ドメスティック・バイオレンス

知恵蔵の解説

ドメスティック・バイオレンス

広い意味では、家庭という私的な領域内で、強者から弱者に加えられる暴力をいう。日本では通常、夫婦や恋人など親密なカップル関係の中で生じる暴力行為を指す。暴力の内容は、身体的暴力からセックスの強要、屈辱的な言葉をかける、行動を詮索するなど多岐にわたる。家庭内の問題として潜在していたが、フェミニズム運動や人権意識の高まりから、社会問題としての認識が高まった。内閣府の調査(2005年)によると、配偶者などから暴力を受けた経験のある女性は33.2%(男性17.4%)、うち、身体に対する暴力被害経験者は、26.7%(男性13.8%)。01年に配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(配偶者暴力防止法DV防止法)が制定され、被害者の保護命令加害者退去接近禁止命令都道府県の配偶者暴力相談支援センター設置義務などが規定された。04年の改正では、保護の範囲が離婚した配偶者や子にも広がっている。

(山田昌弘 東京学芸大学教授 / 2007年)

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ドメスティック・バイオレンス
どめすてぃっくばいおれんす
domestic violence

配偶者や恋人等の親密な関係にある者、またはあった者から振るわれる暴力。略称DV(ディーブイ)。英語のドメスティック・バイオレンスということば自体の意味は、「家庭内暴力」であるので、配偶者からの暴力のみならず、親から子供への暴力等も含まれる。日本でもこのように異なった意味に受け止められるおそれがあることから、内閣府では、ドメスティック・バイオレンスということばを正式には使わず、「配偶者からの暴力」ということばを使っている。
 DVには、さまざまな形態の暴力があり、内閣府男女共同参画局では「配偶者からの暴力」を、身体的暴力(殴る、蹴(け)るなど)、精神的暴力(大声でどなる、ばかにするなど)、性的暴力(性行為の強制など)ととらえているが、たとえば、神奈川県が策定している「かながわDV防止・被害者支援プラン」では、経済的暴力(生活費を渡さないなど)や社会的隔離(外出や交際の制限など)も含めている。DVは、これらのうち、単独の形態の暴力であることもあるが、多くは何種類かの暴力が重なっていることが多い。また、ある行為が複数の形態に該当することもある。
 DV加害者は、年齢、性別、学歴、職種、年収に関係がないといわれている。社会的地位があり、そうとは見えない人でも、DV加害者である場合がある。暴力を振るわれた被害者は、逃げることができないことが多い。その理由として、恐怖感、無力感、複雑な心理(「暴力を振るうのは私を愛しているからだ」と思うなど)、経済的な問題、子供の養育の問題などがあるとされている。
 日本では、2001年(平成13)4月にDVの防止および被害者の保護を図ることを目的とする「配偶者暴力防止法」(平成13年法律第31号。DV防止法ともいう)が成立した。[神尾真知子]

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最新 心理学事典の解説

ドメスティック・バイオレンス
ドメスティック・バイオレンス
domestic violence

ドメスティック・バイオレンスは家庭内暴力のことであり,子どもや高齢者への暴力など,家庭におけるさまざまな暴力が含まれ,DVと略称される。わが国では,夫婦などの性的に親密な関係における暴力をDVとよぶことが通例となっており,そこには恋愛関係にある者のデートDVも含まれる。わが国でDVに対する社会的関心がもたれるようになったのは1990年代後半である。1999年,総理府男女共同参画室(現,内閣府男女共同参画局)は,全国の20歳以上の男女4900人を対象に,夫婦間における暴力行為の有無に関する調査を実施した。同調査では,「命の危険を感じるくらいの暴力」が「何度もあった」と答えたのは,女性で1.0%,男性で0.2%,「1~2度あった」と答えたのは,女性で3.6%,男性で0.4%であった。こうした社会的関心を受け,2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下,DV防止法)が施行された。DV防止法における配偶者には,届出婚以外に事実婚によるパートナーも含まれる。また,同法は,離婚したパートナー間の暴力も対象としている。

 DV防止法では,身体的暴力に重きをおいた定義となっているが,臨床的には必ずしもそうではない。たとえば,ペンスPence,E.とペイマーPaymar,M.は,DVを,「孤立させること」,「経済的コントロール」,「脅迫」,「情緒的虐待」,「性的虐待」,および「身体的虐待」の六つのタイプに分類している。このように,DVとは,単なる身体的暴力を意味するのではなく,ある人(主として男性)が,性的に親密なパートナーシップ関係にある他者(主として女性)を,精神的な支配状態におくことを目的とし,そのための手段として身体的,心理的,性的,経済的暴力などを加えたり,あるいは社会的に孤立させたりする状態であるといえる。

 加害者である男性は,幼少期にその親から虐待を受けていた経験のある者が多いとされる。ダットンDutton,D.G.は,子どものころの悪い母親イメージが成人後のパートナーに投影され,悪い母親に対する激しい怒りがパートナーに向けられるのではないかという,対象関係論的な説明を試みている。

 暴力によって維持される支配関係におかれた女性は,学習性無力感learned helplessnessやうつ状態,自尊心の極端な低下やそれに起因する判断能力の低下など,さまざまな心理的,精神的問題を呈する。なかには,完全な無能力状態に陥る場合もある。また,激しい暴力を受けながらも暴力をふるう男性を理想化しその人との関係にしがみつくという,いわゆるストックホルム症候群Stockholm syndromeとよばれる状態に至る場合もある。これが,暴力がありながらもその関係を継続させてしまう要因の一つであると考えられる。

 関係を継続させてしまう今一つの要因として,DVが生じる関係のサイクルが指摘される。DV関係には「緊張上昇期」,「暴力爆発期」,「ハネムーン期」の三つの相があり,爆発的な暴力が生じたのちに加害者が被害者を慰撫するハネムーン期の存在が,暴力を伴う関係の維持に寄与するとされる。 →児童虐待 →性犯罪 →被害者学
〔西澤 哲〕

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