ホスピス(英語表記)hospice

翻訳|hospice

デジタル大辞泉 「ホスピス」の意味・読み・例文・類語

ホスピス(hospice)

末期がん患者など死期の近い病人を対象に、延命処置を行わず、身体的苦痛を和らげ、精神的援助をして生を全うできるように医療を行う施設。1967年ロンドン郊外にできたものに始まるが、中世ヨーロッパの教会で病人や巡礼者を泊めたことが起源。→ターミナルケア
[類語]病院医院診療所療養所サナトリウムクリニック産院

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精選版 日本国語大辞典 「ホスピス」の意味・読み・例文・類語

ホスピス

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] hospice )
  2. 修道院などの旅行者用宿泊所。
  3. (がん)などの末期患者を収容する施設、病院。延命のためだけの治療は行なわず、精神的・肉体的な苦痛を和らげ、家族・知人との触れ合いのもとに平穏な死を迎えさせることを目的とする。また、そのような医療活動をもいう。一九六七年、ロンドンに建てられたセント‐クリストファー‐ホスピスに始まる。

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改訂新版 世界大百科事典 「ホスピス」の意味・わかりやすい解説

ホスピス
hospice

悪性の疾患にかかり,治癒の可能性がなく,進行した状態あるいは末期の状態にある患者とその家族が,死までの残された時間に意味を見つけ,その時間を十分に生きることを可能にするための,思いやりのある広範囲なケアをホスピス・ケアhospice careという。こうしたケアは,在宅でも入院でも行えるが,このための特別の施設をホスピスという。もともとはこの語は,巡礼者の宿泊所を意味した。

 ホスピス・ケアを普及する運動をホスピス運動というが,ホスピス運動は当初ヨーロッパにおいて展開された。ホスピス運動には,中世の行路病者や悪性疾患の末期患者で身寄りのない者などを受け入れたオテル・ディユの伝統を継いだカトリック系のものと,1967年にロンドンに設立された〈セント・クリストファー・ホスピス〉に代表されるプロテスタント系のものとの二つの流れがある。今日では,これらのうちソンダースCicely Saundersの創設による〈セント・クリストファー・ホスピス〉の思想と実践が,世界のホスピス運動に強い影響を与えている。

 具体的なホスピス・ケアは,痛みの緩和に代表される身体的苦痛への対処,死への不安に代表される精神的苦痛への対処,残される者,とりわけ配偶者への対処が中心的内容をなしている。精神的苦痛への対処では宗教の果たす役割が大きく,ホスピス運動が国際的にみても宗教をバックボーンとして発展している事実につながっている。ホスピス・ケアは,高齢化社会の進展に伴い,本格的に展開された。また専門スタッフの養成,ホスピス・ケアのプログラム開発,医療費負担のあり方等々,医学的,医学教育的,経済的な検討も開始されている。1980年には16ヵ国の代表が参加して,第1回ホスピス国際会議がセント・クリストファー・ホスピスで開かれ,ホスピス・ケアに関する国際的な学問的・実践的交流と研究の場が形成された。

 日本におけるホスピス・ケアは,西欧諸国よりも立ち遅れている。その理由の一つとして,死が不可避であることを患者に告げる習慣が欠けていること,すなわち〈死の宣告〉に対する拒否反応が医師,患者,家族のいずれにも根強く存在していることが指摘される。また,死を前提としたケアを,臨床医学の敗北と受けとる立場もある。日本におけるホスピス・ケアは,これらの問題について,関係各層の合意を形成しつつ進められ,キリスト教を背景としたホスピスをはじめ,在宅ホスピスを含めて,その数は増加しつつある。
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百科事典マイペディア 「ホスピス」の意味・わかりやすい解説

ホスピス

死期に近い末期患者とその家族に対して,残された時間をより意味のあるものとして生きることができるよう看護,治療や精神的励ましを行う施設。英,米,オーストラリアなどに存在しており,日本でも1980年代からホスピス活動が開始されている。中世ヨーロッパの各地に点在した,聖なる地への巡礼者たちが食事や宿泊をしたり旅を続けるための精神的励ましを得た施設の名に由来する。近代的ホスピスは1950年代に英国で,人の死は一つの通過点であり終着駅ではないという宗教的考えに基づいて始められた。 ホスピスに収容される患者は,かつては結核,現在は癌とエイズ患者が主である。看護,治療は,近代医学の通常の方法ではなく,末期患者が残された日々を人間的に生きられることに重点が置かれる。すなわち,肉体的苦痛を軽減する薬物による対症療法が基本となり,患者のベッドの周りの生活空間を快適にするなどの努力が行われ,精神的苦痛の軽減,患者の仕事や家族の将来への不安などの社会的苦痛の軽減,さらには患者自身のみならず患者の死による家族の苦痛の軽減などが試みられる。このためホスピスでは医療スタッフだけでなく,宗教家,カウンセラー,心理学者,ケースワーカーなどの幅広い専門家が協力する。ホスピスは〈死に場所〉というイメージを与えやすいが,末期患者が積極的に最期まで生きる場所である。
→関連項目緩和ケアターミナルケア

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知恵蔵 「ホスピス」の解説

ホスピス

治る見込みのない末期がんなどの患者の苦痛や死の恐怖を和らげ、尊厳を保ちながら最期を迎えるケア。緩和医療と同じ。痛みを取り、介護をする医師、看護師などのチームが必要で、施設に限らず、在宅でも行われている。日本では1981年、静岡県浜松市の聖隷三方原病院が第1号。厚生(現・厚生労働)省は90年から、末期がん患者のために保険を適用する緩和ケア病棟制度を採用、国立がんセンター東病院など153施設(2006年9月現在)が承認されている。近代的ホスピスは67年、英国の聖クリストファー・ホスピスが始まりとされるが、厳密には19世紀のアイルランドで発祥した。多くはキリスト教が背景にあるが、92年、新潟県・長岡西病院に仏教系の「ビハーラ病棟」が開院した。

(田辺功 朝日新聞記者 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内のホスピスの言及

【病院】より

…かなり厚い看護体制の必要な特別養護老人ホームは,近年かなり日本各地に設立されている。しかし,臨死期の患者を迎えて,苦痛を延ばすのみと感じられるような積極的医療を控え,人間的な慰撫を基調とするホスピスは,1967年ロンドンに始めて設けられてから,しだいに数が増え,アメリカではホスピス協会が設立されるほどになっているが,日本では1,2ヵ所にとどまり,しかも,出来高払いの日本の健康保険の診療報酬体系にはのりにくいために,普及の可能性は乏しいとみられている。
【病院と患者と医師】
 医療技術的には,病院は近代医学の実質的な象徴である。…

【臨終】より

…また同じころ数多く制作された各種の〈来迎図〉も,臨終時の往生を約束する聖具として利用された。 ところで今日,西欧では死のみとりの問題はホスピス運動として知られているが,この考えの源流は11世紀の十字軍戦争の時代にさかのぼるという。すなわち当時,聖地エルサレムへの旅で病気になった巡礼者や,従軍して傷を負ったキリスト教徒たちを収容する施設が作られたが,それが同時に死のみとりを行う場所ともなった。…

※「ホスピス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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