アメリカの小説家。セント・ルイスの有名なバローズ計算機製造業者の長男として生まれる。ハーバード大学卒業後、ニューヨークに住み、ビート・ジェネレーション(第二次世界大戦後、物質文明や因習、常識などに反発し、そこからの離脱を目ざした若者世代)の中心的存在となるジャック・ケロアック、アレン・ギンズバーグと知り合い、その先駆者的な存在となった。その後メキシコ、モロッコ、ヨーロッパ各地を放浪し、パリではシュルレアリスムの画家、詩人であるブリオン・ガイシンBrion Gysin(1916―1986)と出会った。これらの交友関係と薬物の使用が彼の表現活動に大きな影響を与えた。1953年、ウィリアム・リーの筆名で自らの麻薬中毒の体験を描いた『ジャンキー』(俗語で「麻薬中毒者」の意)を出版して、一躍有名になる。続く『裸のランチ』(パリ版1959、ニューヨーク版1962)では、麻薬中毒者の生活を伝統的な物語の枠を無視して、強烈なシュルレアリスティックなイメージで表現し、暴力や性の表現をめぐって発禁騒ぎとなった。裁判の結果、処分は取り消され、アメリカでの文学作品の検閲が廃止される契機となった。その後の作品『ソフト・マシーン』(パリ版1961、ニューヨーク版1966)、『爆発した切符』(パリ版1962、ニューヨーク版1967)、『ノバ・エクスプレス』(1964)、『ワイルド・ボーイズ』(1971)なども超現実的な傾向の強い作品で、ジョイス、ランボー、カフカからの文章の抜粋や、イメージをコラージュ風に羅列する「切り込み」(カットアップ)や「折り込み」(フォールドイン)と称する特異な実験を試みている。この手法は印刷物の文章を、実際にはさみを使ってばらばらにし、それらをつなぎ合わせて散文として再構成するというものである。1970年代中ごろから書き続けていた三部作『赤い夜の都市』(1981)、『死の道の場所』(1984)、『西にある国々』(1987)は、現代の文明社会を否定し、時間空間を超越して自分なりの理想社会、ユートピアを模索した小説である。初期の個人的な麻薬体験を描く小説とは異なるが、彼独特の文明思想、複雑な構成、描写、イメージなどによって、いずれも難解である。その後も執筆活動を続け、1995年に最後の作品となる『私の教育――夢の本』を出版した。現代社会の権力機構に反逆、抵抗するだけでなく、私生活でも、妻を誤って射殺したり、同性愛者であったり、映画に出演するなど、マスコミをにぎわすことも多かった。1983年、アメリカ芸術院会員に選ばれ、彼が批判してやまなかったアメリカの公式文化から認知されるという皮肉なことになった。『裸のランチ』は、1991年デビッド・クローネンバーグDavid Cronenberg(1943― )により映画化された。
[渡辺利雄]
『飯田隆昭訳『爆発した切符』(1979・サンリオ)』▽『鮎川信夫訳『ジャンキー』(1980・思潮社)』▽『飯田隆昭・諏訪優訳『麻薬書簡』(1986・思潮社)』▽『鮎川信夫訳『裸のランチ』(1992・河出書房新社)』▽『山形浩生訳『ノヴァ急報』(1995・ペヨトル工房)』
アメリカの小説家。ミシガン陸軍士官学校に学び、短期間合衆国騎兵隊に入隊。その後さまざまな職業を転々としたがいずれも失敗し、心機一転、SF的冒険小説『火星の月の下で』(のち『火星のプリンセス』と改題)を1912年に発表して、作家としての地位を確立した。ときに37歳。当時はまだSFという概念は成立していなかったが、心霊旅行によって火星に飛来した地球人のヒーローが縦横無尽の大活躍をするこの小説は大好評を博して、ついに全11巻に及ぶ長大な『火星シリーズ』に発展し、20、30年代に開花するスペース・オペラやヒロイック・ファンタジーに多大の影響を与えた。SF的な作品としてはこのほかに、地球空洞説に基づく『ペルシダー・シリーズ』七巻、『金星シリーズ』五巻、『月シリーズ』二巻、『時間に忘れられた国』などがある。
またアフリカの密林を舞台にした『ターザン・シリーズ』も1914年から発表し始め、30年代のハリウッドによる映画化の人気により全世界に普及して26巻にも達した。バローズは生前70冊ほどの作品を書き、普通小説、西部小説、歴史小説などの分野でも作品を残したが、なんといっても彼が本領を発揮したのはSF的冒険小説で、同時代の作家や作品の大半が過去に埋もれてしまったなかにあって今日でも依然として続み継がれているのは、彼がもつ天成の物語作家としての魅力によるというほかはない。
[厚木 淳]
「ユニシス」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
アメリカの作家。セント・ルイスに生まれ,ハーバード大学卒業後,ヨーロッパやアメリカで雑多な職につきながら,自己の強度の麻薬体験をウィリアム・リーWilliam Leeの筆名で語った《麻薬常習者Junkie》(1953)を発表。その後,麻薬患者の奔放なイメージを実験的な文体のエピソードで積み重ねた《裸のランチ》(パリ版1959,アメリカ版1962)で一躍有名になり,ビート・ジェネレーションの文学の代表者の一人になった。
執筆者:大橋 吉之輔
アメリカの小説家。富と名声を求めて転々と職を変えたがことごとく失敗,1912年《猿人ターザン》を書いて一躍人気作家となり,以後26冊のターザン物を書いた。これは映画化や漫画化もされ,主人公たる野生の高貴な人間ターザンは20世紀最大の大衆的ヒーローになった。バローズはまた火星,金星,ペルシダー(地底世界)などを舞台にした冒険小説も多数著し,アメリカのSF小説の先駆者ともなっている。
執筆者:亀井 俊介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…地球表面の一部または全部を縮小して平面上に描き表したものが地図である。英語では陸の地図をマップmap,海や湖の地図をチャートchart,また狭い地域の大縮尺の地図(図面)をプランplanと区別して呼ぶが,日本では地図という用語が共通に使われている。もっとも地図という用語は明治初期以降の用語であって,江戸時代には絵図(えず)と呼ばれていた。また地球表面だけでなく,月の表面を描いた月面図,あるいは地球を球面のまま模型にした地球儀などがあり,さらにまた地球の凹凸をやや誇張して立体的に表したレリーフマップ(立体地図),地表を斜め上から俯瞰した形で描画した鳥瞰図などもあり,これらも広義には地図の応用ないし変形と考えることもできる。…
…アメリカの小説家E.R.バローズが1912年雑誌《オール・ストーリー》に発表した冒険小説の主人公。単行本としては第1作《類猿人ターザン》(1914)以下26冊の長編がある。…
※「バローズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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