翻訳|safeguard
緊急輸入制限あるいは緊急輸入制限条項のこと。ある国で、ある輸入品が急増し、自国の競合産業に重大な被害を及ぼすか、あるいはそのおそれのある場合、自国市場の攪乱(かくらん)を防止するために当該輸入品に対して輸入制限あるいは禁止を行うことのできる措置をいう。「自由・無差別」「輸入制限の撤廃」を理念として貿易自由化を進めるWTO(世界貿易機関)において、ガット(GATT)第19条のセーフガード条項またはエスケープ・クローズ(自由化義務を免除する規定)とWTO協定の「セーフガードに関する協定」によって輸入制限を例外的に認めている。セーフガードには、農産品や工業品に対して適用される一般セーフガードとウルグアイ・ラウンド交渉で関税化を行った豚肉や乳製品、コメなどの品目に適用される特別セーフガードがある。2001年(平成13)4月、わが国で初めて、ネギ、生シイタケ、畳表の農産3品目に対して200日間の暫定的セーフガードが発動されたが、中国政府から日本製の自動車、携帯電話、エアコンに対して100%の報復関税の対抗措置がとられるなどしたため、正式発動は見送られた。また、WTOでは特定の国を対象とするセーフガードは原則として認めていないが、中国のWTO加盟に際し、中国から輸出急増が予想されるため、加盟後12年間に限定して中国のみを対象とする特別セーフガードも設けられた。
[秋山憲治]
『柳赫秀著『ガット19条と国際通商法の機能』(1994・東京大学出版会)』
特定産品の輸入急増によって,それと競合する国内生産者に重大な損害が生じている場合,またはそのおそれがある場合,緊急措置として,その産品の関税を引き上げたり,輸入数量制限などの措置を講ずることがある。この措置を一般に〈セーフガード〉とよんでいる。〈緊急輸入制限条項〉と訳すこともある。セーフガード発動の具体的措置としては,関税引上げ,関税割当制度(一定の割り当てられた数量以上の輸入に高関税を課す制度)の導入,課徴金の賦課,輸入数量割当て,輸入ライセンス発給停止などがある。GATT(ガツト)では19条においてセーフガードが規定されているが,それは,自由貿易を原則とするGATTが,緊急の場合に一定の厳格な要件の充足(輸入急増,被害立証など)を条件に認めた例外である。19条に基づく発動件数は1981年までに109件を数えるが,世界不況と保護主義の台頭から近年急増している。また,GATT19条に基づくもののほかに,2国間協定および多国間協定に規定されたセーフガードが存在する(日仏,日ベネルクス,日英2国間セーフガード)。GATT19条に基づくセーフガードが無差別適用(対象産品の輸出国すべてに適用)を原則としているのに対し,2国間協定および多国間協定に規定されているセーフガードは,協定の相手国に対してのみ差別的に適用できる(選択適用)ことが両者の違いである。
執筆者:香田 忠維
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… 次に,いままでその重要性を指摘されてきた非関税障壁についてもメスが入れられ,〈政府調達〉〈スタンダード〉〈補助金・相殺関税〉〈関税評価〉に関する国際協定が合意された。しかし特定商品の輸入急増が国内産業に大きな被害を与える場合に発動する緊急輸入制限(セーフガード規定,GATT19条)については,これを特定国について認める(選択的にする)か否かをめぐって紛糾し,ついに合意対象からはずされ,引き続き討議されることになった。 その後,86‐93年にわたって〈ウルグアイ・ラウンド〉の多国間貿易交渉が行われ,これらの懸案のほか,サービス貿易や知的所有権,保護主義的傾向の強い農業分野などが取りあげられた(〈ウルグアイ・ラウンド〉の項参照)。…
…輸入国の消費者にとっては補助金によるにせよ,差別価格にせよ,廉価販売は歓迎すべきものである。もっとも輸入品と競争関係にある産業では輸入急増に対応して生産を縮小・調整するにはいろいろな困難が生ずるから,セーフガード(緊急避難措置)を発動して,一時的な輸入許可制などにより輸入急増を抑えることも正当化されよう。 従来各国ともダンピング防止規定はもっていても,それが実際に発動されたケースは少なかった。…
…また11条の適用をうける先進国についても,GATT総会の2/3の議決があれば自由化義務を免除されて輸入数量制限を続けることもできる(ウェーバー条項)。輸入の急激な増加が特定産業に被害を与えた場合には,緊急退避として一時的な輸入制限を行うことを認めたGATT19条のセーフガードも重要な例外規定である。 GATT体制のもとでの先進諸国の貿易自由化は段階的に行われた。…
※「セーフガード」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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