スゲ(英語表記)sedge
Carex

改訂新版 世界大百科事典 「スゲ」の意味・わかりやすい解説

スゲ (菅)
sedge
Carex

菅笠を編むカサスゲやたまに庭に植えるカンスゲを含むカヤツリグサ科スゲ属植物の総称で,植物学的にスゲと呼ぶ特定の種はない。

 多年草で,地中に長い地下茎を出すものもあるが,細い葉と花茎が密に叢生(そうせい)して株を作る方が多い。葉はおおむね根生し,多数あり,細い線形で,硬いものが多く,縁は細い鋸歯があってざらつく。花茎は細く,初夏のころ,葉の間にあらわれ,その中部から上部にかけて葉状の苞があり,苞の腋に小穂をつける。小穂は原則として数個で,総状に並び,単性で,頂の小穂に雄花が,側小穂に雌花がつく。雄花は鱗片に守られた3本のおしべのみ,雌花は1本のめしべのみからなり,果胞と呼ぶつぼ形の袋に入って,めしべの柱頭だけが袋の先の小孔から出ている。果胞とそれを守る雌の穎(えい)が密に並んで雌の小穂を作っている。花序における小穂の並び方,雄花と雌花の分布,果胞の形がスゲの種の同定と分類に重要である。

 スゲ属Carexはカヤツリグサ科の中では最大の属で,世界中に約1800種も知られ,アジアと北アメリカに最も種が多く,アフリカと南アメリカに少ない。原始的な形をしたスゲと,スゲ属に近縁でさらに原始的なヒゲハリスゲ属Kobresiaヒマラヤ山地,中国南部と東南アジアに多く見られ,スゲの起源はこのあたりにあると見られる。

 カンスゲC.morrowii Boottは,美しく,最も普通の形をした日本特産のスゲで,福島県以西,九州までの主として太平洋側の山林に生える。幅1cmくらいの硬い濃い緑の葉と,高さ30cmほどの細い花茎が密生し,茶色の雄小穂1個と,黄緑色の雌小穂5個くらいがある。葉に白い斑のある品種がシマカンスゲで,植えて観賞する。カサスゲC.amplifolia Boott ssp.dispalata(Boott ex A.Gray)T.Koyama et Calderは北アメリカ西海岸の基本変種から隔離分布をした東アジアの亜で,湿地に生え,地下に長くはった根茎がある。円柱形の小穂4個くらいが総状に並ぶ。長い葉を刈り取って干し,菅笠や簑を編む。雨合羽の普及する以前には農村で菅笠や簑の需要が多く,石川県,三重県,千葉県等の沼田に植えられたこともあった。

 変わった形のスゲについて記すと,タガネソウC.siderosticta HanceやササノハスゲC.pachygyna Fr.et Sav.では葉が線形でなく,幅2cm余りの披針形をしているので,鏨(たがね)や笹の葉に見立ててこのような名前がついた。小穂が減りただ1個になって,槍のように茎の頂についた形となったものがハリスゲC.onoei Fr.et Sav.,シラコスゲC.rhizopoda Maxim.等である。逆に小穂の数が非常にふえて,花序が総状でなく,円錐状をしている大型のスゲが熱帯に多い。日本では九州に見られるジュウモンジスゲC.cruciata Wahlenb.がその例である。また,マスクサスゲC.gibba Wahlenb.やヤブスゲC.rochebrunii Fr.et Sav.では小穂に柄がなく,花序は穂状になっている。スゲは普通,初夏に花の咲く植物であるが,葉が硬く鋸歯が鋭く,菜を切るほどというナキリスゲC.lenta D.Donや伊勢神宮にちなむジングウスゲC.sacrosancta Hondaでは秋に花が出る。スゲはみな多年草であるが,富士山ろくの山中湖にあるカヤツリスゲC.cyperoides Murr.はまれに見る一年生の例である。

 生態的に見るとスゲはあらゆる生態条件下に見られるが,カサスゲのように湿地に生えるスゲはたいへん多く,山の渓流に沿って見るナルコスゲC.curvicollis Fr.et Sav.では,細い柄をもった円柱形の小穂が垂れ下がり鳴子を思わせるが,同じ鳴子形の花序をもち,葉の鋸歯が手を切るほど鋭いというテキリスゲC.kiotensis Fr.et Sav.は山中の湿地に,ゴウソC.maximowiczii Miq.は水田あぜに多い。アゼスゲC.thunbergii Steud.,カワラスゲC.incisa Boott,大きな果胞をもったオニスゲC.dickinsii Fr.et Sav.,ウマスゲC.idzuroei Fr.et Sav.等みな湿地生である。

 丘陵地の林の中にもスゲは多い。最も普通のアオスゲC.breviculmis R.Br.やシバスゲC.nervata Fr.et Sav.は林下草地に生え,やや湿った林床には《万葉集》に出てくるシラスゲC.japonica Thunb.ssp.alopecuroides T.Koyamaがある。このスゲは高さ70cmくらい,葉の裏面が粉白色で,日本からヒマラヤまで分布する。乾いた林下には鱗片が濃い紫褐色で美しいヒカゲスゲC.lanceolata Boottや,東京・池上の本門寺にちなむホンモンジスゲC.pisiformis Boott,山地の広葉樹林下には美しいタマツリスゲC.filipes Fr.et Sav.,ミヤマカンスゲC.dolichostachya Hayata ssp.glaberrima T.Koyama等が見られる。

 海岸のスゲとしては,カンスゲを一段と大きくしたようなオニヒゲスゲC.wahuensis C.A.Meyerssp.robusta(Fr.et Sav.)T.Koyamaがハワイから日本,台湾まで分布する。また砂浜のコウボウムギやコウボウシバ,塩性湿地に生えて,その長い葉でクグ縄という縄をなうシオクグC.scabrifolia Steud.がある。

 高山にもスゲは多い。高層湿原に生えるスゲには美しいヤチスゲC.limosa L.や細くとがった果胞が放射状に並んだミタケスゲC.michauxiana Böcklr.ssp.asiatica T.Koyamaがあり,岩場には小穂の色や形の美しいスゲも多い。たとえば濃褐色でふさふさした楕円形のタヌキの尾の感じの小穂をつけるタヌキランC.podogyna Fr.etSav.と,それを小型にしたコタヌキランC.doenitzii Böcklr.やミヤマアシボソスゲC.scita Maxim.,褐色で細い小穂のイワスゲC.stenantha Fr.et Sav.等がある。スゲ類は分布が狭く,生態的にもすみ分けがはっきり決まっていて,雑草化しているものは一つもない。

 スゲ属Carexは種数も多く,普通にみられる植物であるが,その狭長な葉をカサスゲのように繊維原料として利用するほか,斑入りの葉をもつ一部の種が観賞用にされることを除くと,ほとんどの種は現在,未利用である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スゲ」の意味・わかりやすい解説

スゲ
すげ / 菅
[学] Carex

カヤツリグサ科(APG分類:カヤツリグサ科)スゲ属植物の総称。非常に大きな群で全世界に約2000種ほど知られ、東アジアと北アメリカに多い。日本には210種ほど自生する。葉や稈(かん)はイネ科植物に似て、イネ科とよく混同されるが、普通は稈は三稜(さんりょう)形で稈の内部は詰まり、葉は根生する。花は単性で鱗片(りんぺん)の腋(えき)につき、花被(かひ)はない。雄花は3本の雄しべからなり、雌しべは果胞とよばれる壺(つぼ)状の器官に包まれる。縁(へり)が合着せず果胞が壺状にならなかったり、一部合着するものは、ヒゲハリスゲ属Kobresiaとして別属にされる。小穂は多数の花が螺旋(らせん)状に配列したもので、多くの種では雄小穂と雌小穂に分かれている。マスクサ、ナキリスゲ、ハナビスゲ(ジュウモンジスゲ)などでは一つの小穂に雄花と雌花がつく。いずれにしてもスゲ属植物は雄花と雌花が同一個体につく雌雄同株であるが、コウボウムギ、エゾノコウボウムギ、ヤリスゲ、カンチスゲは雌雄異株である。円錐(えんすい)花序で頂部に雄花、基部に雌花からなる小穂をつける群は熱帯アジアに多く、もっとも原始的な群である。日本ではハナビスゲ(ジュウモンジスゲ)やアブラシバが知られている。カンスゲやアオスゲは単性の小穂が総状に配列し、頂小穂は雄花からなる。日本のスゲの多くはこの群に属している。マスクサでは花序はさらに単純化して穂状花序となり、花序中に雄花と雌花がつく。スゲ属植物のなかではもっとも進化した群と考えられ、日本に約二十数種知られている。

 スゲはイネ科に比べ利用度が少なく、笠(かさ)や蓑(みの)、縄などをつくるのに利用されるにすぎない。地方によって使われる種は違うが、福島県只見(ただみ)地方ではカサスゲで笠を、ミチノクホンモンジスゲで蓑をつくる。斑(ふ)入りのものは庭に植えられ観賞用にされるものも多い。また家畜の好飼料になるものも多い。現在では人間の生活にはあまり縁がないが、古代日本社会では田の神の宿る植物としてたいへん神聖視された。菅(すげ)と清(すが)は同じ語源に由来するといわれる。『万葉集』ではスゲはハギ、アシに次いで多く49首も詠まれている。

[木下栄一郎 2019年7月19日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スゲ」の意味・わかりやすい解説

スゲ(菅)
スゲ
Carex; sedge

カヤツリグサ科の多年草で,スゲ属の総称。種類はきわめて多く,温帯から寒帯まで広く分布し,特に北半球の冷温帯から寒帯や高地にかけて 2000種もある。山地,草原,路傍などいたるところに生え,日本では約 200種が知られている。多くは根茎が発達し,地上茎 (稈) は断面が三角形で,その各面に茎葉をもつので,真上から見ると葉が3列に並ぶ。花期に線状の葉間から,花茎を伸ばし穂をつける。普通上方には雄花穂,下部には雌花穂がつく。雄花はおしべ3本,雌花は壺状の果胞の中にあるめしべ1本から成り,いずれも花被を欠く。同属の1種カサスゲ C. dispalataは高さ 1mに達し,笠,みの,むしろ,草履などをつくるため栽培される。ときに,この種を単にスゲと呼ぶこともある。またカンスゲ C. morrowiiは葉の繊維が強く,背負い籠などを編むのに用いられる。

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百科事典マイペディア 「スゲ」の意味・わかりやすい解説

スゲ

カヤツリグサ科スゲ属の総称で,多くは多年草。一般に細長い葉を根生し,茎の上方に穂状,総状または円錐状に小穂をつける。小穂は雌雄の別があって,ふつう頂小穂に雄花が,側小穂に雌花がつく。花被はない。雌花は葉の変成した果胞(果嚢)と呼ぶ袋に包まれ,中にはただ1個の子房があり痩果(そうか)を結び,花柱は果胞の先端の穴から突出する。海岸から高山までいたるところに生育するが,特に湿地に多い。全世界に分布し,約2000種。日本には200種弱が知られる。葉を蓑(みの),菅笠(すげがさ)などとするほか,まれに観賞用ともする。古くはこれに似た,葉の長い植物もスゲといった。

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