最新 心理学事典 の解説
ドメスティック・バイオレンス
ドメスティック・バイオレンス
domestic violence
DV防止法では,身体的暴力に重きをおいた定義となっているが,臨床的には必ずしもそうではない。たとえば,ペンスPence,E.とペイマーPaymar,M.は,DVを,「孤立させること」,「経済的コントロール」,「脅迫」,「情緒的虐待」,「性的虐待」,および「身体的虐待」の六つのタイプに分類している。このように,DVとは,単なる身体的暴力を意味するのではなく,ある人(主として男性)が,性的に親密なパートナーシップ関係にある他者(主として女性)を,精神的な支配状態におくことを目的とし,そのための手段として身体的,心理的,性的,経済的暴力などを加えたり,あるいは社会的に孤立させたりする状態であるといえる。
加害者である男性は,幼少期にその親から虐待を受けていた経験のある者が多いとされる。ダットンDutton,D.G.は,子どものころの悪い母親イメージが成人後のパートナーに投影され,悪い母親に対する激しい怒りがパートナーに向けられるのではないかという,対象関係論的な説明を試みている。
暴力によって維持される支配関係におかれた女性は,学習性無力感learned helplessnessやうつ状態,自尊心の極端な低下やそれに起因する判断能力の低下など,さまざまな心理的,精神的問題を呈する。なかには,完全な無能力状態に陥る場合もある。また,激しい暴力を受けながらも暴力をふるう男性を理想化しその人との関係にしがみつくという,いわゆるストックホルム症候群Stockholm syndromeとよばれる状態に至る場合もある。これが,暴力がありながらもその関係を継続させてしまう要因の一つであると考えられる。
関係を継続させてしまう今一つの要因として,DVが生じる関係のサイクルが指摘される。DV関係には「緊張上昇期」,「暴力爆発期」,「ハネムーン期」の三つの相があり,爆発的な暴力が生じたのちに加害者が被害者を慰撫するハネムーン期の存在が,暴力を伴う関係の維持に寄与するとされる。 →児童虐待 →性犯罪 →被害者学
〔西澤 哲〕
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