翻訳|hospice
悪性の疾患にかかり,治癒の可能性がなく,進行した状態あるいは末期の状態にある患者とその家族が,死までの残された時間に意味を見つけ,その時間を十分に生きることを可能にするための,思いやりのある広範囲なケアをホスピス・ケアhospice careという。こうしたケアは,在宅でも入院でも行えるが,このための特別の施設をホスピスという。もともとはこの語は,巡礼者の宿泊所を意味した。
ホスピス・ケアを普及する運動をホスピス運動というが,ホスピス運動は当初ヨーロッパにおいて展開された。ホスピス運動には,中世の行路病者や悪性疾患の末期患者で身寄りのない者などを受け入れたオテル・ディユの伝統を継いだカトリック系のものと,1967年にロンドンに設立された〈セント・クリストファー・ホスピス〉に代表されるプロテスタント系のものとの二つの流れがある。今日では,これらのうちソンダースCicely Saundersの創設による〈セント・クリストファー・ホスピス〉の思想と実践が,世界のホスピス運動に強い影響を与えている。
具体的なホスピス・ケアは,痛みの緩和に代表される身体的苦痛への対処,死への不安に代表される精神的苦痛への対処,残される者,とりわけ配偶者への対処が中心的内容をなしている。精神的苦痛への対処では宗教の果たす役割が大きく,ホスピス運動が国際的にみても宗教をバックボーンとして発展している事実につながっている。ホスピス・ケアは,高齢化社会の進展に伴い,本格的に展開された。また専門スタッフの養成,ホスピス・ケアのプログラム開発,医療費負担のあり方等々,医学的,医学教育的,経済的な検討も開始されている。1980年には16ヵ国の代表が参加して,第1回ホスピス国際会議がセント・クリストファー・ホスピスで開かれ,ホスピス・ケアに関する国際的な学問的・実践的交流と研究の場が形成された。
日本におけるホスピス・ケアは,西欧諸国よりも立ち遅れている。その理由の一つとして,死が不可避であることを患者に告げる習慣が欠けていること,すなわち〈死の宣告〉に対する拒否反応が医師,患者,家族のいずれにも根強く存在していることが指摘される。また,死を前提としたケアを,臨床医学の敗北と受けとる立場もある。日本におけるホスピス・ケアは,これらの問題について,関係各層の合意を形成しつつ進められ,キリスト教を背景としたホスピスをはじめ,在宅ホスピスを含めて,その数は増加しつつある。
執筆者:日野 秀逸
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(田辺功 朝日新聞記者 / 2007年)
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…かなり厚い看護体制の必要な特別養護老人ホームは,近年かなり日本各地に設立されている。しかし,臨死期の患者を迎えて,苦痛を延ばすのみと感じられるような積極的医療を控え,人間的な慰撫を基調とするホスピスは,1967年ロンドンに始めて設けられてから,しだいに数が増え,アメリカではホスピス協会が設立されるほどになっているが,日本では1,2ヵ所にとどまり,しかも,出来高払いの日本の健康保険の診療報酬体系にはのりにくいために,普及の可能性は乏しいとみられている。
【病院と患者と医師】
医療技術的には,病院は近代医学の実質的な象徴である。…
…また同じころ数多く制作された各種の〈来迎図〉も,臨終時の往生を約束する聖具として利用された。 ところで今日,西欧では死のみとりの問題はホスピス運動として知られているが,この考えの源流は11世紀の十字軍戦争の時代にさかのぼるという。すなわち当時,聖地エルサレムへの旅で病気になった巡礼者や,従軍して傷を負ったキリスト教徒たちを収容する施設が作られたが,それが同時に死のみとりを行う場所ともなった。…
※「ホスピス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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