動物の成長や正常な生理機能維持のために必要で、体内では合成できないため食事として摂取しなければならない脂肪酸。1929年ブァーBurr(1896―1990)夫妻によって初めて食事必須性が明らかにされた。多種類の必須脂肪酸が知られているが、リノール酸、α(アルファ)-リノレン酸およびアラキドン酸が代表的なものである。必須脂肪酸がその機能を発揮するためには一定の構造が要求される。必要量はリノール酸としてエネルギー摂取量の1~2%とみなされるので、日本人の場合、通常の食事で不足することはない。必須脂肪酸は主としてリン脂質に組み込まれ生体膜の正常な機能発現に役だち、また種々のエイコサノイド(ホルモン様の生理活性物質で、ホルモンや細胞機能の調節に不可欠の物質。プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどがある)に転換され代謝や機能の調節作用を営んでいる。さらに血清コレステロール濃度低下効果をも有する。一般に植物性油脂はリノール酸を多く含み、なかでもサフラワー油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、大豆油、米油などはよい供給源である。
[菅野道廣]
『鹿山光編『総合脂質科学』(1989・恒星社厚生閣)』▽『マイレル・レッサー著、大沢博訳『脂肪と成人病――栄養療法が現代人を救う』(1992・ブレーン出版)』▽『熊谷朗著『EPAの医学――疫学・栄養学から臨床応用まで』(1994・中山書店)』▽『鹿山光編『AA、EPA、DHA――高度不飽和脂肪酸』(1995・恒星社厚生閣)』▽『ジョン・フィガネン著、今村光一訳『ガン・成人病を撃退する――よい脂肪悪い脂肪』(1995・徳間書店)』▽『ジョン・フィガネン著、今村光一訳『危険な油が病気を起こしている』(1998・オフィス中村、中央アート出版社発売)』▽『日本脂質栄養学会監修、高田英穂ほか編『脂質とガン』(2000・学会出版センター)』
不可欠脂肪酸ともいう。動物が生体内で合成できず,食物によって摂取する必要のある脂肪酸をいう。バーG.O.BurrらおよびエバンズH.M.Evansは,動物の栄養にリノール酸,リノレン酸などが必要であることを明らかにし,これらをまとめてビタミンFと命名した(1934)。その後,それ以外にアラキドン酸も必要であることもわかった。これら脂肪酸はそれぞれ二重結合を2,3,4個含む不飽和脂肪酸(C18~C20)であって,天然に存在するものは二重結合がシス型で,トランス型のものは無効である。なお,通常のビタミンより多量に必要とするので現在はビタミンFといわず,必須脂肪酸といっている。小児では必須脂肪酸が欠けると皮膚炎が起こることがある。リノール酸は綿実油,大豆油など,リノレン酸は亜麻仁油に多く含まれ,アラキドン酸は肝油などに含まれる。リノール酸からも導かれるアラキドン酸,γ-ホモリノール酸,エイコサペンタエン酸など高度不飽和脂肪酸は,プロスタグランジンと総称される種々の生理活性を有するホルモンに転換することが知られている。
→脂肪酸
執筆者:腰原 英利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人体内で合成できないため,食物として摂取しなければならない脂肪酸.不飽和脂肪酸のうち,分子のω末端(カルボキシル基の反対側)寄り(n-6またはω6;n-3またはω3)に二重結合を有するリノール酸(18:2,Δ9,12,ω6)やリノレン酸(18:3,Δ9,12,15,ω3)など.これらは皮膚の成長や再生に必要なほか,生理活性脂質プロスタグランジン(PG)の前駆物質として,各種生理機能の調節にも関与する.下図のようにプロスタグランジンの原料となるアラキドン酸(20:4,Δ5,8,11,14,ω6),およびイコサペンタエン酸(20:5,ω3)やドコサヘキサエン酸(22:6,ω3)は,体内でリノール酸やリノレン酸からそれぞれ合成される.二重結合の位置をΔで表示するときはカルボルシル基側から,nまたはω表示のときは反対のメチル基側から数える点に注意.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…脂肪酸のアルカリ塩はいわゆるセッケンで,水溶液中ではミセルを作る。哺乳類は飽和脂肪酸と一不飽和脂肪酸を合成することはできるが,その他の不飽和脂肪酸は植物から食餌としてとらなければならず,これは必須脂肪酸と呼ばれる。脂肪酸
[脂肪]
脂肪は3価アルコールであるグリセリンと脂肪酸とのエステルで,エステル結合をする脂肪酸の数が1個であるものをモノグリセリド(モノアシルグリセロール),2個のものをジグリセリド(ジアシルグリセロール),3個のものをトリグリセリド(トリアシルグリセロール)と呼ぶ(図2)。…
※「必須脂肪酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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