アメリカの代表的黒人作家の一人。R.ライトらのいわゆる〈抗議小説〉の型を脱して,世界文学のなかでのアメリカ黒人文学の地位をたかめたことで評価される。ニューヨークの黒人居住区ハーレムに生まれ,貧しい説教師の家庭で苦難の幼少年期を過ごした。1953年,自伝的長編小説《山にのぼりて告げよ》を発表。登場人物を黒人に限ったこの作品は,父と子の問題,生の不安,性に根ざす宗教的罪悪感,人種対立をはらんだ社会への疑念など,主人公である黒人少年の心理の深部を濃密に描いて注目された。第2作《ジョバンニの部屋》(1956)を経て,白黒両人種間の愛の複雑な様相と,人間性に対して破壊的な働きをするアメリカ社会の特異な性格を複雑にからませた大作《もう一つの国》(1962)によって彼の文名は世界的なものになった。60年代には公民権運動のスポークスマンとして全国的に講演活動を展開,評論《次は火だ》(1963)や戯曲《白人へのブルース》(1964)を発表してアメリカの病弊を鋭く批判した。ブラック・パワー系の解放闘争が勢いを得た60年代後半には,リロイ・ジョーンズ(バラカ)らに体制側として批判されたにもかかわらず,79年の《頭上すれすれ》にはブラック・パワー系運動に対する共感もうかがわれる。作品にはほかに評論《アメリカの息子のノート》(1955),《だれも私の名を知らない》(1961),《巷(ちまた)に名もなく》(1972),長編小説《汽車はいつ出たやら》(1965),短編集《出会いの前夜》(1965)など多数がある。
執筆者:浜本 武雄
イギリス領北アメリカの政治家。アッパー・カナダに生まれ,弁護士を経て,1829年立法議会に当選。しかし30年に落選して一時政界から遠ざかる。その間の36年イギリスに赴き植民地省に責任政府樹立を要請したメモランダムを提出するが,これはイギリス領北アメリカ植民地の政治改革運動の中で高く評価される文書である。W.L.マッケンジーら急進派の起こした37年の蜂起ではイギリス側につき,穏健な議会工作による改革を指導。41年連合カナダ植民地立法議会に再選を果たしてからは,一連の責任政府樹立の動議を提出した。指導力を買われて42-43年,第1次ボールドウィン=ラ・フォンテーヌ内閣を組閣。48年の第2次内閣の成立は,連合カナダ植民地における責任政府の樹立を意味していた。一貫して穏健な改革主義者であった彼は,51年大法官庁裁判所廃止に抗議して議員を辞し,以後政界から退いた。
執筆者:大原 祐子
アメリカの軍事評論家。ボルティモア市の生れ。1924年にアメリカ海軍兵学校を卒業,少尉に任官して戦艦,駆逐艦の乗組員を経験した。27年に海軍を退役,《ボルティモア・サン》紙記者となったが,29年に《ニューヨーク・タイムズ》紙に転じ,軍事記者の道を歩みはじめ,42年には軍事担当部長となった。同年,南太平洋情勢についての報道でピュリッツァー賞を受賞した。第2次大戦,朝鮮戦争,ベトナム戦争をカバーしたが,単なる報道記者ではなく,独自の戦略的観点からの戦争の分析が高い評価を受けた。第2次大戦の主要作戦を分析した《戦場の勝敗》など多くの著書がある。彼は,ベトナム戦争以降のアメリカの戦略を追究した《あすのための戦略》(1970)の中で,大陸国家であるソ連の拡張主義に対抗するため,アメリカは海洋に配備する戦略核戦力による抑止を重視するのと同時に,海,空軍力による海洋支配力を強化する必要があることを強調した。
執筆者:阪中 友久
イギリスの保守党政治家。大鉄鋼業者の家に生まれ,ケンブリッジ大学に学び,長く家業に就いた後,1908年下院に入る。ロイド・ジョージ連立内閣に大蔵財務次官(1917-21),商務院総裁(1921-22)を務めたが,22年保守党の離脱を主張して連立内閣を倒した。続くボナ・ロー保守党内閣では蔵相として戦債の処理に当たった。23年ボナ・ローの病気引退後首相となり,不況打開に保護関税政策を採ろうとして総選挙に敗れ,24年辞職。初の労働党内閣は短命に終わり,同年再び第2次内閣を組織。平和と秩序を重んじ,26年には空前のゼネスト収拾に成功したが,長びく不況への積極策を欠き,29年辞職。31年世界恐慌下のマクドナルド挙国内閣で枢密院議長,35年これを引き継ぎ首相となる。36年新王エドワード8世のシンプソン夫人との結婚に反対,エドワード8世を退位させ,37年A.N.チェンバレンに首相を譲り引退。
執筆者:池田 清
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…カナダ史では過激な変革は排され,漸進的な改革が目的を達成する。マッケンジー,パピノーの運動はより穏健なR.ボールドウィン,L.H.ラ・フォンテーヌらに受け継がれたのであった。 しかし,蜂起の失敗は両植民地に大きな影響を与えることになった。…
※「ボールドウィン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
突発的に発生し、局地的に限られた地域に降る激しい豪雨のこと。長くても1時間程度しか続かず、豪雨の降る範囲は広くても10キロメートル四方くらいと狭い局地的大雨。このため、前線や低気圧、台風などに伴う集中...