日本大百科全書(ニッポニカ) 「ストックオプション制」の意味・わかりやすい解説
ストックオプション制
すとっくおぷしょんせい
stock option plan
役員や従業員に対して、一定の数量の自社株を、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で、特定の期間内に購入する権利を付与する制度。法的には新株予約権の一種と位置づけられ、一般的なストックオプションの権利行使形態はアメリカン型のコール・オプションに区分される。
元来はアメリカで普及していた制度であり、日本には1997年(平成9)に導入された。2019年(令和1)7月以降は、付与対象者が一定の要件を満たす外部協力者(弁護士、コンサルタントなど)にまで拡大されている。
ストックオプションが付与された場合、行使期間内に株価が行使価格を上回れば、権利行使して株式を購入しただちに売却することで株価と権利行使価格との差額が利益となる(諸費用は無視する。以下同じ)。権利行使は義務ではないから、もし株価が権利行使価格を下回っていても、そのまま放置していれば損失を被ることはない。つまり、リスク負担はいっさいなく、業績が向上し株価が上昇すれば自らの利益にもなることから、ストックオプションを受けた社員の士気向上が期待される仕組みとなっている。会社にとっては、優秀な人材の流出防止(権利行使前に転職するのは損だから)や高額な人件費の抑制(優秀な社員にストックオプションで報いる)などのメリットもある。
当初のストックオプションでは、(1)権利行使時点の株価が行使価格を上回っているとその差額が給与所得とされ所得税が課せられた。さらに、その後に株価が上昇し、(2)株式を売却すると売却時株価と権利行使時株価との差額にも所得税が課せられていた。すなわち、2回の納税が求められる煩雑さに加え、(1)では利益を得ていない段階での課税であり不合理であった。そこで1998年度(平成10)の税制改革により税制適格ストックオプションが導入され、一定の要件をクリアすれば株式売却時にのみ、売却時株価と権利行使価格との差額に対して課税されるよう簡略化された。一定の要件とは、無償ストックオプション(付与対象者は無償で権利を得る)であること、行使価格が付与時の株価以上であること、などである。
一方、税制非適格の代表例に株式報酬型ストックオプションがある。これは俗に1円ストックオプションともよばれ、権利行使価格を極端に低く設定したもので、退職金の形で扱われることが多い。このほか、発行したストックオプションを信託するかたわら付与対象者にはポイントを与え、信託終了時にポイントとストックオプションを交換する信託型ストックオプションの形態もある。
ストックオプションを巡っては、(1)将来に株価上昇が見込まれないような企業は導入してもあまり意味がない、(2)ストックオプションの付与を際限なく行えば、発行済株式数の増加により株式の希薄化を招く、(3)ストックオプション付与の基準を明確化しないと公平性が保てずかえって従業員のモチベーションを低下させかねない、などいくつかの留意点もある。
しかし、付与対象者にはリスクなしに利益機会が与えられ、会社にも経済的負担がかからない点は優れた制度といえる。制度面の整備が進んだこともあり、ストックオプション制度は、日本においても普及・定着している。
[高橋 元 2021年12月14日]