日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナガイモ」の意味・わかりやすい解説
ナガイモ
ながいも / 長薯
[学] Dioscorea batatas Decne.
ヤマノイモ科(APG分類:ヤマノイモ科)の多年生つる草。中国原産で、日本へは17世紀以前に渡来した。全国各地でいもを食用とするため栽培され、山林に野生化もしている。農林水産省では本種を「やまのいも」とよんでいるが、植物学上のヤマノイモとは山野に自生する異種D. japonica Thunb.をさすので、混乱が生じている。また、このヤマノイモを農林水産省では「じねんじょ」とよんでいる。
つるは3~5メートルに伸び、葉は対生する。茎が紫色を帯びるものがある。葉柄の先と葉身の基部が赤紫色であるのが特徴で、この部分が他部分と同じく緑色であるヤマノイモと区別される。雌雄異株で、夏に葉腋(ようえき)に2~4本の花序を出す。雄花序は直立し、小さな白色の小花を多数開く。雌花序は淡緑色で垂れ下がる。種子には丸い翼がある。秋、葉腋に1個ずつむかごをつける。いもは茎と根の境の胚軸(はいじく)部が突出肥大したもので、長い円筒状を呈し、長いものは約1メートルになる。関東地方以北の寒冷地に栽培が多い。
いもの形は品種によって変異が著しい。トクリイモ(徳利薯)、キネイモ(杵薯)、ラクダイモ(駱駝薯)などは短く太い棒状で、長さ30センチメートル以下であるがやや太く、関東地方以西で栽培される。ブッショウイモ(仏掌薯)、ツクネイモ(捏芋)、イチョウイモ(銀杏薯)は扁平(へんぺい)な扇形で、関東地方以西に多い。ヤマトイモ(大和薯)、イセイモ(伊勢薯)、ブンゴイモ(豊後薯)などは球もしくは塊状で、すりいもの粘りが強く、高級品質とされ、おもに西南の暖地で特産品として栽培される。
栽培は、春に種いもを植える。いもは茎葉の繁茂に消費されて消失するが、夏ころから新いもができて、秋冬までに種いもより大きく肥大成長する。秋以降収穫する。
いもの成分はおもにデンプンであるが、独特の粘質物はグリコプロシンの一種を主成分とするタンパク質とマンナンの結合物である。粘りを利用してとろろ汁とし、かまぼこなど練り製品、軽羹(かるかん)やまんじゅうの皮など菓子材料とする。いもだけでなく、むかごも煮食する。2016年(平成28)は年産約12.5万トン、大部分は北海道と青森県で生産される。
[星川清親 2018年10月19日]
薬用
地下のいも状のものは、茎の根元にこぶを生じ、肉質となって伸び、毎年新しいものと交代しながら太くなったものである(これを担根体、根茎という)。この根茎の外皮を除去して乾燥したものを漢方では薯蕷(しょよ)、山薬(さんやく)と称する。胃弱のために食欲がなく、下痢しやすく、疲れやすいとき、糖尿病でやせたとき、精力が衰えて咳(せき)や遺尿をし、足腰のだるいときなどの治療に用いる。ヤマノイモの根茎もナガイモと同様に用いる。中国料理では、皮付きのまま蒸したあとで皮をむき、塊に切って揚げ、砂糖を煮つめた蜜(みつ)をかけた抜糸山薬(バースーシャンヤオ)が有名である。なお、むかごを零余子(れいよし)といい、根茎よりも作用が強いということから薬用のほか食用にもされる。また、中国の民間では零余子を百日咳の治療に用いる。
[長沢元夫 2018年10月19日]