タバコモザイク病の病原体。TMVと略称。長さ300nm,幅15nmの棒状をしたウイルスで,ウイルス粒子は核酸とタンパク質から構成されていて,分子量はおよそ4000万である。中心部に分子量20万の1本鎖の核酸(RNA)をもち,その回りに分子量1万8000の外被タンパク質がおよそ2000個取り巻いている。
タバコモザイクウイルスは,ウイルス学の歴史上重要な研究対象であった。タバコモザイク病は,タバコの葉の表面に緑色の斑が現れ,葉の形がいびつになる病気として,古くから知られていたが,ながらく原因不明であった。1892年にイワノフスキーDmitri Alexevitch Iwanowsky(1864-1920)は,タバコモザイク病のタバコの葉の汁液を細菌ろ過器でろ過して,そのろ過液に病原性があることを見いだした。これが,ろ過性病原体すなわちウイルスの存在を示した最初の実験である。さらにタバコモザイクウイルスは,1935年スタンリーWendel M.Stanley(1904-71)によって,ウイルスとして初めて結晶として取り出された。それまでウイルスは細菌と同じような微生物であると信じられていたので,スタンリーの実験結果は,ウイルスは生物であるのか,また生命とは何なのかという議論を巻き起こした。55年には,フランケル・コンラートHeinz Fraenkel-Conrat(1910-99)らによりウイルス粒子の構成材料であるタンパク質と核酸から,感染性をもったタバコモザイクウイルスの再構成がなされたが,これは構成材料の自己集合による形態形成の最初の実験例となった。その後もタバコモザイクウイルスについては詳細に研究がなされている。
執筆者:川口 啓明
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略称TMV.タバコのモザイク病の病原体で,1935年,W.M. Stanley(スタンリー)によって結晶状で取り出され,その粒子の大きさは直径15~18 nm,長さ300 nm のさお状,分子量4×107 である.TMV粒子の化学組成はタンパク質が95%,RNAが5% である.すなわち,約2130分子の同一のタンパク質が約6000個のヌクレオチド鎖をもつRNAを中心にらせん状につらなっている.このタンパク質は分子量1.7×104,アミノ酸基を158個もち,その配列も決められ,N末端がアセチル化されているタンパク質である.また,TMV-RNAは一本鎖RNAで,このRNAはDNAと同じように遺伝情報をもち,RNAそれ自体も感染性をもっている.
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