ベイナイト(その他表記)bainite

改訂新版 世界大百科事典 「ベイナイト」の意味・わかりやすい解説

ベイナイト
bainite

炭素鋼をオーステナイト状態から冷却して,パーライト変態が生じる温度領域とマルテンサイト変態が開始する温度(Ms点)の中間の温度領域に恒温保持したとき生じる組織(〈相変態〉の項参照)。アメリカのベーンE.C.Bainらにより発見された。モリブデンクロムなどの合金元素を含む鋼ではこのような恒温保持中だけでなく,中程度の速さで連続的に冷却しても生じる。およそ400℃以上で生じる上部ベイナイト羽毛状ベイナイト)とそれ以下の温度で生じる下部ベイナイト針状ベイナイト)に大別される。両者ともセメンタイトと無拡散的に生じたフェライトとから成るが,前者のセメンタイトはフェライトの板状組織の境界に生じ,後者のセメンタイトはフェライト板の内部に生じる。前者は比較的軟らかいが靱性(じんせい)に乏しいのに対し,後者はバランスのよい強度と靱性を有する。下部ベイナイトを得る恒温保持処理は,オーステンパーaustemperingと呼ばれ,自動車用鋼などの熱処理として採用されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベイナイト」の意味・わかりやすい解説

ベイナイト
bainite

鋼を高温オーステナイト域から一定の温度領域 ( A1 点より低く Ar ″点より高い) に急冷し,一定時間保持すると現れる組織 (→TTT曲線 , 鉄鋼の変態 ) 。その温度領域と保持時間は鋼種によって異なるが,共析炭素鋼では 200~500℃,10秒 (高温側) ~数時間 (低温側) である。ベイナイトの代表的な組織は特異組成の鉄炭化物とフェライトから成る特殊なもので,温度領域の高温側と低温側では顕微鏡下でやや異なる様相をもち,前者は羽毛状で高温ベイナイト,後者は針状で低温ベイナイトという。硬くて靭性のあるよい機械的性質をもつ。オーステナイト→ベイナイト変態は,十分な拡散を伴って生じるオーステナイト→フェライト,パーライト変態と,拡散を伴わないで生じるマルテンサイト変態の中間的な温度領域において無拡散変態,拡散変態双方を含んで生じるとされている。マルテンサイトと異なり焼戻さずに使用できる利点がある。名称は鋼の恒温変態の研究者 E.C.ベインにちなむ。

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化学辞典 第2版 「ベイナイト」の解説

ベイナイト
ベイナイト
bainite

オーステナイトパーライト生成温度より低く,マルテンサイト生成温度より高い温度範囲で分解したときに生成するフェライトと炭化物の混合組織.E.C. Bainの名前にちなんで命名された.高温度域で生成する上部ベイナイトは羽毛状ベイナイトともよばれ,その微細組織は棒状のフェライトの束で,そのフェライトの間をセメンタイト帯状に埋めた組織である.低温度域で生成する下部ベイナイトは針状ベイナイトともよばれ,内部に炭化物をもつ板状のフェライトである.この組織をもつ鋼の機械的性質は焼入れ焼戻しで得られる組織の鋼のものよりすぐれている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のベイナイトの言及

【相変態】より

…変態生成物は,温度によって異なり,曲線の鼻より上ではパーライトが生じ,その組織は温度が高い場合は粗く,低い場合は細かい。鼻より低い温度ではベイナイトbainiteと呼ばれる組織が得られる。高い温度で生成したベイナイトは上部ベイナイトと呼ばれ羽毛状組織であるが,低い温度で生成したベイナイトは下部ベイナイトと呼ばれ針状組織である。…

【相変態】より

…これに対して原子配列を伴わない変化が磁気変態である。鋼および合金の熱処理に伴う相変態には,マルテンサイト変態,共析変態,ベイナイト変態などがあり,状態図,変態曲線などを参考にすると理解しやすい。
[マルテンサイト変態]
 マルテンサイト変態は構成原子が拡散して進行する変態ではない。…

※「ベイナイト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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