改訂新版 世界大百科事典 「セキレイ」の意味・わかりやすい解説
セキレイ (鶺鴒)
wagtail
スズメ目セキレイ科の鳥のうち,セキレイ属Motacillaおよびイワミセキレイ属Dendronanthusに属する鳥の総称。セキレイ科Motacillidaeはこれらのセキレイ類およびタヒバリ類よりなり,後者は南極を含む全世界に3属約34種がいる。
セキレイ類は全長18~22cm。みなほっそりした体つきの鳥で,細いくちばしと長い尾が特徴。羽色は白黒を主とし,種によっては頭部や下面が黄色い。世界にセキレイ属10種,イワミセキレイ属1種が分布する。草原,原野,河原,湖畔,林縁や渓流など比較的開けた場所にすみ,しばしば水辺を好み,地上を走ったり歩いたりしながら主として小型の昆虫類を食べている。脚はじょうぶで,あしゆびとつめ(とくに後趾とそのつめ)は長い。飛ぶときには波状に飛行し,地上ではたえず尾を上下に(イワミセキレイは左右に)振る習性がある。巣はわん形でほとんどの種が土手のくぼみや石の下,屋根の下などにつくるが,イワミセキレイは樹枝の上に営巣する。卵は白色か薄いピンクに細かな斑点のあるものが多い。1腹の卵数は2~7個。抱卵期間と育雛(いくすう)期間はそれぞれ15日前後である。抱卵と育雛は雌雄交替で行う。
セキレイ類の分布域は旧世界で,主として旧北区を中心に生息している。しかし,近年ハクセキレイとツメナガセキレイは新大陸にも分布を広げ,アラスカの一部でも繁殖している。日本では,キセキレイ,ハクセキレイ,セグロセキレイ,ツメナガセキレイ,イワミセキレイの5種が繁殖し,キガシラセキレイがまれに渡来する。
キセキレイM.cinereaは背面青灰色で白い眉斑があり,下面は黄色い。雄は繁殖期にのどが黒くなる。低山帯から高山帯までの山地の急流や,低地の清流などにすんでいる。国内では漂鳥で,冬季には市街地の水辺でも珍しくない。ピッピッと澄んだ声で鳴く。アフリカおよびマダガスカル島には近縁の数種が分布している。
ハクセキレイM.albaは後頭部から背にかけて黒色ないし灰色,胸が黒い。額と顔は白く,黒い過眼線がある。湿地,海岸,河原などにすみ,繁殖期以外は群れをつくっている。とくにねぐらは集団でとる。キセキレイよりやや濁った声でピピッと鳴く。以前は本州北部以北の海岸で少数が繁殖していただけであったが,近年繁殖地を南へ,また内陸部にも広げている。一方この種の亜種のホオジロハクセキレイM.a.leucopsisが,最近本州南西部と九州で繁殖するようになった。日本特産種のセグロセキレイM.grandis,インドのオオハクセキレイM.maderaspatensis,アフリカに広く分布するアフリカハクセキレイM.aguimpなどはハクセキレイの近縁種で,比較的新しい地質時代に分化したものと考えられる。
ツメナガセキレイM.flavaは頭上が灰青色で,腹が黄色い。ユーラシア大陸に広く分布し,羽色の変異に富み,多くの亜種に分けられている。日本では北海道北部の草地で繁殖しているが,渡りのとき通過するものも多い。キガシラセキレイM.citreolaは頭部と下面が鮮やかな黄色。ユーラシア大陸の中央部に分布する。
イワミセキレイD.indicusは背面がオリーブ褐色で,胸に2条の黒帯がある。シベリア南部,沿海州,中国北部で繁殖し,冬季には南アジアに渡る。西日本でときどき繁殖する。
執筆者:長谷川 博
せきれい
箏・尺八(1尺6寸管)伴奏の歌曲。1921年宮城道雄作曲。歌詞は北原白秋の詩で2節より成り,セキレイ(鶺鴒)の飛び交う山間の渓流の情景を描く。曲は軽快なリズム感の3/4拍子,有節形式で前奏・間奏・後奏がある。器楽部分の速い手が急流のせせらぎの流動感をよく表し,また,歌,箏,尺八の各パートに多用されたスタッカートが尾を振りながら跳びまわるセキレイの躍動感を巧みに表して,情景描写に優れた曲である。形式,技法,曲風などさまざまな面でそれまでの邦楽曲になかった新味を出した作品で,小品ながら宮城の傑作の一つに数えられている。
執筆者:上参郷 祐康
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報