正称は〈二重課税の回避のための条約convention for the avoidance of double taxation〉。国際的な二重課税という税の障害を可能な限り回避または排除し,資本・技術および人的な国際交流の円滑化に資することを目的とした2国間条約(もっとも1958年3月22日,北欧(5ヵ国)多国間租税条約の調印をみた)をいう。換言すれば,同種の課税物件(所得)に対し2国の課税が競合した場合に発生する国際的二重課税を回避するため,各国の課税権の行使につき規制を行うものである。日本は1954年にアメリカとはじめて租税条約を締結し,その後現在までに43ヵ国との間に租税条約が発効している(1997現在)。
国際的な二重課税は種々の場合に発生するが,たとえば日本法人がアメリカ国内で事業所得を稼得するとか,またはアメリカ源泉の配当・利子などの投資所得を取得する場合には,アメリカで法人税が課される(源泉地国課税)ほか,日本でもこれらの所得に対し法人税が課される(居住地国課税)。このような場合の二重課税は,居住地国が外国源泉所得に対する課税権を放棄する(外国所得免税方式)か,または,居住地国において,外国源泉所得も課税所得に含めて課税するが,その算出税額から源泉地国で納付した税額を控除する(外国税額控除)ことによって回避しうる。前者はフランス,オランダその他の西欧諸国が,後者は,日本,アメリカ,ドイツ等が,それぞれの国内税法で採用しており,租税条約でこれを確認している。しかし,外国税額控除についてみても,この制度には,日本の法人税(住民税を含む)相当額を限度とするというような控除制限があるため,所得源泉地での適用税率を可能な限り引き下げるほか,居住者等の用語,所得の源泉,課税所得の計算方法を相互に統一するのでなければ,完全には国際的な二重課税を排除できない。ここに租税条約の果たす役割がある。
このほか,国際運送業を免税としたり,短期の駐在員の課税を免除するなど,企業の海外進出に備えての課税関係を明確化するとともに,課税上の紛争が生じた場合には政府間で適宜協議を行うなど,国際協力の途を開き,国際課税問題の適正な解決に資することが租税条約の使命である。なお,発展途上国との租税条約においては,条約の締結を通じて当該発展途上国の経済開発に積極的な貢献をなすというのが,租税条約のいま一つの使命とされている。
執筆者:小松 芳明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
同一の課税物件に二つの国で二重に課税されることを防ぎ、同時に脱税をも防止する目的で、主として2国間で締結される条約。租税協定ともいう。たとえば、A国に住所をもちB国で所得を得た者は、租税条約がないと両国で課税されることになるので、これを防ぐために、B国での課税額をA国の課税額から控除するようにするごときである。従来の租税条約は二重課税回避を主目的としていたが、最近のそれは、多国籍企業が法人税率の低い国に所得を移転させて税負担を軽減させることを阻止しようとするところにもある。日本は2019年(令和1)9月時点で132か国・地域と租税条約を結んでいる。
[一杉哲也・羽田 亨 2019年12月13日]
『小沢進、矢内一好著『租税条約のすべて』(2000・財経詳報社)』
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