チン(民族)(読み)ちん(英語表記)Chin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チン(民族)」の意味・わかりやすい解説

チン(民族)
ちん
Chin

ミャンマー(ビルマ)領内に住む、チベット・ビルマ語系のクキ・チン諸語を話す人々の総称。その下位集団の自称名は多様である。チンの名称はビルマ系の人々が用いた呼称に由来する。ミャンマー西部の山岳部を中心に、南のイラワディ河谷にかけて居住し、人口は60万人を超えると推定されるが、最近の正確な統計はない。彼らの住居は、北端の地域を除いて杭上(こうじょう)家屋で、南では竹が多く使われる。元来、焼畑耕作が生活の基盤で、主食の米あるいはトウモロコシのほかに雑穀、豆類、いも類、ヒョウタンサトウキビ、綿、香料などが栽培された。一部には平地での水稲耕作も行われた。家畜はウシ、ブタ、ニワトリ、ヤギ、イヌのほかに、供犠(くぎ)用のミタン牛が飼われることで知られた。水牛は20世紀なかば以降から飼われるようになった。20世紀なかばごろまでは鍛冶(かじ)屋が外来の鉄製品の加工を行う以外、手工業の専門化はみられなかった。伝統的に竹や籐(とう)で籠(かご)をつくり、木綿を織り、壺を焼く技術をもっている。鉄のほか、塩も平地のビルマ人との交易に頼っていた。北部の集団では、外から入手した贅沢(ぜいたく)品を誇示する大土地所有者の貴族的階層が存在した。イギリス人との接触が始まったころは、各集団間あるいはビルマ人などとの間の戦闘が常時みられ、戦争捕虜およびその子孫からなる奴隷階層も存在した。親族は父系で組織される。結婚は婚資の支払いを伴い、新規居住形態をとる。末の息子と老父母との同居がみられる。森羅万象に宿る精霊を崇拝し、勲功祭宴が盛んなことで知られた。外部社会との接触が増大し、キリスト教に改宗した者が多い。

[横山廣子]

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