天井に施された絵画をいう。ここで天井というのは,木造建築に多い平天井のほか,石材や煉瓦などを用いるボールト(穹窿),円蓋,半円蓋など,要するに建築空間の上部を覆う面をさす。
天井画については,そこに何が描かれるかという問題といかに描かれるかという問題がある。前者に関しては,まず天井とはどのような意味をもつものかというところから考察を始める必要がある。天井は一般に,そしてとくに宗教建築において,天を象徴するものであり,地を象徴する側壁とは異なった主題が描かれる。側壁の延長として扱われる場合もないわけではないが,多くの場合は天井独自の主題が選ばれる。例えば,キリスト教教会堂の場合,〈キリストの昇天〉や〈聖母の被昇天〉,また《ヨハネの黙示録》や預言書に拠る〈神の顕現〉などが天井にふさわしい主題である。また天を神の支配するところと見て,キリストと天使や使徒,あるいは抽象的に十字架と星の群などを描くこともある。さらに天を楽園と見て,花々や鳥あるいは唐草などを描くこともある。仏寺でも天井を蓮の花その他の天華で埋めつくしたり,千体仏あるいは天人の群などで満たすこともある(アジャンター,敦煌など)。イスラムのモスクが円蓋を植物の形態に由来する文様で覆いつくすのも同じ理由による。そしてこれらは多くの場合,特定の場景を表すときもモティーフを装飾的に並べるときも,空間に透視図法などによって奥行きをつけることはない。これに対して15世紀後半からイタリアでは空間に奥行きをつけはじめた(マンテーニャやメロッツォ・ダ・フォルリなど)。奥行きとは物質空間に関する問題であるが,空間が地上から空に向かって高く伸び上がってゆくさまを雲や天使や空飛ぶ人物によって暗示し,いわゆる短縮法も駆使されるようになる。この描法はバロック時代(ポッツォなど)に極度に達する。
ところでこのような描法は建築装飾として重要な問題を提起する。つまり,透視図法による天井画は,現実にそこに無限に高い空があるような錯覚を起こさせることによって,天井をいわば突き破るのである。これに対して天井画に透視図法を用いないビザンティンやロマネスクの絵画は,青,金,白などの色彩をバックに抽象的に用いてそこに人像を配置することによって,非物質的・霊的な空間を設定しており,それはまた建築構造とも調和している。
執筆者:柳 宗玄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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