日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファイアストン」の意味・わかりやすい解説
ファイアストン
ふぁいあすとん
Firestone
アメリカの大手タイヤ・メーカーの一つ。1988年（昭和63）にブリヂストンの子会社となり、ブリヂストン・ファイアストンBridgestone/Firestone, Inc.（略称、BFS）が設立され、さらに2001年（平成13）にブリヂストン・アメリカスBridgestone Americas, Inc.（略称、BSAM）と改称した。20世紀の自動車産業の勃興(ぼっこう)とともに発展を遂げた。
［田口定雄］
ファイアストンの歴史
1900年8月、創業者ハーベイ・S・ファイアストンHarvey Samuel Firestone（1868―1938）がオハイオ州アクロンに設立した馬車用ソリッドタイヤ（内部にスポンジを満たした当時の旧式タイヤ）の販売会社ファイアストン・タイヤ・アンド・ラバーFirestone Tire & Rubber Co.が起源である。1902年工場を開設、1904年には自動車用空気入りタイヤの生産を開始。1906年フォードに製品の納入を開始し、これをバネに急速に成長、自動車関連部材やほかのゴム製品も多角的に展開した。
1909年車輪のリム製造を開始、1918年ファイアストン・スチール・プロダクトを設立して金属事業に参入した。禁酒法が廃止となった1933年にはステンレス製のビヤ樽(だる)を発売、木製のビヤ樽を市場から追いやった。また1935年綿製タイヤコード（タイヤ芯(しん)体の補強用繊維）の生産を開始、その後、合成繊維製コードやコンベアベルト、テントなど繊維・織物製品事業に発展した。1926年アフリカのリベリアにゴム園を開設、イギリスの天然ゴムカルテルによる価格支配に挑戦した。1933年合成ゴム研究に着手、1939年スチレン・ブタジエンゴムの生産を開始した。第二次世界大戦中はゴム業界が共同で政府の増産計画に協力、ファイアストンはこれに大きく貢献した。日本軍に封鎖されて東南アジアからの天然ゴム供給がとだえたため、自国で天然ゴムを産出しないアメリカは、合成ゴム開発の必要性に迫られたのである（政府所有の合成ゴム工場の操業開始は1942年）。
ファイアストンはマーケティング面で各種の新機軸を打ち出したことでも知られる。1925年以降、直営小売店や系列の独立ディーラー網を形成し、タイヤだけでなく、自動車関連用品や日用雑貨まで扱うことで、大恐慌期の販売店の経営を安定させた。その一方、1911年以来インディ500など自動車レースのドライバーを後援、優勝を重ねることでタイヤ性能を実証して広告の武器とした。また1928年からラジオのクラシック音楽番組のスポンサーとなり、1962年まで続く長寿番組となった。
［田口定雄］
ブリヂストンによる買収
第二次世界大戦後も新製品や多角化による発展が続いたが、1970年代なかばから1980年代にかけてアメリカのゴムタイヤ業界の凋落(ちょうらく)と再編成が始まる。フランスのミシュランMichelinが、1950年代からフランス市場で発売していたラジアル・タイヤ（内部のカーカスコードが直角のタイヤ）の生産拠点を1970年代なかばにアメリカに移し、優れた耐久性と経済性を武器に当時主流のバイアス・タイヤ（カーカスコードが斜めのタイヤ）を駆逐したこと、また、それによるタイヤの長寿命化で市場が縮小したことがその原因であった。アメリカの大手タイヤ・メーカーは事態への対応が遅れ、ヨーロッパや日本など外国企業による買収が相次いだ。ファイアストンも、アメリカ進出を急いでいたブリヂストンにナッシュビル工場を1983年（昭和58）に売却した。その後1988年にはイタリアのピレリPirelliと買収を競う形で、ブリヂストンがファイアストンを完全買収した。以来、ブリヂストン・ファイアストンと改称、ブリヂストン・グループの一員となった。ブリヂストンは赤字の続くBFS立て直しのため、1992年に人事の刷新、組織改革、流通チャネル合理化などの対策を実施。1994年の長期ストも乗り切って急回復し、1990年代後半は北米市場のリード役になった。2001年に持株会社制を導入、組織を再編し、ブリヂストン・アメリカスと改称した。
［田口定雄］