タックスヘイブン(読み)たっくすへいぶん(英語表記)tax haven

翻訳|tax haven

デジタル大辞泉 「タックスヘイブン」の意味・読み・例文・類語

タックス‐ヘイブン(tax haven)

《havenは、避難所の意》外国企業に対し、税制上の優遇措置をとっている国または地域租税回避地租税避難地。

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知恵蔵 「タックスヘイブン」の解説

タックスヘイブン

所得や財産などに対する税が、先進諸国などと比べ、著しく少ないか皆無である地域や国家のこと。租税回避地ともいう。イギリス領ケイマン諸島(資産への非課税)、香港(オフショア所得への非課税)、モナコ公国(所得への非課税)、リベリア共和国(便宜置籍船)などの例がよく知られている。
タックスヘイブンは、資源や産業に恵まれない小国や発展途上国が、他国を実質的な拠点とする企業や個人の物流、資産などを税制上優遇することで自国に呼び込むのが目的。ある国に本拠を持つ企業がタックスヘイブンにダミー会社を設け、本国企業からその会社に無形資産を移転するなどして、利益の一部を各種の支払いに見せかければ、帳簿上では本国企業の収益が圧縮できる。この結果、企業は本国における税の支払いを免れることができる一方、同地はこの会社の登記費用などを労せずして手に入れることができるという仕組み。
近年、国際的なIT企業の「租税回避」が注目されており、英国での課税を逃れるためにアマゾン社が付加価値税率の低いルクセンブルクに欧州本社を置いたり、グーグル社がアイルランドに支社を置きバミューダ諸島を通して送金したりという、あからさまな「会計操作」の手口が批判されている。また、日本企業も欧州での販売拠点をドバイ(アラブ首長国連邦)に置くなどの「節税」を図っている。邦人企業の在外法人等の収益の還流に対しての税制は日本にもあるが、他方で海外企業の在日法人については法整備ができていない部分が残されている。アマゾンの日本での売り上げは数千億円に上るが、アマゾンジャパンは販売・配送を行うのみで、商品の売り主は米国法人であるなどとして、日本での法人税支払いを免れている。米国内でも各州で同様の「税逃れ」が非難され、カリフォルニア州等で「アマゾン税」と俗称される課税措置が実施されている。
経済協力開発機構 (OECD)は、タックスヘイブンのような税制慣行を容認すると、税負担の公正を損じたり、税率が資金配置の決定の支配的要因となったりといった弊害が生じるとする。この結果、課税ベースが侵害され、税の値引き合戦のような有害な「税の競争」に陥り、各国が必要な税収を失う危険性があると警告している。OECDなどにより是正が進められているものの、租税回避のためのペーパーカンパニー設立に便宜を図るなど、積極的な方策をとり続けるタックスヘイブンも後を絶たない。これらは、税負担の不公平を引き起こすばかりか、オリンパス騒動AIJ投資顧問事件のように不正の舞台となり、資金の流れを不明朗にさせて資産隠しやマネーロンダリングなど犯罪の温床となっていることなどが問題視されている。

(金谷俊秀  ライター / 2013年)

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改訂新版 世界大百科事典 「タックスヘイブン」の意味・わかりやすい解説

タックス・ヘイブン
tax haven

税金避難地,租税逃避地ともいう。海外から進出してくる企業に対して税制上の優遇措置を与える国が世界各地に多く存在するが,そのような国を利用することにより,企業は税金の負担額を減らすことが可能となる。租税の優遇措置には,全面的な免税から,いろいろな段階の低税率の適用まで各種ある。その代表的な国,地域としてはバハマ,パナマ,バミューダ諸島,ケイマン諸島,ホンコンなどがある。

 最近において多国籍企業の活躍がますます盛んになりつつあるが,多国籍企業とは,多数の国に子会社を設立して事業を行う。このような多国籍企業は,次のような形で租税回避を行う。法人が外国に支店を設立した場合には,支店の利益は直ちにその法人の所得として課税されるが,外国に子会社を設立した場合には,その利益は配当されるまでは親会社に対して課税されない。そこで,法人は,税負担の低いタックス・ヘイブンに子会社を設けて,その子会社を経由ないしは基地としてさまざまの事業活動を行い,それによって生ずる利益は,その子会社に積み立て再投資することにより,本国の高い税負担を回避することができる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

知恵蔵mini 「タックスヘイブン」の解説

タックスヘイブン

外国に籍を置く個人や法人に対し、所得などへの課税が著しく軽減されるか、または免除される国や地域のこと。租税回避地。バハマ、ケイマン諸島、モナコ公国、パナマなど経済協力開発機構(OECD)非加盟国の一部などが、海外企業の誘致や外貨獲得などを目的として行っている。タックスヘイブンは、多国籍企業や資産家などにより経済活動の一環として合法的に利用されている一方、犯罪行為により得た資金の出処などを突き止められないようにするマネーロンダリグ(資金洗浄)や脱税の温床ともなっている。本来得るべき税収を失っている側のG20加盟国やOECDGなどは、かねてより監視体制の強化や法整備を進めてきた。日本では2015年1月、日本居住者が海外に持つ預金などの口座情報を捕捉し、18年から国税庁に集約させる方針を打ち出している。

(2016-5-12)

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「タックスヘイブン」の解説

タックスヘイブン

法人税や源泉課税などがゼロまたは低税率という税制優遇措置をとっている国や地域。租税回避地とも言われる。キュラソー、ケイマン、スイス、パナマ、バハマ、ルクセンブルクなどがこれにあたる。主に多国籍企業やヘッジ・ファンドなどが利用しているが、犯罪組織のマネーロンダリングやテロ資金の運用などに悪用されているケースもあり、2000年6月に経済協力開発機構(OECD)が35の国や地域をタックスヘイブンと特定。リストを公表し、税制の見直しなどを求めてきた。その結果、多くの国と地域が金融規制や税制の見直しなどに着手している。

出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報

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