カバノキ科(APG分類:カバノキ科)の落葉性低木。オオハシバミともいう。葉は短い葉柄をもち、互生し、三角状広倒卵形、長さ、幅ともに8センチメートル前後、重複鋸歯(きょし)がある。雌雄同株。雄花は花被(かひ)を欠き、鱗片(りんぺん)状となり、垂れ下がる花軸につき、尾状花序をつくる。各鱗片には4~8本の雄しべがある。雌花は2花ずつ集まって小包葉に包まれ、それらが小形の包鱗に覆われて、頭状にみえる花序をつくる。各花の花被は短く、全裂した2本の雌しべがあり、子房は2室、各室に1~2個の胚珠(はいしゅ)がある。果実はやや大形の堅果で、大形の総包に包まれている。種子は堅い種皮の内部に主として肉質の子葉からなる白色の仁(じん)をもち、ナッツとしてよく利用される。中国では6000年前から利用され、3000年の栽培史をもつ。日本では古くから野生の利用が多い。北海道、本州、九州および朝鮮半島、中国東北部、アムール地方にまで分布する。ほかにツノハシバミC. sieboldiana Bl.、オオツノハシバミC. s. var. mandshurica (Maxim.) C.K.Schneid.(C. mandshurica Maxim et Rupr.)などが、分布し利用される。欧米のものはセイヨウハシバミとよばれ、ヨーロッパではC. avellana L.とC. maxima Mill.が多く、アメリカではC. americana WalterやC. cornuta Marsh.などが多い。これらもナッツとしてよく利用され、フィルバートfilbertとよばれる。また、ときにより、地方により、ヘイゼルナッツhazel nut、コブナッツcobnut、ランバートナッツlambert nut、スパニッシュナッツSpanish nutなどともよばれる。世界の類縁種は約20余種、北半球に分布し、利用される。フィルバートの主産国はアメリカ、トルコ、イタリア、スペインなどである。
[飯塚宗夫 2020年2月17日]
ナッツ100グラム中には622キロカロリー、タンパク質12.7グラム、脂質58.8グラム、炭水化物21.1グラム、灰分2.7グラムを含み、カルシウム、リン、カリウムなどの無機質も多く、ビタミンB1・ B2、ナイアシンなどもあり、食品としての価値は高い。生食のほか、仁からとれる油は約30%で、香りがよく食用油とする。生果実のまま、あるいは粉状として糖果の原料とする。樹皮には10%内外のタンニンを含み、皮革のなめしに用いる。樹木は緻密(ちみつ)で加工材とする。
[飯塚宗夫 2020年2月17日]
陽地に生えるカバノキ科の落葉灌木で,果実は食用となる。中国名は榛で,日本でもこの字をあてる。若枝や葉柄には軟毛と腺毛がある。葉は互生し,広倒卵形で先端はやや切形で急にとがり,縁には荒い不規則な鋸歯がある。雌雄同株。3月ごろ,新芽の開出に先立って開花する。雄花序は長い尾状花序となり,垂れ下がる。雄花は花被がなく,苞と小苞に包まれて,4~8本のおしべがある。おしべは花糸が深く2裂しており,一見したところ2本のおしべに見える。雌花は新枝の先端に数個つき,花序をなしているが,開花時には冬芽の先端から赤い花柱のみを出している。苞の腋(えき)にそれぞれ未発達の小苞に囲まれた2花がある。果実は,直径約1.5cmのほぼ球形の堅果で,2枚の葉状に発達した小苞につつまれる。北海道,本州,九州,朝鮮,中国大陸,ウスリー地方,アムール地方などの温帯域に分布する。
ツノハシバミC.sieboldiana Bl.は葉の先端が切形とならず,果実は長い筒状になった小苞に包まれる。セイヨウハシバミC.avellana L.はヨーロッパ原産で,その果実はヘーゼルナッツと呼ばれ,栽培されることもある。
執筆者:岡本 素治
ギリシア神話に語られるヘルメスの杖(つえ)(カドゥケウス)は,一説にハシバミの枝だったといわれる。これは彼がシュリンクス笛と交換にアポロンから得たもので,後世に至ってことばによる思考表現力を人間に授けた魔法の杖wandの原型とも信じられるようになった。ハシバミの枝は英知の象徴とされ,中世以降は鉱脈・水脈を見つける占いdowsingや埋もれた宝の発掘にY字形をしたこの枝が用いられた。目的の場所に着けば,枝が動いたり音を発したりして知らせたという。また古代ローマでは平和と幸福をもたらす木として,結婚式の夜にたくたいまつとして使われた。北欧でも雷神トールの木とされ,落雷から家や墓を護ると信じられた。ケルト人もこれを英知の木と考えて崇拝し,無断で切り倒せば死刑に処せられたといわれる。イギリスにおいても,ハシバミで作ったくさびを3本打ち込んだ家は,絶対に火災に遭わぬという言い伝えがある。花言葉は〈交歓,和解,平和〉。
執筆者:荒俣 宏
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