックは感染巣より血中に流入した細菌(おもにGram陰性菌)あるいは菌体成分により種々のメディエーターエンドトキシンサイトカイン)が産生され,血管平滑筋のATP感受性Kチャネルの活性化,一酸化窒素(NO)の産生亢進などにより末梢血管の拡張が起こり,有効循環血液量の低下をきたし血圧は低下する.初期は高心拍出量状態でいわゆるwarm shockであるが,ショック状態が持続すると,血管内皮障害により血管外へ血漿成分が漏出する.さらに末梢循環不全により乳酸の産生亢進によるアシドーシスが加わる.そのため心拍出量は低下しいわゆるcold shockとなる.重症化してくると,播種性血管内凝固症(disseminated intravascular coagulation:DIC)や急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)を引き起こし,さらに多臓器不全に陥る.
 アナフィラキシーショックは,Ⅰ型アレルギー反応を主とする血管拡張と血漿漏出による有効循環血液量の減少によって生じる.そのほかに喉頭浮腫や気道平滑筋収縮,じんま疹など全身症状が認められる.原因抗原としては,薬物やそばなど食物があり,直接作用するものとして造影剤や抗菌薬,麻薬などがあげられる. 神経原性ショックは,交感神経系が抑制または遮断されたことにより,血管への神経支配が障害され,血管が急激に拡張し,有効循環血液量の減少を生じるために起こる.原因としては,脊髄横断損傷や交感神経抑制薬の過剰投与,脳ヘルニアなどがあげられる.
第Ⅰ期:
代償性ショック(compensated shock) ショック初期において人体は,脳や心臓,腎臓などの重要臓器への血流を維持しようとする代償機構が働く.意識は清明であり,血圧は軽度低下,頻脈,頻呼吸を認める.
第Ⅱ期:
非代償性ショック(decompensated sho­ck) 代償反応が不十分のため,臓器灌流低下が認められる.そのため,意識障害や低血圧,乏尿も認める.
第Ⅲ期:
非可逆的ショック(irreversible shock)
 臓器灌流低下が持続したことによって,細胞壊死が生じ,多臓器不全が進行する.播種性血管内凝固症や急性尿細管壊死などの重篤な合併症が認められる.
臨床症状
 血圧低下に基づく臓器機能の低下や症状・徴候が認められる.一般的な臨床症状として,蒼白(pallor),冷汗(perspiration),虚脱(prostration),脈拍触知不能(pulselessness),呼吸不全(pulmonary deficiency)の5p徴候が知られている.
診断・治療
 収縮期血圧が90 mmHg以下であった場合,ショックか否かをまず診断する.ショック状態では臓器低灌流による症状や徴候が認められる.バイタルサイン(意識状態,血圧,脈拍,呼吸数,体温)や尿量,皮膚所見,末梢循環を把握する.具体的には,臨床的重症度分類(Tebaら,1992)(表5-3-7)やショックスコア算定法(金井ら,2001)(表5-3-8)が提唱されている.ショックスコアでは合計点が4以下ではショックではなく,5~10では中等度,11以上では重症のショックと判定する. ショック状態の改善と原因精査が直ちに必要なため,治療と診断を同時に進める.救急処置として気道確保や血管確保を直ちに行う.呼吸管理としては酸素投与を行い,NIPPVに切り替え,必要であれば人工呼吸器管理を行う.疼痛はモルヒネなどにより緩和させる. 病歴聴取として,心疾患の既往やアレルギーの有無,以前の血圧値,服用薬物,胸痛・息切れ・動悸などの既往の有無,吐血・下血・下痢・腹痛などの有無,感染症の可能性の有無,外傷・熱傷・妊娠の有無などを聴取する. 検査としては,血液や尿の生化学検査,動脈血液ガス分析,12誘導心電図,心エコー図,胸部X線撮影を行う.必要であれば,X線CTやCMR(cardiovascular magnetic resonance)検査も行う.
原因別治療
1)循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock):
循環血液量の評価が重要であり,パラメーターとして左室拡張末期径,下大静脈径がある.心エコー図を用いて評価する.左室拡張末期径は容積指標として信頼性があるが,個人差があるので注意が必要である.標準値は40~55 mmである.下大静脈径は標準値は10 mm前後であるが,吸気時に完全に虚脱するようであれば,循環血液量が不足していると判断してよい.三尖弁閉鎖不全では下大静脈径が拡張するので,注意を要する.中心静脈カテーテルを留置すれば,中心静脈圧が測定可能となる.標準値は5~10 cmH2Oであるが,圧の経時的変化で判断したほうがよい.Swan-Ganzカテーテルを留置すれば,肺動脈楔入圧も測定できる.さらに,混合静脈血酸素飽和度も測定でき,末梢循環不全の指標となる.以上を指標にしながら,輸液や輸血を行い,循環血液量が喪失している原因治療を優先させる.
2)心原性ショック(cardiogenic shock):
急性心筋梗塞に伴う場合は,緊急に心臓カテーテルによる再灌流療法を施行する.乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症や左室自由壁破裂,心室中隔穿孔などの機械的障害は緊急の外科的治療が必要となる.また,不整脈が原因である場合は,電気的除細動やペースメーカの適応となる.心筋炎や拡張型心筋症などによる低心拍出量によるショックであれば,カテコールアミンホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害薬を用いる.薬物療法で血行動態の改善が得られない場合,補助循環装置である大動脈内バルーンパンピング(intra-aortic balloon pumping:IABP)を用いる.ただし,IABPは,大動脈弁閉鎖不全症や,解離性大動脈瘤では禁忌である.さらに,効果が不十分のときは,経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)の併用や左心補助装置(left ventricular assist device)の適応を検討する.全身低体温療法(systemic therapeutic hypothermia)も試みられている. Swan-Ganzカテーテルを用いて心係数および肺動脈楔入圧を評価し,Forrester分類(図5-3-12)(早川ら,2006)により重症度を評価する.SubsetⅡであれば,利尿薬や血管拡張薬を投与し,SubsetⅢであれば,輸液を行う.SubsetⅣであれば,利尿薬や血管拡張薬に加え,強心薬や補助循環装置を用いて治療し,SubsetⅠの状態に何としても速く移行させることを目指す(Stegmanら,2012;Topalianら,2008;Reynoldsら,2008).
3)血管閉塞性ショック(obstructive shock):
急激な病態を呈する疾患が多いため,迅速な診断と治療を要する.治療の基本は原因となる閉塞の解除である.即ち,心タンポナーデであれば心囊ドレナージを,緊張性気胸であれば胸腔ドレナージを可及的速やかに施行する.
4)血液分布不均衡性ショック(distributive shock):
敗血症性ショックでは,初期に血管拡張や動静脈シャントによって血管抵抗が減少し,皮膚が温かく乾燥した状態(warm shock)を呈する.さらに進行すると,血管抵抗が上昇し,末梢循環不全が顕著化し,cold shockに移行する.感染源は外科的切除が可能な場合は,積極的に感染巣除去を行い,血液培養などの細菌検査を頻回に実施して,起因菌に感受性のある抗生物質を投与する.エンドトキシンに対しては,ポリミキシンB固定化カラムを用いたエンドトキシン吸着療法が試みられている.循環不全は輸液やカテコールアミン投与で対応する.
 アナフィラキシーショックでは,気道の確保と酸素投与,循環不全の改善が必須となる.喉頭浮腫や気道平滑筋収縮により気道狭窄がある場合は,アドレナリンを筋注する.喘息発作ではアミノフィリンステロイドを投与する.循環不全に対しては輸液やカテコールアミンで対応する.ショックの原因物質を使用していたら直ちに中止する. 神経原性ショックは循環不全への対応と原因に対する対応を要する.循環不全に対しては輸液やドパミンで治療する.徐脈には硫酸アトロピンやアドレナリンが有効である.ショックが持続すれば原因治療を必要とする.[和泉 徹]
■文献
Reynolds HR, Hochman JS: Cardiogenic Shock Current Concepts and Improving Outcomes. Circulation, 117: 686-697, 2008.
Stegman BM, Newby LK, et al: MD Post-Myocardial Infarction Cardiogenic Shock, Is a Systemic Illness in Need of Systemic Treatment. J Am Coll Cardiol, 59: 644–647, 2012.
Teba L, Banks DE, et al: Understanding circulatory shock. Postgrad Med, 91: 121-129, 1992.
Topalian S, Ginsberg F, et al: Cardiogenic shock. Crit Care Med, 36 (Suppl): S66–74, 2008.

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改訂新版 世界大百科事典 「ショック」の意味・わかりやすい解説

ショック
shock

ショックという言葉は,〈ショッキングな事件〉〈オイル・ショック〉など,日常生活でも広く用いられ,親しまれているが,医学的にはまだ未知の部分が多く,その治療についても多くの課題が残されている分野である。ショックの医学的な定義は,一言でいうと急性循環不全のことで,〈組織の血液の流れが悪くなって全身の必要酸素量が不足し,脳,心臓,肺,肝臓,腎臓など重要な臓器の機能が低下した状態〉といえる。ショックに至る原因として,古くから四つの要因が挙げられている。第1は循環血液量(体重kgの約1/12l)が急激に減少したため,組織の血流が悪くなるもので,たとえば出血,激しい下痢,火傷等で大量の体液が体外に流れ出たときなどにみられる。第2は心原性ショックといわれるもので,心臓はいわばポンプであるから,ポンプの異常のため送り出す血液量(心拍出量)が減少すれば組織の血流も障害される。心原性ショックとはこのポンプ機能に変調をきたしたもので,心筋梗塞(こうそく)でポンプの本体である心筋が大量に壊死に陥り,動きが悪くなったり,リズムに狂いを生ずる(不整脈)と,心拍出量は減少する。また心タンポナーデ(心囊内に大量の液体がたまって,心臓を外側から圧迫する状態)では,ポンプの容量が低下するためにポンプ内に血液が入りにくくなり,同時に外側からおさえつけられるので,動きにくくなって心拍出量は減少する。第3は重い感染を起こしたとき,たとえば敗血症等でみられるものであるが,敗血症からショックに移行する詳細な要因についてはまだよくわかっていない。重い感染症では,普通はショックになる前にすでに重要な臓器の働きに変化がきている場合が多く,糖尿病,肝硬変,癌の末期,栄養状態の悪いときなどにショックになりやすい。細菌によってはある種の毒素(エンドトキシン)を出し,この毒素によって細胞の壊死,出血,血管の収縮等の急激な全身性障害をきたすことがある。第4は血管壁の緊張が低下するため,循環血液が多量に末梢血管内にたまり,全体として循環する血液量が減少するもので,たとえば脊髄の損傷,脊椎麻酔のときなどにみられる。そのほか,起立性低血圧(いわゆる立ちくらみ)は,神経循環無力症という体質に基づくショック近縁状態のことがあり,強い恐怖等の精神作用が原因で失神する精神性ショック,上腹部を強打されたときに反射的に意識を消失する神経性ショック等もあるが,これらは生命に直接危険を及ぼすことはまれである。

 ショックの程度を表す最も良い基準は,心拍出量,末梢の血管抵抗,心機能の変化であるが,これらを簡単に知る目安としてはまず動脈血圧の低下があり,脈拍は弱く,速く,皮膚は蒼白で冷たく,冷汗をかき,また脳の循環不全の結果意識状態も正常ではなくなって,落着きがなくなり,あるいは失神する。また全身の循環不全であるから,先に述べたような生命の維持に必要な重要臓器の循環が悪くなるため,時間の経過とともに心不全,呼吸不全,肝不全,腎不全が進み,治療が遅れると各臓器不全のために死亡する。

治療は原因によって異なるが,できるだけ早期に始めることがたいせつであり,まずショックを改善しながらその原因の治療に当たる。出血が原因であれば第1に輸血を行う。循環血液量の30%が急速に失われればショックになるから,出血量に相当した量の血液を直ちに補いながら止血する。激しい下痢が続いているときにはリンゲル液等の輸液が適当である。心臓に原因があるときは,強心剤,利尿剤,抗不整脈剤等を急いで用いるが,薬剤の効果が不十分であれば機械による循環補助が必要である。心筋梗塞によるポンプ不全にはバルーンパンピング法intraaortic balloon pumpingといって,大動脈内に特殊の風船を挿入し,心臓の動きに合わせてバルーンを膨らませたりしぼませたりすることにより心臓の動きを助け,多大の効果を上げている。徐脈によるショックにはペースメーカーを用いる。感染が原因であれば,抗生物質を用いて感染菌を処理し,感染源が除きうるものであればこれを除去する。末梢血管の緊張が低下した場合には,血管収縮剤を使用する。いずれにしても,ある時期を過ぎて治療を行ったのではショックから回復できず,早期治療がきわめて重要である。
執筆者:

外的刺激によって生じたショック状態のもとに死亡することで,その原因により精神性,神経性,出血性,過敏症,中毒性,その他のショック死に大別される。精神性ショック死は,突発的な強い精神的衝撃,すなわち,暗やみで突然に声をかけられたり,近所で大爆発があったり,強い地震があった際などに,びっくりして死亡するものである。神経性ショック死は,〈急所〉といわれる頸部,みぞおち,睾丸,妊娠時の女性性器が外力により圧迫されたり打撲された際や,突然に高温や低温にさらされた際や,外傷や火傷で強い疼痛を生じた際や,胸膜や腹膜が機械的に刺激された際などに,ショックを起こして死亡するものである。出血性ショック死は失血死といわれるもので,外傷や大動脈瘤などの破裂で急激に,あるいは徐々に多量の出血が起こった際にみられる。過敏症ショック死はジフテリア血清や破傷風血清を2度目に注射された際や,ペニシリンなどの抗生物質,局所麻酔剤,ピリン系などの解熱鎮痛剤を注射されたり,服用した際や,ハチなどに刺された際などにショックを起こして死亡するもので,薬物によるショック死は薬物ショック死ともいわれる。中毒性ショック死は薬・毒物による中毒の際や,ジフテリアや破傷風に感染したり,敗血症の場合の細菌毒素による中毒の際や,マムシ,ハブなどの毒ヘビにかまれた際にみられるショック死である。

 その他のショック死としては外傷性ショック死,麻酔ショック死,手術ショック死,分娩ショック死,火傷ショック死といわれるものなどがある。外傷性ショック死のうち,受傷直後にショックによって死亡するものはほとんど疼痛などによる神経性ショック死であるが,交通事故やけんかや幼児虐待の場合に,全身に負傷し,数時間から1日でショックを起こして死亡するものがある。このうち,広範に筋肉が挫滅されて生じるものは挫滅症候群といわれる。麻酔ショック死は麻酔剤によって循環や呼吸の中枢あるいは末梢神経が麻痺して,ショック死するものである。手術ショック死は術中あるいは術後にショックにより死亡するもので,神経性ショック,出血性ショック,麻酔ショックなどが原因となっている。分娩ショック死は難産の分娩直後にみられるもので,手術ショックと同様な原因や精神性ショックによって死亡するものと考えられている。火傷ショック死のうち,火傷直後にショック死するのは,火傷に伴う疼痛による神経性ショックであり,数時間以上経過してショック死する場合は,火傷による二次的な障害によるものである。

 一般に,ショック死は精神的に興奮しやすい人,神経過敏な人,アレルギー体質や薬物に異常反応を示す特異体質などの体質異常のある人,心臓血管系,肝臓,腎臓,副腎機能に異常のある人,過労,睡眠不足,飲酒,精神不安など体調が正常でない人に起こりやすいとされている。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「ショック」の意味・わかりやすい解説

ショック

出血や細菌毒,心臓自体の病変,アナフィラキシー,薬物反応,精神的打撃などによりひき起こされる急性の末梢循環障害。組織細胞が低酸素状態に陥って,細胞代謝が障害され,顔面蒼白(そうはく),冷汗,頻(ひん)脈,脈拍微弱,血圧低下,呼吸抑制,不安,意識障害などの症状を示す。原因によりいろいろに分類されており,その病態も複雑である。神経性要因がおもなものは一次性ショックといわれ,多くは一過性である。出血などのため循環血液量が減少して起こるものは二次性ショックと呼ばれ,手術後などに起こるものはこれで,治療上重要である。その他,心臓に直接原因のあるものは心原性ショックと呼ばれる。ショック症状を呈する患者に対しては直ちに頭部を下げさせ,酸素吸入,強心剤の投与などの処置を行い,特に二次性ショックでは輸液,輸血を早急に行うことが大切である。その他,血圧上昇剤,副腎皮質ホルモンの投与なども適宜行われる。
→関連項目虚脱骨折失血心臓マッサージ心不全特異体質貧血輸血ラッサ熱

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ショック」の意味・わかりやすい解説

ショック
しょっく
shock

多彩な原因が血行動態に強く作用することによって、全身の血液循環が急性に障害された状態をいい、とくに重要臓器や組織の末梢(まっしょう)微小循環に障害がおこると病的状態となる。ショックは、その病像の多彩さのゆえに、古くからさまざまな分類がなされてきているが、そのおもなものを列記すれば次のとおりである。デービスH. Davisは1957年、発生機転から、血液原性ショック、神経原性ショック、血管原性ショック、心原性ショックの四つに分け、ムーアF. Mooreは59年、臨床的な原因から、出血性ショック、創傷性ショック、手術性ショック、敗血症性ショックの四つに分け、マクレーンJ. Mcleanは72年、血行力学的診断を基に、低血量性ショック、心原性ショック、末梢のプーリング(うっ血)、細菌性ショックなどに分けた。

 ショックが発生すると、まず交感神経系緊張、細動脈収縮の状態がおこり、しだいに中枢神経、心、腎(じん)、肺などの機能障害を伴ってくる。また、感染性ショックの場合には、ショック状態発生前後に、心拍出量増大、代謝亢進(こうしん)の状態を認めることが多い。ショック症状としては、めまい、失神、無感動、虚脱などがあり、ショックの原因や誘因となった所見(出血、外傷など)も認められる。また、他覚的徴候としては、皮膚の蒼白(そうはく)、精神の不安状態、発汗、反射遅延がみられ、さらに、血圧低下と脈圧減少、脈拍の頻数微弱、呼吸数の増加、ついで減少、体温低下、四肢厥冷(けつれい)、毛細血管の再充満遅延、筋力低下、反射遅延などがみられる。

 ショックの診断の際には、ショックを発生する諸原因(出血、脱水、外傷、心疾患、感染、過敏症、薬剤投与、内分泌機能、血管疾患など)を問診や病状経過などによって推測し、ついで、侵襲に対して、生体が前述のような反応を惹起(じゃっき)することを推測することが必要である。ショック状態が完成すれば、皮膚の蒼白チアノーゼ、四肢の厥冷、精神不安、冷汗、脈拍の頻数微弱、血圧の低下、脈幅の減少、反応低下、尿量減少などの所見がみられる。また、このような顕著なショック症状がおこってから処置を加えても、生命を救うことは容易でない。むしろ、生体に加えられた侵襲の大きさと種類、生体の初期の反応(いわゆるショック前状態)などから事前にショック発生を予測し、適正な処置を加えることが望ましい。

[船尾忠孝]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ショック」の意味・わかりやすい解説

ショック
shock

定義づけは困難であるが,重要臓器の急性末梢循環不全または酸素の利用不全を伴う症候群とでもいうべきものをショックという。原因別に出血性ショック,外傷性ショック,心性ショック,敗血症性ショックなどに分けられる。おもな症状は血圧低下,皮膚蒼白,頻脈あるいは徐脈,口渇,冷汗,体温低下,呼吸異常,意識障害など。治療には原因の除去が重要であるが,輸血や輸液,強心剤,抗生物質,ステロイド剤などの投与,気道の確保,酸素吸入といった救命処置も必要である。

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世界大百科事典(旧版)内のショックの言及

【傷】より

…前者には,傷内に存在する異物,感染の併発,圧迫などによる血流の障害などがあり,後者には,背景に低栄養状態や低酸素血症,ビタミン欠乏症,糖尿病,心臓病,腎臓病などの全身性疾患が存在したり,副腎皮質ホルモン,抗腫瘍剤の投与や放射線照射などを受けている状態の場合がある。(2)ショック 外傷に対する全身の反応のうち,おもなものは外傷性ショックである。ショックとは,端的にいうと血液の循環状態が悪くなることであり,その原因はさまざまである。…

※「ショック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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