出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
〈眼だまし〉の意で,造形芸術において,描かれたものが現実にそこに実在するかのような錯覚を与える絵画的表現,つまり〈だまし絵〉をいう。だますという意味ではイリュージョニズムやアナモルフォーズもそうであるが,狭義には,壁につるした布やピンで留めた紙片,画面にとまったハエなどをはじめとして,錯視効果を巧妙に利用した静物画を指す。18,19世紀におもにアメリカでよく発達した。その系譜は20世紀のアメリカでのスーパーリアリズムにも見られる。現実感を生み出すようなこの種の効果は,古来から絵画表現において不可欠の要件ではあるが,ことに錯覚効果を重視する西洋近世絵画において重要な技巧であった。しかし〈トロンプ・ルイユ〉はときに眼だましの技巧を見せるだけの,ややけなしたニュアンスをもつことがある。
東洋,日本においては,このようなリアリスティックな表現技術を駆使したものはほとんど見られない。しかし,人の眼をあざむいて驚かせ楽しませる絵のたぐいは,洋の東西を問わず多く見られる。日本でも,歌川国芳による人の集合体が顔になっているものや,《欠留(あくびどめ)人物更紗》のように,一つの頭に複数のポーズの胴体がついて複雑にからみ合いあくびを止め合うものなどがある。
執筆者:坂本 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(上間常正 朝日新聞記者 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…造形芸術,とくに絵画において立体感や奥行きの錯覚を与える造形技法とその表現をさす。トロンプ・ルイユ(目だまし)という言葉で呼ばれることもあり,その区別は明確ではない。視覚とは眼に映るものを既得の知識,欲望,想像力などによって判断する大脳の働きであるから,知識や経験の増加によって,はじめ正常な視覚とされていたものが,のちに錯覚(イリュージョン)と判明することが少なくない。…
…静物画は〈本物と寸分違わぬ〉という驚きと喜びとを多くの人々が最も容易に共有できる画種であり,また画家にとってはもてる技巧の限りを尽くして種々の事物の迫真の質感描写を競う場であった。このため静物画は発生以来つねにトロンプ・ルイユ(目だまし)と密接な関係にあった。静物が彫刻のみならず版画の対象にめったに採り上げられないのも,その魅力の本質をなす光や色彩の微妙な変化による質感描写が,これらの分野では十分に発揮できないからにほかならない。…
…29年パリで個展を開いて以来シュルレアリスムに参加。フロイトの精神分析理論を絵画にとりいれ,トロンプ・ルイユ(だまし絵)風の細密描写によって異常なイメージをあらわし,潜在的な欲望をあばきだすのが特徴。みずから〈妄想症的=批判的(パラノイアック・クリティック)活動〉と称して,幻覚を生じる精神錯乱的現象を冷静にとらえ,同一のものが多様に見えるようなイメージを精密に描く。…
※「トロンプルイユ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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