アミノ酸の一つで、4-アミノベンゼンカルボン酸、ビタミンH'ともいわれる。PABAと略記される。分子式C7H7NO2、分子量137.14、融点187℃。熱水、アルコール、エーテルに可溶。酵母から分離されており、葉酸の構成成分の一つとなっている。Streptococcusなどの細菌の発育因子であり、ビタミンB複合体の一つとされたこともあるが、ヒトにとっては必須(ひっす)栄養素でないことが明らかとなり、現在ではビタミンに分類されていない。構造が類似しているスルファニルアミド(スルファミン)は細菌の増殖を拮抗(きっこう)的に阻害する。これは、PABAを発育因子として要求する生物においてパラアミノ安息香酸(p(パラ)-アミノ安息香酸)から葉酸を合成する際に、スルファニルアミドがパラアミノ安息香酸に拮抗して阻害をおこすからである。したがって、スルファニルアミドはある種の細菌にとって必須な代謝反応を抑制するが、PABAから葉酸を合成できない宿主、たとえばヒトの代謝には影響を与えない。また、パラアミノ安息香酸のエステルの誘導体(プロカインなど)やアミド(リドカインなど)の誘導体は局所麻酔薬として知られる。
1904年ヌープFranz Knoop(1875―1946)はω(オメガ)炭素原子にフェニル基を結合したいろいろな直鎖型の脂肪酸をイヌに食べさせた。フェニル酪酸を与えるとイヌの尿にフェニル酢酸の誘導体が含まれ、フェニルプロピオン酸を与えると安息香酸の誘導体が生成された。実際、炭素原子を偶数個含む脂肪酸をイヌに与えると、必ずフェニル酢酸がつくられ、炭素原子を奇数個含む脂肪酸を与えると必ず安息香酸ができた。これらの発見からヌープは、脂肪酸はω炭素の酸化によって分解されると推論した。この実験は、合成した標識(フェニル基)を用いて反応機構を解明した最初の実験という点で、生化学における金字塔の一つである。重水素や放射性アイソトープによる標識法が生化学の分野に登場したのは、これより数十年も後のことである。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
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