翻訳|dock
船渠(せんきよ)ともいう。船を建造,修理,あるいは係留するための施設。慣用的に造船所自体のことをドックという場合もある。ドックの歴史は古く,舟運の発生とほぼ同時期から存在したものと思われ,エジプト第6王朝のころの記録からも,ピラミッド建設用の石材運搬船の建造,修理にドックが使われていたことがわかっている。日本でも古くから木船用の簡易なドックが用いられていたが,江戸時代末期から明治にかけて西洋型の船が導入されるに伴い,石川島造船所,長崎小菅修船所などに近代的ドックが建造された。
ドックには使用目的によって修理ドック,建造ドック,係留(船)ドックなどがあり,形態により乾ドック,浮きドックの区別がある。
(1)乾ドックdry dock 船が出入りできる深さまで掘り込んで,三方を石,またはコンクリートで固め,長さ方向の一方だけ水面に向かって開き,ここに扉を設けている。船がドック内に引かれて入ってくると扉を閉め,ドック内の水をポンプで排出し,船をドック底に固定する。ドックの底は船を支えるに十分強固な構造をし,排水を容易にするためわずかに扉のほうに傾斜し,さらに側溝を設けている。中央には船を支える高さ1.2~1.6mのキール盤木が約1m間隔で置かれ,その両側にも倒れ止めの盤木が設けられている。一般に扉は,鋼製で水に浮く構造をし,取外しができるようになっている形式が多い。船が入るときは扉を浮かして引き出し,船を引き入れた後,扉を入口に沈め,ドック内の水をポンプで排出すると,内外の水圧差で扉は入口に密着する。船を出すときは逆の方法を取る。通常ドック内の水の注排水には1~2時間かかる。なお,ドックの近くにはクレーンやウィンチなどが設けられている。このように,このドックは船を引き入れた後水を排出してしまうので乾ドックと呼ばれる。ふつうドックというと乾ドックを指し,この形式のものが数もいちばん多い。乾ドックはほとんどの造船所にあり,新造船の海上試運転に先立つ船底塗装の最終仕上げと点検に利用され,修理船の場合は定期的に船底,プロペラなどの点検,修理と船底の清掃と塗装を行うのに使われる。
(2)浮きドックfloating dock 鋼製の一種の箱船で,断面が凹形をしている。船が入るときはドック自体にバラスト水を入れて沈下させ,船を引き入れた後,バラスト排水をして船をすくい上げて盤木の上に載せて浮上させる。このためドックにバラストポンプと工事用クレーンなどが設けてある。ドック自体はパイル柱,または錨で位置決めされている。浮きドックは乾ドックを掘るのが困難な場所などに設けられるが,運転費用が高くつくため,数はあまり多くない。
(3)建造ドックbuilding dock 新造船を建造するためのドック。構造的には乾ドックとほぼ同じである。ここで船を造れば進水作業を必要としないので,とくに巨大船建造に適しており,新しい造船所はほとんどこのドックをもち,船台は少なくなっている。
(4)係留ドックwet dock 干満の大きい場所で掘割り,または突堤の入口を扉で仕切り,干潮時でも内部の船を安全に係留できるようにしたものである。日本ではあまり見られない。
執筆者:坂本 和哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
船を建造または修理するために構築された施設。乾ドックと浮きドックがある。乾ドックはコンクリートまたは石でつくられた長方形のプール状で、その短辺は海に通じており、閉め切るための扉船が付属している。底部の中心線上に船を据え付けるキール盤木を一列に並べる。キール盤木は30センチメートル角ぐらいの木材で、ドックの横方向に平行に高さ1.5メートルぐらいに積み上げ、長さ方向に1メートル前後の間隔で並べる。盤木は中心線のほか左右両側にも数条設けられる。船をドックに入れるにはまず引き船などで入口まで導き、ウィンチで引き込む。扉船をドックの入口近くまで引き寄せてから中の水を排水すれば、扉船が入口に密着して海水の浸入を防ぎ排水が続行される。船底が盤木にのるころに、船体とドックの側壁との間に支柱を挟んで船体を支持する。
浮きドックは断面を凹型にした鋼板製の箱型浮体で、側壁と底部は中空になっている。ここに注水して全体を沈下させ、船をくぼんだところへ引き入れてから排水すれば、浮きドックは船をのせたまま浮かび上がる。
乾ドックの一種に建造ドックがある。ドックの中で船を建造すれば、注水するだけで船を浮かべることができ、普通の船台で建造する場合の進水作業が必要ないので、超大型船の建造にはこの建造ドックが用いられる。
[森田知治]
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※「ドック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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