植物ウイルス病(読み)しょくぶつういるすびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「植物ウイルス病」の意味・わかりやすい解説

植物ウイルス病
しょくぶつういるすびょう

ウイルスvirusによっておこる植物の病気の総称。日本ではイネをはじめムギ類、タバコ、マメ類、ミカンやリンゴなどの果樹類、ハクサイキュウリなどの野菜類、チューリップその他の花類など、ほとんどすべての栽培植物にウイルス病がみられ、被害も近年ますます増加している。病徴は植物の種類、ウイルスの種類によって異なるが、葉に不規則な濃緑色と淡緑色斑点(はんてん)ができるモザイク、草丈が伸びず極端に生育が遅れる萎縮(いしゅく)や矮化(わいか)がもっとも一般的である。このほか、植物体の組織の一部が死んで褐色に変化する壊疽(えそ)(ネクロシス)、輪紋、葉脈透化、葉脈緑帯、斑(ふ)入り、奇形(糸葉症状)、増生などが現れ、これらが組み合わさって複雑な病徴を示すこともある。また感染してもまったく病徴を示さない場合(潜在感染という)もある。

 植物ウイルス病の病原は、1935年にアメリカのスタンリーがタバコモザイク病からウイルス粒子を純粋な形で取り出し、タンパク質の一種であることを証明したが、今日では核タンパクからなり、電子顕微鏡下で初めて認められる極小の粒子であることが明らかにされている。現在、植物ウイルス病の病原粒子は、直径18ナノメートルの球状のものから、長さ2000ナノメートルの紐(ひも)状のものまであり、形も球状、長楕円体(ちょうだえんたい)状、桿(かん)状、紐状など多様である。また構成する核酸の種類もRNAリボ核酸)とDNAデオキシリボ核酸)の2種があり、各ウイルスはそのどちらか1種類だけをもっている。このような形状、組成、伝染様式などから1994年1月現在で10科47属406種の植物ウイルスが国際ウイルス分類委員会によって分類されている。このほか、まだ未分類で種としての可能性があるウイルスが307報告されており、計713種が国際ウイルス分類委員会第5次報告に記載されている。また、従来はウイルスと考えられていた柑橘(かんきつ)類エクソコーティス病(柑橘品種の多くは感染しても症状を現さないが、カラタチを台木とするものでは樹皮が縦に裂け衰弱枯死する)や、ホップ矮化病の病原は、1971年アメリカのディーナーにより、タンパク質をもたず核酸だけから構成されていることがわかり、ウイルスと区別してウイロイドviroidとよぶようになった。

 植物ウイルスの伝染様式は、汁液伝染、種子伝染、接触伝染、土壌伝染、虫媒伝染、接木(つぎき)伝染などがあり、ウンカ、ヨコバイ、アブラムシなどの昆虫によって媒介される虫媒伝染がもっとも多い。またマメ科植物のウイルス病では種子伝染するものが多い。日本の代表的な植物ウイルス病にはイネ萎縮病、縞葉枯(しまはがれ)病、タバコモザイク病、キュウリモザイク病、ダイコンモザイク病などがある。予防法として、媒介昆虫の駆除、抵抗性品種の栽培などがある。また、いったん発病したものについては、茎頂培養や果樹苗の温度処理によりウイルスを除去する方法などがあるが、薬剤等による防除はまだ不可能である。

[梶原敏宏]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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