フランスの小説家レオン・ルモニエとアンドレ・テリーブAndré Thérive(1891―1967)が『ポピュリスム小説宣言』(1929~30)で提唱した文学運動。プルーストなど当時のブルジョア的あるいは貴族趣味的な文学や有閑階級の知的洗練度を重視する傾向に対し、一般大衆の生活の実相に目を向ける必要を説いたが、道徳的・政治的イデオロギーを排除するとともに、自然主義文学がとかく陥りがちな庶民生活の末梢(まっしょう)的な描写ともはっきり一線を画すことを主張した。さらに単なる民衆の賛美や民衆生活の真相をゆがめる理想化を排し、ありのままの民衆を描くことによって文学を一般大衆の手に取り戻そうとするこの文学理念は、当然のことに、自然で平易な文体を重視した。この主張に沿う小説や詩、のちには絵画や映画を対象に、ポピュリスト賞が設定された。代表的なポピュリスムの作家(ポピュリスト)はウージェーヌ・ダビで、パリのサン・マルタン運河沿いの木賃宿に住む貧しい労働者たちの根なし草のような生活を淡々とした詩情をもって描いた『北ホテル』(1929)は、第1回ポピュリスト賞を受けた名作である。サルトルも『壁』(1939)で受賞した。ポピュリスムは大規模な文学運動には発展しなかったが、民衆生活の哀歓を清新な文体で描いたシャルル・ルイ・フィリップの流れにたち、両次大戦間のフランス文学に一時期新風を吹き込んだ点は評価されよう。
[須藤哲生]
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