翻訳|Hindi
インド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派のアーリア諸語に属し、普通東西二つの語群に分けられる。東のグループは、コーサリー語、アワディー語、バゲーリー語、チャッティースガリー語などからなり、インドのウッタル・プラデシュ州およびマディヤ・プラデシュ州の東部および中央部、ビハール州、ネパール南部などの各地域で話されている。また、西のグループは、カリーボーリーといわれる標準ヒンディー語、イスラム教徒たちの共通語であるウルドゥー語、バーンガルー語、ブラジバーカー語、ブンデーリー語、カナウジー語などからなり、ウッタル・プラデシュ州の中央部および西部、マディヤ・プラデシュ州の北部、ヒマチャル・プラデシュ州、ハリアナ州、ラージャスターン州などの地域で話されている。
ヒンディー語は、英語とともにインドの公用語として国会や中央官庁において用いられており、ウッタル・プラデシュ州、マディヤ・プラデシュ州、ビハール州、ハリアナ州、ラージャスターン州、ヒマチャル・プラデシュ州、デリー中央政府直轄地区などの公用語ともなっている。インド国外においても、アフリカをはじめ、南米のギアナやスリナム、南太平洋のフィジー島などでヒンディー語を話すインドからの移民が多数おり、これらを含めるとヒンディー語の使用人口は2億数千万に上り、理解人口となると3億人を超すものと思われる。
標準ヒンディー語の歴史的発達の過程をたどってみると、13~14世紀ごろ中期アーリア諸語の一つであるシャウラセーニー・アパブランシャ語の影響を受けつつ発達したデリー地方の言語が、まず初めに北インドに住むイスラム教徒たちの共通語となり、やがてヒンドゥー社会の上層部の人々にも受け入れられるようになっていった。この言語は普通ヒンドゥスターニー語とよばれるが、14世紀から15世紀にかけ、デカン地方で発達したダクニー(ダキニー)語の例に倣い、ペルシア語やアラビア語の語彙(ごい)を豊富に取り入れて成立したウルドゥー語とともに、インドの代表的言語として1799年カルカッタ(現コルカタ)に設立されたフォートウィリアム・カレッジでイギリス人官吏に教えられた。しかし、こうしたウルドゥー語に対抗する形で、ヒンドゥスターニー語からペルシア語やアラビア語の語彙を排除し、できるだけサンスクリット語の語彙を取り入れることによって成立したのが今日の標準ヒンディー語である。なお、ウルドゥー語がペルシア系の文字で右から左へと書かれるのに対し、ヒンディー語はナーガリー文字で左から右へと書き表される。
[奈良 毅]
『土井久彌編『ヒンディー語小辞典』(1975・大学書林)』▽『土井久彌著『ヒンディー語入門』(1979・泰流社)』▽『S. K. ChatterjiIndo-Aryan and Hindi (1960, Firma K. L. Mukhopadhyay, Calcutta)』▽『A. R. KelkarStudies in Hindi-Urdu (1968, Deccan College, Poona)』
インド語派(インド・アーリヤ諸語)の有力な言語の一つで,同系統の諸語のなかでは,地理的にみてインド中心部に分布する。北インドの共通語であり,インド(バーラト)の公用語でもある。
ヒンディー語という名称は今日では次の4とおりの意に用いられる。(1)狭義にはドアーブ(ガンガー(ガンジス),ヤムナー両河に挟まれた地域,とくにデリー,メーラト周辺)地方のカリー・ボーリー方言。(2)カリー・ボーリー方言に近接の諸言語・方言および古典語の要素が加わって形成された北インドの共通語。(3)言語学的に,カリー・ボーリー方言,ブラジュ・バーシャー方言などからなる西部ヒンディー語とアワディー方言,バゲーリー方言などからなる東部ヒンディー語の総称。(4)広義には,共通語としてのヒンディー語が一般人のあいだに通用する地域に分布するすべての言語,方言で,これには(3)のほかに,西方のラージャスターニー語,東方のビハーリー語(諸方言)なども含まれる。
ヒンディー語の歴史を,方言から共通語,公用語への動きとしてとらえると,13世紀ごろにアパブランシャ語から分化して独立の方言となったカリー・ボーリーが,その分布地域のデリーに都を置いたムガル朝の勢力拡大に伴って,16世紀ごろからその武将,兵士と彼らの周辺にいた商人,職人などにより北インド一帯の都市に運ばれ,そこで土着の上・中層の人々によって受け入れられるにつれ,北インドの共通語となり,イギリス統治時代には官僚,宣教師,文人の手で,独立後のインドでは諸階層の努力で文章語,公用語としての条件と機能をもつようになってきた。そして1949年に施行された憲法では,共通ヒンディー語のデーバナーガリー文字で表記された形がインド(バーラト)の公用語と定められた。しかし,ヒンディー語と異なる系統に属するタミル語の話者を中心とする南インドの中・上層民の意向を大きく反映した公用語法(1963)の規定により,英語がヒンディー語とならんで公用語として認められており,行政的,文化的に英語のほうがヒンディー語より優位に立つ例が少なくない。
共通ヒンディー語の構造上の特徴では,音韻的には反舌音,帯気音を多数もち,比較的単純な音節構成をとること,形態的には主部が〈数〉と〈格〉により変化し,述部は〈性〉と〈数〉で変化すること,統辞的には,主部-補語・目的語-述部の順を基本とすることなどがあげられる。
執筆者:坂田 貞二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
インド・アーリヤ諸語の一つ。インド独立後はその連邦公用語(ただし英語と併用)。主に北インドで話され,その話者人口はインド人口の4割を占める。歴史的には,デリー周辺のカリー・ボーリー方言から発達したとされる。イギリス植民地期に文章語としての発達をとげた。ヒンディー語はウルドゥー語と同一の文法構造をもつが,表記にデーヴァナーガリー文字を用いる。広義には,ビハール,ラージャスターンなどで話される諸言語を含む。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…正式名称=インドBharat∥India面積=328万7263km2(ジャンムー・カシミール(12万1667km2)を含む)人口(1996。ジャンムー・カシミールを含む)=9億5296万人首都=ニュー・デリーNew Delhi(日本との時差=-3.5時間)主要言語=ヒンディー語(公用語),英語(準公用語),テルグ語,アッサム語,マラーティー語,ベンガル語,タミル語など憲法にあげられている17の地方の公用語通貨=ルピーRupee国名はヒンディー語ではバーラトBharatという。インドは北半球に属し,その面積は,ヨーロッパの面積からイギリス,アイルランド,スカンジナビア諸国,ヨーロッパ・ロシアの面積を引いたものにほぼ等しい。…
…後者の用法のほうがより一般的である。 ヒンディー語とウルドゥー語もヒンドゥスターニー語を基に成ったので,これら3言語の基本的な構造に大差はない。しかしヒンドゥスターニー語が市井の話し言葉であるのに対して,ヒンディー語がデーバナーガリー文字で表記され,サンスクリットの語彙を多用するヒンドゥー教徒の書き言葉として,またウルドゥー語がペルシア文字で表記され,ペルシア・アラビア語語彙を多用するイスラム教徒の書き言葉としての性質を強めるにつれ,両者は話し言葉ヒンドゥスターニー語から別々の方向に遠く離れていった。…
※「ヒンディー語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新