翻訳|Bohemian
元来はボヘミア人またはボヘミア出身と考えられていたジプシーを指すが,転じて1830年の七月王政期にパリに集まった,貧しくしかし自由なその日暮しを送る文学青年や若き芸術家たちの呼称(ボエームbohème)となった。1835年ころのネルバル,ゴーティエ,ボレルらの集団と,それから約10年後の,ミュルジェールHenri Murger(1822-61),シャンフルーリらの集団があった。とくに前者は,ロマン主義運動に共鳴し,七月革命に熱狂した〈青年フランス派Jeune France〉の世代であり,〈小ロマン派〉とも称される。両者はいずれも文学・芸術で身を立てようと情熱に燃えた若者たちであったが,やがて七月王政下のブルジョア社会の桎梏の中で,芸術と人生の乖離(かいり)に悩み,挫折して悲惨な生活へと追いつめられた者も少なくない。一般にはミュルジェールの小説《ボヘミアン生活の諸情景Scènes de la vie de bohème》をもとにしたプッチーニの歌劇《ラ・ボエーム》で知られているが,文学的にはネルバルの《粋な放浪生活》やゴーティエの《ロマン主義の歴史》(邦訳《青春の回想》)に哀惜の情を込めて美しく描き出されている。
→遊民
執筆者:田村 毅
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