日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ピエール・ド・マンディアルグ
ぴえーるどまんでぃあるぐ
André Pieyre de Mandiargues
(1909―1991)
フランスの小説家、詩人。パリの裕福な家庭に生まれる。祖父は印象派絵画の収集家として有名なポール・ベルナール。ソルボンヌで考古学を専攻したが、学業を放棄し、ヨーロッパ、近東各地への大掛りな旅と読書三昧(ざんまい)の青春期を過ごした。第二次世界大戦中はモンテ・カルロに戦火を避け、シュルレアリスムの自動記述法を交えた散文詩『汚れた年月のなかで』(1943)を自費出版。戦後ブルトンを知ったが直接シュルレアリスム運動には参加しなかった。初期の短編小説集『黒い美術館』(1946)、『狼(おおかみ)の太陽』(1951)は、怪奇な夢とエロティシズムと暴力の織り成す幻想の世界を高度に彫琢(ちょうたく)された文体で描き上げた作品群で、この作家の本質を鮮烈に示している。処女喪失の儀式をテーマとした『海の百合(ゆり)』(1956)、のちに映画化された『オートバイ』(1963)の二作で読者層は広がり、長編小説『余白の街』(1967)でゴンクール賞を受賞するに及んで文壇に不動の地位を占めた。美術評論も多い。三島由紀夫の文学に傾倒し、戯曲『サド侯爵夫人』を翻訳した(1976)ほか、能など日本文化に並々ならぬ関心を示していた。
[須藤哲生]
『生田耕作訳『黒い美術館』(1985・白水社)』▽『生田耕作訳『狼の太陽』(1975・白水社)』▽『生田耕作訳『オートバイ』(1984・白水社)』▽『生田耕作訳『余白の街』(1970・河出書房新社)』▽『品田一良訳『海の百合』(1966・河出書房新社)』