改訂新版 世界大百科事典 「チャイティヤ」の意味・わかりやすい解説
チャイティヤ
caitya
古代インドで礼拝対象一般を指すサンスクリット。パーリ語ではcetiya,漢訳は制多,制底,支提など。〈火葬のための積み上げられた薪〉を意味するという説もあるが,その原義は明らかでなく,礼拝対象,ことに精霊が宿る聖樹を意味することが多い。さらに礼拝対象をまつる場所(霊廟)もチャイティヤと呼んだ。また初期の仏教徒の主たる礼拝対象であるストゥーパを指すこともある。チャイティヤ堂caitya-gṛhaとはストゥーパを本尊とする祠堂であり,西部インドの仏教石窟寺院は祠堂と比丘の止住するいくつかの僧院とで構成された。チャイティヤ堂は,古くはストゥーパを安置する円堂,または円堂に長方形の前室を付加した形式をとる。やがて前室との間の隔壁がとれて前方後円の長堂の形式が一般化した。奥にストゥーパを安置し,ボールト天井とし,壁にそって列柱を立て,壁と列柱との間の通路(繞道(にようどう))を右回りにめぐってストゥーパを礼拝した。木造建築に起源し,西部インドの石窟では前2世紀末期には現れ,後2世紀初期のカールレー石窟において形式の完成をみた。前方後円の長堂を列柱によって身廊と側廊とに区分するのはローマのバシリカの形式と酷似するが,両者の関係は明らかでない。構築寺院のチャイティヤ堂も同じ形式をとり,後にはストゥーパの代りに仏像をまつるものも現れ,ヒンドゥー教寺院(例えばアイホーレのドゥルガ寺)にも用いられた。
執筆者:肥塚 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報