チュルク諸語(読み)チュルクしょご(その他表記)Turkic

翻訳|Turkic

精選版 日本国語大辞典 「チュルク諸語」の意味・読み・例文・類語

チュルク‐しょご【チュルク諸語】

  1. 〘 名詞 〙 ( チュルクはTurk ) 中央アジアを中心に、トルコ語が話されているアナトリアから東シベリアにかけてユーラシア大陸を横断する広大な地域に分布している同系統の諸言語の総称。母音調和がよく発達していることなどが特徴。蒙古諸語やツングース諸語とともにアルタイ諸言語を構成すると考えられている。主な言語に、トルコ語、アゼルバイジャン語カザック語キルギス語ウズベク語トルクメン語タタール語チュワシ語、バシュキル語、カライム語ヤクート語など。

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改訂新版 世界大百科事典 「チュルク諸語」の意味・わかりやすい解説

チュルク諸語 (チュルクしょご)
Turkic

広い意味のトルコ語。狭い意味のトルコ語がトルコ共和国語をさすのに対して,トルコ共和国語を含めて,アジア大陸,ヨーロッパ大陸に広く分布する同族のトルコ系諸言語のすべてをさす。ロシア語で,前者をトゥレツTurets語,後者をチュルクTyurk語といって区別するのに当たる。西はバルカンクリミア(ほぼ東経21°)からボルガ川中流地帯,中央アジア,シベリアおよび中華人民共和国新疆ウイグル自治区,そして東はレナ川流域(ほぼ東経160°)に至る広大な地域に分布するが,話し手の数は約4000万(数え方にもよるが数の上では世界第10位)である。一つの独立国(トルコ共和国),旧ソ連邦から独立した5共和国(ウズベキスタンカザフスタンアゼルバイジャンキルギスタントルクメニスタン),ロシア連邦内の4共和国(バシコルトスタン,タタールスタン,チュバシ,サハ(ヤクート))とウズベキスタン内のカラカルパクスタン自治共和国の主要言語。モンゴル諸語,ツングース諸語,朝鮮語とよく似ており,これらとアルタイ諸語を形成する。

 分布地域の広さの割に方言の違いが小さい。チュバシ方言,ヤクート方言を除けば,各方言の話し手は互いに会話ができるほどである。サモイロビッチA.Samoilovičによると,チュルク語はまずR方言(tǎhhǎr〈九つ〉)とZ方言(dokuz,tugəz〈九つ〉)とに分類される。前者にチュバシ語,後者にそれ以外のすべての方言が属する。Z方言はさらにD群(atak,adak,azak〈足〉)とY群(ayak〈足〉)とに分かれ,前者にヤクート,トゥバ(旧ソヨート,ウリヤンハイ),カラガス,ハカス,アバカン,ショルの各方言が,後者には残るすべての方言が属する。いわゆる〈オイロート語〉もこの後者に属する。

 チュルク語では,他のアルタイ諸語よりも一般に厳格な母音調和が行われている。トルコ共和国語(トルコ語)を例にすると,八つの母音音素が/a,o,ı,u/と/e,ö,i,ü/の二つの群に分かれ,それぞれに属する母音音素が互いに同一の文節内で共起することがない。ayakという語はありうる(し,現にある)が,ayekなどという語はありえない。他のアルタイ諸語のように,どちらの群とも共起しうる第3の中立群はない。さらに,同一の文節内で,/u,ü,(o,ö)/は/u,ü,o,ö/の次にしかこないという制限がある。例:gör-ün-dü〈見えた〉(gör〈見る〉,görün〈見える〉),bil-in-di〈知られた〉(bil〈知る〉,bilin〈知られる〉)。その上,語幹の最後の母音音素に応じて交替する接辞の母音音素が/u,ü,(o,ö)/と/a,e,(o,ö)/とに分かれ,それぞれに属する母音音素が互いに(接辞の内部で)共起することがない。例:bul-du〈見つけた〉,gör-dü〈見た〉,al-dı〈取った〉,bil-di〈知った〉,bul-acak〈見つけるだろう〉,gör-ecek〈見るだろう〉,al-acak〈取るだろう〉,bil-ecek〈知るだろう〉。

 人称を接辞で表すのは,他のアルタイ諸語にないわけではないが,チュルク語ではきわめて一般的である。チュバシ語を例にすれば,pullǎm〈わたしの魚〉,pullu〈お前の魚〉,pullǎmǎr〈わたしたちの魚〉,pullǎr〈お前たちまたはあなたの魚〉,pulli〈彼または彼らの魚〉。なおpullǎは〈魚〉である。動詞では,kalaram〈わたしが言った〉,kalarǎn〈お前が…〉,kalarě〈彼が…〉,kalarǎmǎr〈わたしたちが…〉,kalarǎr〈お前たちまたはあなたが…〉,kalarěz〈彼らが…〉。語順は,主語→述語,客語→述語,修飾語→被修飾語の順で,日本語とまったく一致する。たとえば,ハカス語で,Min(私は)ib-deŋ(家-から)pičik(手紙(を))al-dy-m(受けとった〈私が〉);Kičig(小さい)pala-lar(子ども-たち)となる。語彙(ごい)にはロシア語とアラビア語からの借用語が目だつ。前者は比較的新しいことで,トルコ共和国語にはロシア語からの借用語はない。後者は数世紀の歴史をもち,話し手がイスラム教徒でないチュバシ,ヤクート,アルタイの諸方言にも及んでいる。しかし,アラビア語の影響はだいたい北と東へいくほど薄く,南と西へいくほど濃い。たとえば〈手紙〉を意味する語は,次のように南と西へいくほどアラビア語からの借用語maktubを使う方言が多くなる。例:ハカスpičik,トゥーバčagaa,バシキールhat,カザフhat,ノガイhat,チュバシzyru,ウイグルhat・məktup,ウズベクhat・maktub,アゼルバイジャンməktub,トルコmektup。

 正書法は旧ソ連邦内のチュルク系各共和国ではロシア文字,トルコ共和国ではラテン文字(ローマ字),中華人民共和国の新疆ウイグル自治区のウイグル人はアラビア文字(旧ソ連邦内のウイグル人はロシア文字)である。トルコ共和国では1928年以前はアラビア文字,チュルク系各共和国では39年ごろまでの10年足らずの間はラテン文字,それ以前は,イスラム教徒の各種族はアラビア文字を使っていた。チュルク語の最も古い文献は732年と735年の日付のある突厥(とつくつ)碑文で,特別の文字(突厥文字)で書かれている。11世紀以後は古代ウイグル語の文献が残っており,その最も重要なものは1069・70年の日付のある《クタドグ・ビリク》と称する教訓詩である。14~15世紀ころから各地にそれぞれ文字言語が発達した。そのうち,オスマン・トルコ語とチャガタイ・チュルク語が最も発達した。前者は現代トルコ共和国語の前身で,セルジューク時代のアナトリア・チュルク文語を経て,中央アジア・チュルク語にさかのぼる。後者は15世紀のティムール朝で発達した文語で,いわゆるチャガタイ文語(チャガタイ語)として後世まで諸種族間の共通語として行われた。これらの古い文献にみえるチュルク語は現代チュルク諸語とよく似ている。
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百科事典マイペディア 「チュルク諸語」の意味・わかりやすい解説

チュルク諸語【チュルクしょご】

トルコ共和国のトルコ語および同系諸言語の総称。Turkic。トルコ語,トルクメン語アゼルバイジャン語,カザフ語,キルギス語ウズベク語ウイグル語,トゥーバ語,ハカス語,アルタイ語,タタール語,バシキール語,チュバシ語,ヤクート語など。カフカス南部から旧ソ連,中国にまたがる中央アジアを中心にボルガ,ウラル両河中流域,アルタイ山脈付近,東シベリアなどにも分布。ボルガ中流付近のチュバシ語,東シベリアのヤクート語を除けば諸言語間の差異は少なく,発達した母音調和と簡単で規則的な文法構造が特色をなす。文構造は極めて日本語に近い。最古の文献は8世紀の突厥(とっくつ)碑文で,10世紀ころからの古代ウイグル語がこれに次ぎ,15世紀ころからは,チャガタイ文語など各地でアラビア文字による文章語が発達した。20世紀初めからローマ字正書法を採用する言語が多くなったが,ソ連邦内の諸言語ではロシア文字正書法に改められた。ソ連邦が崩壊して各国が独立するに及び,再びローマ字正書法に戻りつつある。中国におけるチュルク語ではアラビア文字を用いる。→アルタイ諸語トルコ系諸族
→関連項目ウイグル文字カザフ[人]ソグド語トルクメン[人]モンゴル諸語

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チュルク諸語」の意味・わかりやすい解説

チュルク諸語
チュルクしょご
Turkic languages

トルコ共和国のトルコ語,およびそれと同系の諸言語をさす。中央アジア,中国のシンチヤン (新疆) ウイグル自治区,シベリアに広く分布している。話し手約1億人。主要言語は,トルコ語,アゼルバイジャン語,トルクメン語,ウズベク語,キルギス語,カザフ語,カラカルパク語,ノガイ語,クミク語,バシキール語,タタール語,トゥーバ語,ウイグル語,ヤクート語,チュバシ語など。この語族は言語的にかなり均質で,ただヤクート語,とりわけチュバシ語が他から著しく異なるだけである。文法構造上,膠着性を共通にもつ。母音調和もほとんどすべての言語に存在する。最古の文献は8世紀のオルホン碑文・エニセイ碑文であるが,それから現代諸言語への変化はそう大きくない。文字は 1920年代初めまでアラビア文字が使われたが,旧ソ連領内のトルコ族はローマ字を経て現代はロシア文字を使用。トルコ語もローマ字を使用し,アラビア文字は中国やイランなどのトルコ族が使っているだけである。チュルク諸語は,モンゴル語ツングース語とともにアルタイ語族を形成するという見方が有力であるが,証明が完成しているとはいえない。

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世界の主要言語がわかる事典 「チュルク諸語」の解説

チュルクしょご【チュルク諸語】

トルコ系諸言語の総称。トルコ語、アゼルバイジャン語、タタール語、トルクメン語、ウズベク語、カザフ語、キルギス語、ウイグル語、ヤクート語などがある。バルカン半島から東シベリアまで、広大な地域に分布する。表記にはラテン文字、キリル文字、アラビア文字など、地域によって異なる文字が使われる。言語的には、厳格な母音調和や膠着語的な文法構造が特徴。8世紀の突厥碑文(とっけつひぶん)、11世紀の古代ウイグル語の文献などが歴史的に古い資料として知られる。モンゴル諸語、ツングース諸語とともに、共通の祖語をもつアルタイ諸語を構成するとされるが、定説ではない。◇トルコ系諸語ともいう。◇英語でTurkic。

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世界大百科事典(旧版)内のチュルク諸語の言及

【アルタイ諸語】より

…これらの諸言語が互いに親族関係にあってアルタイ語族をなすとの説が有力で,さらに朝鮮語や日本語をも含めた親族関係が問題にされることがある。分布地域は広く,一部で重なり合いながら東ヨーロッパからシベリアに及ぶが,チュルク諸語は中央アジアを中心に東ヨーロッパ,中国西部,シベリアの南部・中部などに話されており,モンゴル諸語はモンゴル,中国の内モンゴル地方を中心に,ボルガ川中流,アフガニスタン,シベリアのバイカル湖付近などに分布する。ツングース諸語は中国の新疆ウイグル自治区,東北地方などに一部話されているが,沿海州やシベリア中部から東部にかけて分布する。…

【チャガタイ語】より

…トルコ系言語(チュルク諸語)を話す人々が,かつて中央アジア(旧西チャガタイ・ハーン国領を含む)で用いていた文字言語。この古典文語は大部分アラビア・ペルシア文字によって表記されていて,ティムール朝(1405‐1506)で発達し,国家の公用語・外交語として用いられ,また詩人アリー・シール・ナバーイーの作品に代表される文学語でもあった。…

【突厥語】より

…突厥時代に建置された突厥碑文やウイグル帝国時代の碑文,さらにはエニセイ川流域のエニセイ碑文などに突厥文字を用いて刻まれたチュルク語のことを一般に突厥語と呼んでいる。これらの碑文は,チュルク諸語文献中最古のもので,突厥語は古代チュルク語の主要な部分を構成している。突厥語は,言語資料としては量の多いものではないが,チュルク語史やアルタイ語比較研究にとってはきわめて重要な役割を果たす。…

【トムセン】より

…印欧語については,ロマンス語の音韻史,ゲルマン語とバルト語との関係,ゲルマン語およびバルト語とフィン語との関係についての論文がある。1893年,シベリアのオルホン川,エニセイ川両河岸で発見された碑文を解読し,最古(8世紀)のチュルク語(チュルク諸語)資料を提供した業績は世界言語学史上に輝くもので,日本の東洋史家の間に古くから知られている(1894年刊《オルホンおよびエニセイの碑文の解読》,1896年刊《解読されたオルホン碑文》)。のち,ヒンディー語,サンターリー語を研究した。…

【トルコ語】より

…狭義ではトルコ共和国の言語をさし,広義ではアジア大陸,ヨーロッパ大陸に広く分布するチュルク諸語をさす。トルコ語を母語とする者は,トルコ共和国に1990年現在で約5195万人(共和国の人口の約92%),ブルガリア,ルーマニア,ギリシア,旧ユーゴスラビアなどにも少数いる。…

※「チュルク諸語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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