翻訳|biscuit
当初はポルトガル語 biscouto に由来してビスカウト、ビスコウト、ビスコイトと呼ばれていた。幕末になると、軍事用保存食として乾パンと共に注目を集めた。ただし、名称は英語由来のビスケット、ビスキットに変わる。明治八年(一八七五)、米津風月堂が日本初のビスケット量産に成功し、一般に広まった。
小麦粉を主原料にした洋風焼き菓子。小麦粉に糖類、油脂類、牛乳、卵、香料などを加え、成型してオーブンで焼いたもの。広義にはクッキーcookie、サブレーsablé、クラッカーcracker、ラスクrusk、乾パンなどもビスケット類の仲間である。語源はラテン語のbis coctus(二度焼きという意味)といわれている。イギリスで発達したもので、パンを保存するために薄く切ってもう一度焼いたのが始まりである。現代の甘味のあるビスケットは、イギリスではビスケット、フランスではサブレーとよばれ、アメリカではクッキーが一般名である。アメリカやフランスでビスケット(ビスキュイ)といえば、甘味の少ない堅焼きのパン状のものを意味している。しかし、日本ではビスケットとクッキーとサブレーが混在し、明確な違いはない。
[河野友美・山口米子]
語源にあるようにビスケットの原形はパンに近いもので、二度焼くことにより保存性をもたせた携帯食であった。15世紀ごろ、ヨーロッパでは船旅や軍隊用としてビスケットを用いている。実際にイギリスではシップビスケットship biscuitという語があり、船旅用の食糧として重要なものであった。ビスケットは本来砂糖を加えない乾パン風のものであったが、菓子としても発達し、イギリスでは18世紀に工業化して大量生産を始めた。日本へは16世紀後半にポルトガル人がビスカウトという名で伝えた。江戸末期から明治時代には兵糧食として検討されたこともある。菓子としてのビスケットを日本で最初につくったのは凮月(ふうげつ)堂の米津(よねづ)松造で1875年(明治8)である。
[河野友美・山口米子]
原料配合と製法からハードビスケット、ソフトビスケット、ファンシービスケットの三つの系統に分類される。ハードビスケットは、脂肪、糖分が少ないので口あたりが比較的固い。表面に彫込み模様とガス抜きの針穴があるのが特徴である。ソフトビスケットは、脂肪、糖分が多く、砕けやすい食感がある。表面に浮き出し模様があり、針穴はない。ファンシービスケットは、ソフトビスケットよりさらに糖分や脂肪が多く、形や副材料も豊富である。ソフトビスケットやファンシービスケットのなかで手作り的な外観があり、形や材料が変化に富んでいるものをクッキーやサブレーという。JAS(ジャス)(日本農林規格)のビスケット類にはビスケットのほかにクラッカー(乾パン、プレッツェルも含む)、カットパン(ビスケット用オーブンで焼いたパン生地(きじ)に近いもの)、パイ(ビスケット用オーブンで焼いたパイ生地の菓子でパフともいう)なども含まれている。
[河野友美・山口米子]
ビスケットは小麦粉に糖類、脂肪類、乳製品(牛乳や粉乳)、卵、水、香料などを配合して生地をつくり、いろいろな成型法で型抜きをする。これを焼き釜(がま)で焼き上げ、ジャムなどを挟む(サンドタイプ)、チョコレートなどをコーティングするなどの加工仕上げがされる。ほとんどのビスケットがオートメーション化された工場で製造されている。クッキーはビスケットと製法はほとんど同じで、生地の配合が変わり、糖分や脂肪が多く、ナッツ類、乾燥果実などの副材料が用いられる。形も手作りの雰囲気を出すため、いろいろな形につくられる。家庭での作り方には大別して、ビスケットに近い型抜きクッキー、生地を天板に絞り出すドロップクッキー、生地を棒状に丸めて冷やし、薄く切って焼くアイスボックスクッキーの三つがある。型抜きクッキーは他の二つに比べ脂肪含量が少ない。クラッカーも工場でつくられ、甘味が少なく塩味のもので、生地をイースト発酵させるものが多い。イーストと炭酸水素ナトリウム(重曹)を併用したソーダクラッカーが代表的なもので、そのほか副材料からチーズクラッカー、グラハムクラッカー、オートミールクラッカーなどがある。主食やスナック食、おつまみとして他の食品(野菜、ジャム、ハムなど)と食べる。クラッカーにはそのほか、細いスティック状、ロープの結び目状(プレッツェル)、小さい魚形など多様なものがある。
ビスケット類は主として菓子であるが、塩味のスナック食やおつまみ用のもの、育児用と幅広い製品がある。近年、半生(なま)タイプと称されるビスケットとケーキの中間的なものも製品化されている。
[河野友美・山口米子]
『渡辺義雄製作・監修、榊満著『乾き菓子495』(1998・モーリス・カンパニー、星雲社発売)』▽『吉田菊次郎著『洋菓子はじめて物語』(平凡社新書)』
洋菓子の一種。小麦粉を主材料とし,種々の副材料を加えて生地を作り,薄く小型に成形して焼き上げたもの。水分が少ないので保存性がある。副材料としては,砂糖,はちみつなどの糖類,バター,ショートニングなどの油脂,卵,乳製品,食塩,膨張剤(おもにベーキングパウダー),香料などのほか,チョコレート,ココア,乾燥果物,ナッツ類,ジャムなどを使うこともある。イギリスでビスケットと呼ばれるものの大部分が,アメリカではクッキーcookie,フランスではサブレsabléと呼ばれる。日本ではビスケット,クッキー,サブレなどの語が用いられているが,これらの間に明確な区別があるわけではなく,副材料の卵や乳製品の量が多く,より手作り的なものをクッキー,サブレと呼ぶことが多い。
ビスケットの原形は,小麦粉を水で練って焼いた古代の無発酵パンにまでさかのぼることができる。やがて,これを小さく薄く切ってもう一度焼き,水分を少なくして保存性を高めるとともに,携帯に便利な食品を作った。これが現在のビスケットの始まりと考えられ,語源も〈2度(bis),焼いた(cuit)〉というフランス語とされる。貯蔵に耐え携帯に便利な点から,ビスケットは航海用や軍隊用の携行食として発達した。F.マゼランは1519年世界周航を目ざしての出発に際し,乗組員全員が2年間食べられるだけの量を用意したという。またそのころから海運国として活躍し始めたイギリスでは,産業革命後に工業化が行われ,大量生産されるようになった。日本にはカステラ,ボーロなどの他の南蛮菓子とともに,16世紀後半にポルトガル人によってもたらされた。江戸時代には《南蛮料理書》など製法を記載した書もあるがほとんど行われず,幕末になってパンとともに軍用の携帯食として一部で注目されたが,本格的に製造され始めたのは,1878年ころ東京の米津凮月堂がイギリスから機械を輸入して以来のことである。
原料配合と製法によって3種に大別される。(1)ハードビスケット グルテン(麩質)の多い強力粉を用い,砂糖や油脂の配合は少ない。長時間こねて生地に粘りを出し,火ぶくれを防ぐために針穴や彫込み模様をつけて焼く。このタイプのものは機械生産され,家庭では作れない。口当りはかたく,水分が少ないので貯蔵に耐える。(2)ソフトビスケット 薄力粉を用い,砂糖と油脂を多く配合し,香料も用いる。ベーキングパウダーは用いないことも多い。表面につやがなく,浮出し模様をつけることが多い。口当りは柔らかく,さっくりしている。(3)ファンシービスケット ソフトビスケットよりもさらに砂糖や卵の量を多くし,形状その他に趣向をこらしたものを呼ぶことが多い。ただし,ソフトとファンシーに明確な区別があるわけではない。これらのほか,クラッカーや乾パンもイーストで発酵させた生地を使う以外は,製造工程,性状がほぼ同じなのでビスケット類とすることもある。
執筆者:辻 静雄
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…そうした民衆はもとより,地方官としての赴任その他の貴族の旅行の場合にも,干飯がもっとも多く用いられたことは,《伊勢物語》の東下りの段などによってもうかがうことができる。 携帯食糧の発達は軍事上の必要によってうながされることが大きいが,日本では幕末・明治になってヨーロッパの技術を習得し,乾パン,ビスケットが軍用に供されるようになるまで大きな変化はみられなかった。軍事行動中の予備食としての乾パンを最初に研究試作したのは伊豆韮山(にらやま)代官の江川太郎左衛門で,1842年(天保13)のことだという。…
※「ビスケット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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