翻訳|hyena
哺乳(ほにゅう)綱食肉目ハイエナ科に属する動物の総称。この科Hyaenidaeの仲間は、アフリカ、西南アジアの乾燥した平地に3属4種が分布する。頸(くび)の背面に長毛があるため、タテガミイヌの別名もある。系統的には、イヌ科よりジャコウネコ科に近縁である。
ブチハイエナ、シマハイエナ、カッショクハイエナの3種は、体長1~1.6メートル、体高65~90センチメートルと大きい。一見オオカミに似ているが、吻(ふん)が太く、耳が大きく、腰が低い。指は前後肢とも4本ずつである。食物の骨や腱(けん)などをかみ砕くことができるじょうぶなあごと歯をもっている。歯式は
で合計32~34本。前臼歯(きゅうし)が大きくなっており、本数はオオカミの42本よりはるかに少ない。雄と雌は外見上の区別が困難で、ブチハイエナでは外部生殖器でも区別できない。
ハイエナは種類によって活動の時間が異なるが、いずれも休息や出産のために岩穴や地中の穴を使う。縄張り宣言のため、肛門(こうもん)近くの分泌腺(せん)から出るクリーム状の分泌物を、草の茎などにつけることが行われる。
ブチハイエナCrocuta crocutaはアフリカに広く分布し、群れで生活する。日中も活動し、シマウマやヌーなどを狩って食べることが多いが、ライオンなどの食べ残しや死肉も食べる。妊娠期間は110日で、1~3子を産む。シマハイエナHyaena hyaenaは、インド以西、アフリカ中央部まで分布する。薄暮活動性で、小動物などをとることもあるが、ほとんど死肉に頼っている。また、植物質も食べる。ブチハイエナは人間の笑い声に似た大きな声でよく鳴くが、シマハイエナはあまり鳴かない。カッショクハイエナH. brunneaは、アフリカ南部に分布する。完全に夜行性で、主食は死肉であるが、水気の多い植物質も多く食べる。チャイロハイエナともいう。シマハイエナとカッショクハイエナの妊娠期間は約3か月で、1~5子を産む。
アードウルフ(ツチオオカミ)Proteles cristatusは、体長65~80センチメートルと小形で、形態や食性の相違から、ハイエナ科から独立させて、1種でアードウルフ科とする説もある。アフリカの東部と南部に分布する。夜行性で、シロアリを主食とする。妊娠期間は約3か月で、2~4子を産む。前肢の指は5本。
[祖谷勝紀]
足が短くて均整を欠いた姿態、また他の肉食獣の打ち捨てた死体に群がり、その強いあごで骨までかみ砕く、夜行性、といった習性などから、ハイエナは不吉なイメージを人間に与えてきた。いまもアフリカの多くの社会で、まがまがしい前兆を行うもの、あるいは不可視の姿となって夜に他人の内臓を食う邪術師が姿を変えたもの、と考えられている。民話のなかでも他の動物と対比され、しばしばこざかしい策を弄(ろう)するものの最後には敗者となる役割を与えられている。タンザニアのカグル人の民話では、ハイエナは飢えをしのぐために自分の母親を殺して食い、ついには甥(おい)であるウサギにだまされて飢え死にする。また西アフリカのバンバラ人の成人儀礼では、人々はハイエナの仮面をつけて演じるが、これは「真の知恵」を表すライオンに対し「偽りの知恵」を、また「喜ばしい知恵」を表す道化に対しては「気の利かぬ知恵」を表すものとされる。つまりハイエナは、トリックスターにだまされて笑われるものとされているのである。
[渡辺公三]
『黒田弘行写真・文『アフリカの動物たち3 群れで生きるブチハイエナ』(1988・農山漁村文化協会)』▽『黒田弘行著『サバンナと野生動物』(1990・労働旬報社)』▽『今泉吉典監修『世界の動物 分類と飼育2 食肉目』(1991・東京動物園協会)』
体型はイヌに似るが,腰よりも肩が高く,前後の足に4指をもつハイエナ科Hyaenidaeの食肉類の総称。アジア南部からアフリカに分布。体長55~166cm,尾長18~47cm,体重9~86kg。体はがんじょうで,頭が大きくあごとほおが発達し,太い骨をくだく強力な裂肉歯とあごをもつ。首は太く,肩がたくましい。聴覚,嗅覚(きゆうかく),視覚が鋭いが,触毛の発達は悪い。外形からはイヌ科に近縁と想像しがちだが,骨格上の形質はジャコウネコ科のものに近いことを示し,発達した肛門囊(肛門の両側,または後ろに位置し,肛門周辺の皮膚に開く腺で,直腸に開口する肛門腺とは異なる)をもつのも特徴の一つである。草原ややぶの多い乾燥地帯,開けた森林で生活し,岩穴,密な茂み,あるいは他の動物が捨てた土穴などにすみ,おもに夜行性。3属4種がある。
ブチハイエナCrocuta crocutaは体長95~166cm,尾長25~36cm,肩高70~92cm,体重40~86kg。サハラ以南のアフリカ(熱帯雨林を除く)に分布。黄灰色の地に暗褐色ないし黒色の丸い斑点がある。雌の外陰部は長くのびて陰茎状を呈するため,昔は半陰陽とまちがわれた。他のハイエナではこのようなことがない。平原にクランclanと呼ぶ血縁集団で一定のなわばりを形成してくらし,地域によってはクランはよく発達しており,80頭が30km2を占有していた例も知られるが,ふつうは単独か2~10頭の群れに分かれて生活している。ふつう雌のほうが雄よりわずかに体が大きく,クランの中でも雌が優位で,リーダーも雌である。1~2頭でいるものは腐肉をあさり,小群でいるものはヌーなどのアンテロープ類を狩ることが多い。妊娠期間は約110日で1産1~3子。飼育下での寿命は41年の記録がある。
シマハイエナHyaena hyaenaは体長104~119cm,尾長26~47cm,肩高60~94cm,体重25~55kg。インド東部からアラビア,小アジア,北・東アフリカに分布。首から背にたてがみ状の長毛があり,灰色ないし淡褐色の地に暗褐色ないし黒色の縞をもつ。岩の多い乾燥地帯にすみ,ヒツジやウマなどの家畜を襲うこともあるが,動物の死体,ネズミやトカゲなどを食べる。妊娠期間は88~92日で,1産1~5子。寿命は飼育下で23~24年。カッショクハイエナH.brunneaは体長110~136cm,尾長18~27cm,肩高64~88cm,体重37~48kgでアフリカ南部の草原から半砂漠にすむ。体毛は粗く長く,毛色は褐色で首と四肢の下部が灰色っぽい。主食は他の肉食獣の食べ残しだが,ネズミや昆虫,卵,果実も食べる。妊娠期間は約90日,1産2~5子。生息数が減少している。
なお,ハイエナ科には他にツチオオカミ(アードウルフ)が含まれる。本種は前足の指が5本あり,あごと歯はきわめて貧弱で,シロアリが主食である。
執筆者:今泉 忠明
ハイエナは古くから性を変えることができる獣と考えられ,オウィディウスの《転身物語》に,ハイエナは1年間雄としてくらしてから雌に変わるとあり,《イソップ物語》では性転換するので信用ならない動物とされている。また大プリニウスは《博物誌》で,ハイエナの雌は雄と交尾しなくとも子を産めると述べている。この伝承は,ブチハイエナの雌にある陰茎状の外陰部を誤解したものだが,逆にいえば当時の動物に対する観察の細かさを物語っている。ハイエナは人声をまねできるともいわれ,人の名を呼んで外へおびきだしては食い殺すと恐れられた。これはその独特な鳴声に由来する。また,腐肉をあさるところから墓をあばいて死体を食う食屍鬼と同一視され,貪欲(どんよく)の象徴ともなっている。
執筆者:荒俣 宏
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