ポリシー・ミックス(英語表記)policy mix

  • ぽりしーみっくす

翻訳|policy mix

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

複数の経済政策目標,たとえば完全雇用,物価安定,国際収支均衡などを達成するために,複数の政策手段として財政政策金融政策,所得政策などを同時に適用すること。通常狭い意味では政策手段の適切な組合せ (多くは財政政策と金融政策との組合せ) を意味する場合が多い。ポリシー・ミックス論の最初の定式化は,P.A.サミュエルソンによって行われている。成長政策と安定政策とを両立させるための財政金融政策として,彼は金融緩和政策によって民間資本形成に向けられる資源の割合を増大させる一方,その結果生じるインフレ圧力に対しては増税によってそれを抑える。その際に租税構造は公平の原則を配慮し,政府支出は資源の効率的配分の観点から決められるべきであるとした。その後 R.A.マンデルによって国内均衡対外均衡とを同時に達成するためのポリシー・ミックス論が展開されている。

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知恵蔵の解説

マクロ経済において、いくつかの政策手段を同時に使い、政策目的を実現すること。為替が変動相場になる以前の1960年代に登場した。完全雇用・国内景気政策・国際収支の均衡の同時実現という政策目標に対し、政策手段として、財政政策、金融政策、為替政策をミックスしようというものである。財政を赤字にすると、国内景気は刺激され、輸入は増え輸出は減る。また金融を緩和し利子率を下げると投資は刺激され、外国からの資金の流入は減る。そこで、不況で国際収支が黒字の時は、財政赤字、金融緩和政策を同時に行い、それによって国内の景気は上向き、輸入は増え、資金の流入は減り国際収支も均衡に向かう。また、不況で国際収支が赤字の時は、不況対策として財政を赤字にするが、利子率を引き上げ海外から資金の流入を図って国際収支の短期的赤字を防ぎ、長期的政策として為替を切り下げて国際収支の均衡を図る。こうした政策が、ポリシー・ミックスの実例

(荒川章義 九州大学助教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

経済政策とは、一国の経済構造を前提として、財政、金融などの政策変数あるいは政策手段を操作することによって、資源の効率的配分、所得の公平分配、および経済安定・成長といった政策目標に影響を与え、これによって所望の政策効果を達成しようとするものである。この政策目標については、それを社会的厚生関数の形で与える「伸縮標的のケース」と、外生的に一定値で与える「固定標的のケース」に分けることができる。ポリシー・ミックスは、このうちの固定標的のケースに対応し、複数の政策目標を達成するために複数の政策手段の組合せを用いることであり、また、ある特定の政策目標に特定の政策手段を割り当てることである。

 政策目標と政策手段の組合せに関しては、「独立な複数の政策目標を同時に達成するためには、少なくとも同数の独立な政策手段がなければならない」という「ティンバーゲンの定理」が存在する。これは、政策目標がn個あるときには、少なくともn個の政策手段が必要であるということを意味している。

 しかしながら、以下の場合には単純にこの定理は妥当しない。第一は、目標そのものが両立するものでない場合である。この場合には、たとえ目標と同数の政策手段があっても、目標の達成が不可能なことはいうまでもない。第二は、政策手段や政策効果の伝達に重要な役割を演ずるその他の経済変数の変域に、社会上、制度上、慣習上の制約があり(これを「境界条件」という)、そのために目標の達成が困難となる場合である。たとえば、n個の独立な政策目標に加えてm個の有効な境界条件が存在する場合、n個の独立な政策目標を達成するためには、少なくともnm個の独立な政策手段が必要となる。境界条件として今日の経済政策を制約しているもっとも重要なものは、利子率の下方限界、貨幣賃金・物価の下方硬直性などである。政策当局がなすべきことは、新しい独立な政策手段を発見することであり、また、制約条件=境界条件とみなされているものが、果たして絶対に動かしえないものであるか否かを検討してみることである。

 目標の同時達成が不可能となるのは以上の二つの場合であるが、このとき目標の一部の達成を犠牲としなければならない。すなわち、目標相互間での選択=トレード・オフが問題となる。この場合トレード・オフ曲線が与えられ、かつ社会全体の選好関係がわかれば、政策当局は、達成可能な政策目標の組合せ、すなわちトレード・オフ曲線上で社会的厚生を最大にするような目標変数の組合せを選択することになる。これは制度的制約を固定したままでの最適政策という意味で「次善の策」となる。ただ、実際には社会的厚生関数を知ることは容易ではない。つまり、目標相互の間でトレード・オフが問題となる場合、その選択は慣習的なウェイト、政治的なウェイトをつけて行われることになりやすい。さらに、政策当局の恣意的な判断や各種のプレッシャー・グループによる圧力によって選択がゆがめられる危険も大きい。

 ところで、われわれが入手しうる情報は不完全で、一度に完全なポリシー・ミックスをみいだしえないのが実情である。したがって、実際の経済政策はどうしても試行錯誤的あるいは断片的にならざるをえない。ところが、政策が試行錯誤的に行われる場合には、政策の「割当て」を誤ると、所期の目標に到達しえないばかりか、逆に目標からますます遠ざかってしまう危険が生じる。政策の割当て(これを割当て問題という)にあたっては、「それぞれの目標に対する政策手段の有効性を考慮し、比較優位の原則に従って割り当てるのが望ましい」という結論(「マンデルの定理」ないし「効果的市場分類の原理」)が導き出される。

 残された問題は、目標に対して政策手段の数が超過する場合である。この場合には、いろいろな政策手段の間の選択の自由が生じる。政策手段選択にあたってのもっとも重要な基準の一つは、それぞれの政策手段を採用することによって生じる社会的コストを考慮し、このコストを最小にするような手段ないし手段の組合せを採用することである。

 このように、一つの目標の達成は一つの政策手段があれば可能であるにもかかわらず、実際には多数の政策手段が使われる第一の理由は、多様な政策手段を組み合わせて使うことによって、より低い社会的コストで同じ目標を達成することができるからである。いま一つの理由として、実際には究極的な目標のほかに、多数の副次的な目標が存在し、これらの目標を同時に満足させる必要があるということが指摘されている。

[藤野次雄]

『熊谷尚夫・大石泰彦編『近代経済学(2) 応用経済学』(1970・有斐閣)』『R・A・マンデル著、渡辺太郎他訳『国際経済学』(1971・ダイヤモンド社)』『館龍一郎・浜田宏一著『金融』(1972・岩波書店)』

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