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分子軌道法 ぶんしきどうほうmolecular orbital method

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

分子軌道法
ぶんしきどうほう
molecular orbital method

MO法と略記する。量子力学的に分子の電子状態を解明するのに用いられる近似理論であり,R.S.マリケン,W.ヒュッケルによって確立された。分子の電子状態はシュレーディンガーの波動方程式によって解明できるはずであるが,複雑な分子においては完全な解明は不可能であり,なんらかの近似理論が必要である。この要請にこたえるものとして W.ハイトラーと F.ロンドン,J.C.スレーターと L.C.ポーリングによる原子価結合法 (VB法) があり,次いで現れたのがこの MO法である。この原理は分子全体に広がるオービタルを各電子が運動していると考えるもので,複雑な分子の取扱いが VB法よりも容易なため,近年大きく発展した。特に複雑な有機化合物を取扱う場合には,π電子だけの分子軌道の情報を引出す方法として電子近似法があり,最も単純なものとしてヒュッケルの MO法がある。さらに近似を進めたものに拡張ヒュッケル法,SCF法などが知られており,電子計算機の発展のため手軽に計算ができるようになった。現在では MO法は量子化学の基礎となる理論であるばかりでなく,それから得られる電子状態の情報は反応・構造有機化学者にとって必須のものである。

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百科事典マイペディアの解説

分子軌道法【ぶんしきどうほう】

分子中の電子の状態(分子軌道)を量子力学的な計算によって求め,その分子の構造や化学反応などに関する特性を理論的に調べる量子化学の手法。ふつう,分子を構成する各原子の電子波動関数(原子軌道)をもとに,重ね合わせの原理を用いて近似されることが多い。
→関連項目ホフマン

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世界大百科事典 第2版の解説

ぶんしきどうほう【分子軌道法 molecular orbital method】

MO法と略称され,分子軌道関数法ともいう。分子の電子状態を取り扱う量子化学の理論的方法の一つ。分子軌道法では,分子内の電子が一般に,分子を構成するすべての原子の周囲に広がった電子軌道にはいっていると仮定する。上に述べたような電子軌道を分子軌道という。水素分子を例にとって,この方法の基本的性格を説明すると次のようである。水素原子は1s軌道に1個の電子をもっている。したがって,水素分子H2は合計2個の核外電子をもつことになるが,分子軌道法では,2個の水素原子核の周囲に広がった分子軌道にそれらの電子がはいっているものと考える。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

分子軌道法
ぶんしきどうほう
molecular orbital method

分子の中の電子の状態を明らかにする理論計算法の一つ。普通、略してMO法ともHMH(Hund-Mulliken-Hckel)法ともいい、また分子軌道関数法ともいう。分子内の電子はどうして化学結合を形成するかの理論は、歴史的にはドイツのハイトラーとアメリカ(ドイツ生まれ)のF・ロンドンの導いた原子価結合法(valence-bond method、略称VB法、原子軌道関数法ともいう)である。
 MO法においては電子の波動関数を分子全体に広がった関数ととるので(これをMO、分子軌道関数という)この名がある。別の表現を用いると「融合原子核」方式といい、電子が融合原子核の周りを動くと考えた波動関数を採用する。水素分子を例にとり、VB法とMO法を比較すると、VB法では水素分子に対する波動関数を、
  Ψ=ΨA(1)ΨB(2)+ΨA(2)ΨB(1)
ととるのに対し、MO法では、
  Ψ={ΨA(1)+ΨB(2)}
         {ΨA(2)+ΨB(1)}
ととる。したがってMO法ではΨA(1)ΨA(2)と、ΨB(1)ΨB(2)のようなイオン項が含まれている。ハミルトニアン(量子力学においてシュレーディンガーの波動方程式に用いる演算子)は、VB法でもMO法でも等しく、また両方法とも二つのエネルギー値が求められる。そのうち、一方が結合軌道、他方が反結合軌道であり、水素分子の形成が量子力学によって説明された。
 ドイツのヒュッケルは、共役二重結合をもつ化合物について、そのπ(パイ)電子をMOにとり、紫外吸収スペクトルの測定値を説明することに成功した。π電子にのみ注目したMO法は、単純ヒュッケル法(HMO法)とよばれる。今日、これにσ(シグマ)電子を加えたり、波動関数を修正したりしてさまざまのMO法が開発されている。CNDO法(complete neglect of differential overlap)、INDO法(intermediate neglect of differential overlap)などがその例である。
 MO法により、分子内の電荷密度、結合次数、自由原子価などが求められ、炭素化合物の反応性、立体配座などが理論的に説明できるようになった。また、分子の励起状態を計算から求め、蛍光、リン光の機構の説明、反応中間体の分子構造も理論的に予測することもできるようになりつつある。[下沢 隆]
『原田義也著『基礎化学選書12 量子化学』(1978・裳華房) ▽米沢貞次郎他著『量子化学入門』上下(1983・化学同人) ▽藤永茂著『入門 分子軌道法――分子計算を手がける前に』(1990・講談社) ▽広田穣著『化学新シリーズ 分子軌道法』(1999・裳華房) ▽武次徹也・平尾公彦著『早わかり分子軌道法』(2003・裳華房) ▽平山令明著『実践 量子化学入門――分子軌道法で化学反応が見える』(講談社・ブルーバックス)』

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世界大百科事典内の分子軌道法の言及

【化学結合】より

…この理論は,化学者の経験から導かれた原子価の概念や分子構造式との対応がよく,原子価結合法として発展した。 この原子価結合法に対してもう一つの理論として,電子は分子全体に広がる軌道(分子軌道)の上を運動するとして扱う分子軌道法がその後導入された。この方法では分子軌道の波動関数φを構成原子の波動関数の一次結合で近似することが多い。…

【原子価結合法】より

…この理論では,分子内の価電子は個々の原子に固有な原子軌道に属している状態に近いものと考えられるので,この理論は原子軌道法atomic orbital method,略してAO法とも呼ばれている。これに対し,分子軌道法(MO法)では,価電子は個々の原子軌道から離れて,分子全体に広がる分子軌道に属していると考えることから出発している。 VB法で水素分子の結合機構を説明すると,つぎのようになる。…

【有機化学】より

…相次いで導入された質量分析法,核磁気共鳴スペクトル法が有機化学者の強力な武器となり,有機化学の飛躍的な発展の原動力となった。それより先,ヒュッケルErich Armand Arthur Joseph Hückel(1896‐1980)は分子軌道法を有機化学に導入した。ヒュッケル分子軌道法はきわめて粗い近似を用いたものではあったが,それまで水素分子といったごく簡単な分子にしか適用できなかった量子力学を有機化学の世界に持ち込んだ点に画期的な意義がある。…

※「分子軌道法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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