セクシュアル・ハラスメント

百科事典マイペディアの解説

セクシュアル・ハラスメント

性的いやがらせ〉のこと。略して〈セクハラ〉とも。性暴力の一つ。どこででも起こりうるが,教育機関や企業の職場でのセクハラが問題とされることが多い。昇進などを見返りとして性的な要求をしたり,身体的接触や卑猥なことばなどによって相手に不快な思いをさせることなどをいう。被害者のほとんどが女性。教師や上司からセクハラを受けても被害者は周囲に言いづらく,精神的に非常に深い傷を負うことになる。米国では法的な保護としてガイドラインが定められている。日本でも1991年に〈性的いやがらせの防止に関する法律案要綱〉が作成されたことなどにより,これまで表面化することのなかったセクハラが社会的に知られるようになり,訴訟が増えている。企業でもビデオ教育などが徐々に行われ始めたが,1996年4月には米国三菱自動車製造が女性従業員に対するセクハラならびに性差別を放置したとして米国雇用機会均等委員会によって訴えられた。また大学でのセクハラ防止のため1997年9月に〈キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク〉が発足。1998年3月には労働省が《セクシュアル・ハラスメント防止の指針》を公布するなど,取り組みは徐々に進んでいる。
→関連項目男女共同参画会議男女別学

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

セクシュアル・ハラスメント
せくしゅあるはらすめんと
sexual harassment

性的嫌がらせのこと。とくに問題とされているのは、職場において男性の上司などから女性が性的言動の対象とされ、不利益や悪影響を受ける場合である。性的関係を迫られて拒否すると解雇・左遷されるなど不利益を受けるタイプが「脅迫型」または「代償型」、噂(うわさ)などによって、職場で働きにくくなるなど悪影響を受けるタイプが「環境型」とよばれている。1980年ごろから、女性の尊厳・人権を侵害する重大な問題であるとして社会問題化しており、日本では「セクハラ」と略されて広く使われるようになった。1999年(平成11)4月からは、改正「男女雇用機会均等法」の施行によってその防止が事業主に義務づけられた。
 アメリカでは1970年代なかばから、被害を受けた女性が続々と裁判を起こしている。その先頭にたったのは、アメリカ連邦環境保護局事務員のP・バーネスで、1974年コロンビア特別区連邦地裁では敗訴したが、1977年控訴審で勝訴した。また、日本企業の子会社である米国三菱自動車製造(MMMA)は、アメリカ政府機関の雇用機会均等委員会Equal Employment Opportunity Commission(EEOC)から、長年の間女性従業員へのセクシュアル・ハラスメントを放置していたとして、1996年に公民権法違反で提訴され、1998年には3400万ドルの和解金を支払った。日本では、福岡市の出版社編集部員が上司からことばによる性的嫌がらせを繰り返し受けたうえ、退職を強要されたと福岡地裁に1989年提訴し、1992年勝訴した。これは日本初のセクシュアル・ハラスメント裁判であり、以降全国でセクシュアル・ハラスメントに関する訴訟が続発した。日本中で大きく報道されたのは、横山ノック(本名山田勇。1932―2007)が、1999年4月の大阪府知事選で選挙運動中に運動員の女子大生に猥褻(わいせつ)行為をしたとする事件である。横山ノックは強制猥褻罪で起訴され、同年12月民事訴訟において全面敗訴し、府知事を辞任、翌2000年(平成12)、刑事訴訟においても有罪が確定した。
 裁判以外にも、性的嫌がらせ対策が進展している。アメリカのEEOCは、1980年に制定した「性による差別に関するガイドライン」のなかでセクシュアル・ハラスメント対策を取り上げた。また、1985年には、「国連婦人の10年」ナイロビ世界会議(第3回世界女性会議)で採択された「ナイロビ将来戦略」、国際労働機関(ILO)第71回総会で採択された「雇用における男女の均等な機会および待遇に関する決議」でも取り上げられた。日本では、1991年に第二東京弁護士会が「雇用の分野における性的嫌がらせ防止法」を提案するなど、立法化を求める運動が展開された。1997年の男女雇用機会均等法の改正では、雇用主に対してセクシュアル・ハラスメント防止に関する配慮義務が規定された。それに基づいて、労働省(現、厚生労働省)、経営者団体、労働組合などが具体的なセクシュアル・ハラスメント防止のガイドラインやマニュアルを作成するなど、対策が進められた。さらに2007年4月に施行された改正法では、それまで女性に限られていた保護対象が男性にまで拡大され、また事業主には従来の「配慮義務」よりもさらに強化された「措置義務」が課せられることになった。
 一方、職場以外でのセクシュアル・ハラスメントも問題となっている。大学・大学院内では、教授による教職員や学生に対するセクシュアル・ハラスメントが顕在化している。これらはキャンパス・セクシュアル・ハラスメント(またはアカデミック・ハラスメント、略称アカハラ)とよばれ、1990年代前半ごろから訴訟が多発し、防止対策が進められている。1997年には「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」が発足し、問題解決のための諸活動を行っている。また、教員による小学生・中学生・高校生を対象としたスクール・セクシュアル・ハラスメントも各地で頻発し、各教育委員会がガイドラインを作成するなど、対策を講じている。[山手 茂]
『山田秀雄著『企業人のための「セクハラ講座」――弁護士が教えるトラブル回避法』(1993・プレジデント社) ▽渡辺和子・女性学教育ネットワーク編著『キャンパス・セクシュアル・ハラスメント――調査・分析・対策』(1997・啓文社) ▽キャサリン・A・マッキノン著、村山淳彦監訳『セクシャル・ハラスメントオブワーキング・ウィメン』(1999・こうち書房) ▽萩原玉味監修・著、宮田加久子・渋谷秀樹・上野千鶴子・加藤秀一・角田由紀子・京藤哲久著、明治学院大学立法研究会編『セクシュアル・ハラスメント――キャンパスから職場まで』(2000・信山社出版) ▽山田省三著『セクシュアル・ハラスメントと男女雇用平等――これだけは知っておきたい労働法』(2001・旬報社) ▽吉川英一郎著『職場におけるセクシュアル・ハラスメント問題――日米判例研究 企業法務の視点でとらえた雇用主の責任と対策』(2004・レクシスネクシス・ジャパン、雄松堂出版発売) ▽青木孝監修『セクシュアルハラスメントをしない、させないための防止マニュアル』(2007・小学館) ▽山田秀雄・舟山聡著『セクシュアル・ハラスメント対策』(日経文庫) ▽宮淑子著『セクシュアル・ハラスメント』(朝日文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

アポ電詐欺

《「アポ」は「アポイントメント」の略》電話を使用した振り込め詐欺の一。身内の者になりすまして電話番号が変わったと伝え、再度電話して金銭を要求したり、役所の担当者や銀行員などになりすまして電話をかけ、後...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android

セクシュアル・ハラスメントの関連情報