改訂新版 世界大百科事典 「ニホンジカ」の意味・わかりやすい解説
ニホンジカ
sika deer
広義には偶蹄目シカ科シカ属シカ亜属の哺乳類全体を指すが,狭義にはそのうちの1種Cervus nipponだけを指す。
シカ亜属(Sika)は東アジア特産の中型の優美なシカ類で,しりに広げることができる白い部分(尾鏡),後足の中足部の外側に淡色の中足腺があり,成長した角にはふつう3叉がある。台湾に角の第1枝の短いタイワンジカC.taiouanus,中国,朝鮮半島,ウスリー,北海道に耳介と四肢の長いタイリクジカC.hortulorum,対馬に角の第1枝が基部より高いところで分かれるツシマジカC.pulchellus,本州,四国,九州などにニホンジカがすむ。これらはいずれも原始的な種で,日本以外では減少しつつあり絶滅が心配されている。
狭義のニホンジカは単にシカともいい,タイリクジカよりも小型で,耳介と四肢が短く,体つきがずんぐりしている。肩高58~99cm。角は長さ25~72cmで左右の開きが狭く,比較的短い第1枝(眉枝)は基部近くから分かれる。夏毛は赤褐色で白斑があるが,冬毛は暗褐色で白斑を欠き,背の正中線に明りょうな黒線がない。尾の先は白色。典型的なものは本州,四国,九州に分布し,屋久島と沖縄県の慶良間(けらま)列島のものは小型で角が小さく,角の叉がふつう2個しかないので,それぞれ別亜種ヤクシカC.n.yakushimaeおよびケラマジカC.n.keramae(天然記念物)とされる。平地から標高2500mくらいまでの落葉樹林や常緑樹林などに多く見られる。ふだんは数頭の同性からなる小群,あるいは雌雄の混じった小群をつくるが,単独でいるものも多い。夏はおもに低木の葉を食べ,冬に葉がなければ樹皮や小枝を食べる。秋の交尾期には1頭の雄が5~6頭の雌を従えたハレムをつくる。妊娠期間は6~7ヵ月で,晩春に1産ふつう1子を茂みの中で生む。幼獣は生後約1年母親とともに生活する。角はふつう1~2歳で叉のない1本角が現れ,3歳で1叉,4歳で2叉,5歳で3叉となるが,はなはだ不規則である。なお,北海道のエゾシカC.hortulorum yesoensisはニホンジカではなく,タイリクジカの亜種と考えられる。
→シカ
執筆者:今泉 忠明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報