改訂新版 世界大百科事典 「フィロストラトス」の意味・わかりやすい解説
フィロストラトス
Philostratos
紀元後2世紀から3世紀にかけて活躍したギリシアの著作家で,レムノス島出身のひとつの家系から同名の3~4人の作家が出たと考えられる。そのうち最も重要な人物は170年ころ生まれ3世紀の半ばに世を去ったフィロストラトスである。新ソフィストとしてアテナイで教えていたが,ローマに渡って皇帝の后ユリア・ドムナを保護者とする思想家たちのサークルに加わり,彼女の勧めで《テュアナのアポロニオス伝》を書いた。これは1世紀初頭に小アジアに生まれた新ピタゴラス派の哲人の伝記で,全8巻から成り,資料的には正確ではないが,インドを含む広い領域を放浪しながら教えを説いた苦行者的生活を描いていて興味ぶかい。伝記的著作としてはほかに《ソフィスト伝》があるが,当時の思想家たちの生活や個性を知るのに貴重な資料である。また《絵画論》と題する著述も彼の名のもとに伝わっているが,これは同じ一族の通称レムノスのフィロストラトスの作とする説もある。当時ナポリに集められていた絵画を記述したもので,芸術批評の最も古い例として名高いが,当時の芸術の傾向を知るのには役立つものの厳密な意味での批評にはなっておらず,そもそも記述されている絵画が実在したかどうかも疑わしい。レムノスのフィロストラトスの孫によって書かれたと伝えられる《絵画論》の続編も残っていて,これらは新ソフィスト時代の著述の特徴を知る資料として重要である。
執筆者:引地 正俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報