国際経済学(読み)コクサイケイザイガク(その他表記)international economics

デジタル大辞泉 「国際経済学」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐けいざいがく【国際経済学】

国家間で行われる経済取引を対象とする、経済学の一分野。商品・サービスの取引を扱う国際貿易論と、金融資産の取引を扱う国際金融論に大別される。

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改訂新版 世界大百科事典 「国際経済学」の意味・わかりやすい解説

国際経済学 (こくさいけいざいがく)
international economics

現代では,経済取引は単に国内にとどまらず国境を越えて行われており,国際取引はいかなる経済にとっても不可欠なものである。国際経済学は,このように国際取引すべてを対象とし,国境を越えた取引がなぜ行われ,どのように取引され,またそれぞれの国および個人がどのような影響を受けるかを分析する経済学の一分野である。

 国際経済学が国内取引を扱う経済学とどのように異なるかは必ずしも明確でない。たとえば,その差異が生産要素移動の可能性に求められ,労働・資本などの生産要素は国内において自由に移動できるが国際間における移動は費用がかかり不可能であるとみなされる。しかし現実には,国内においても労働者が職を変え産業・企業間を移動するにはかなりの費用が伴う。逆に国際間の資本移動は,資本市場の発展とともに,かなり自由に行われている。労働の国際間移動は資本に比べてむずかしいが,現在の西欧諸国間の労働移動はかなり頻繁である。むしろ制度・環境が国ごとに異なるということが,国際経済学を応用経済学の独立した一分野にしているといえる。社会的,文化的な環境の相違は国内の地域間よりも国家間のほうが当然ながらより大きく,貨幣制度をはじめ多くの経済的・政治的制度の上では各国の独自性があり,各国政府は財政・金融政策などの経済政策において自立性をもっている。このような環境の差異,制度・政策の独自性などが国際取引の特殊性をもたらしている。

 国際取引は生産された財・サービスの取引と生産要素の取引とに大きく分けることができるが,貿易理論は前者の取引に注目し,各国における生産・消費・貿易がどのように行われるかという国際間での資源配分を分析する。貿易理論は,19世紀初めのイギリスにおける貿易利益に関するD.リカードの比較生産費説(〈比較優位〉の項目を参照)にはじまり,その後,生産要素の賦存量の差異から貿易利益を唱える〈ヘクシャー=オリーンの理論〉により発展させられた。一方,国際資本移動論は後者の取引を扱い,資本の国際間移動が資源配分にどのような影響をもたらすかを検討する。現実の資本移動の多くは(機械・設備などの)実物資本の国際間移動でなく外国の金融資産への投資という形をとり,金融的な現象である。

 各国が異なった貨幣制度のもとにあり,また政策の独自性をもっているため,国際取引が個々の経済主体によって行われているとしても,国全体としての行動が国際経済にとって重要になる。外国との取引が円滑に行われるためには,十分の外貨が必要とされ,国全体としての対外収支が均衡しなければならない。また,異なった貨幣間の交換比率すなわち為替相場は対外取引に大きな影響を与え,その比率が固定されているか伸縮的に変動するかによって各国の国際収支の調整は異なってくる。為替相場がどのように決定されるか,どのように国際収支の調整が行われるかという問題は,国際金融論の中心課題であり,その歴史は古い。この問題はどのような国際通貨制度がとられているかに大きく依存し,18世紀のD.ヒュームをはじめとする金本位制のもとでの古典的な理論から国際通貨制度の変革とともに発展してきた。変動相場制のもとでの為替レートの決定理論も,国際収支の均衡によるとするもの(国際収支説)から,マネタリー・アプローチ,アセット・アプローチ(資産市場アプローチ)などのストック面での決定を重視する理論に変わりつつある(為替理論)。国際取引を円滑に行わせる制度を確立することは世界経済の効率的な運営のために不可欠であり,それは国際間での経済的・政治的課題になっている。
執筆者:

マルクス主義的国際経済学は,世界市場,世界経済の不均衡性を強く意識した理論構造をもつ。それは,資本主義の発展諸段階と世界市場の発展段階とを対応させた歴史主義的理解を重視する。人類史上はじめて〈一つの世界史〉(マルクス)を生み出した資本は,奴隷貿易アヘン貿易,新世界の銀,毛織物輸出を内容とする世界編成をまず実現した。重商主義時代(16世紀初~19世紀初)から産業資本主義時代への移行期には,世界市場大的規模で旧世界(ヨーロッパ中枢)による新世界(アメリカ大陸。アフリカ大陸も含めたほうがよい)の原住民の滅亡がひき起こされ,世界的な資本の原始的(本源的)蓄積過程が進行した。資本制的ヨーロッパを基軸として,その他の周辺世界を植民地とする重層的支配・抑圧構造が成立したのである。それは,ヨーロッパ中枢における機械制大工業の成立によって,工業国と原料供給地との政治的・経済的結びつきが強化されたことの帰結であった。中枢側からみて,内には自由主義的であった自由貿易も,外からみれば他民族に加えられた抑圧でもあったのである(自由貿易帝国主義free trade imperialism)。しかし,この歴史段階では,中枢部の産業資本的蓄積が円い地球を商品・金融的にさらに円環化しながらも,なお資本制的生産様式は世界市場に組み込まれた大多数の地域の表層にとどまり,深部に達することはなかった。したがって,ヨーロッパ中枢の本来的資本蓄積過程とその他地域の本源的資本蓄積過程との同時進行局面が,マルクス主義的理論の中心的位置を占める。これを総論として,マルクスの経済学批判プラン,国際価値,資本蓄積と外国貿易,国際分業,移民,資本輸出,国際的決済機構などが内容的には個別論を形成する。しかし,世界経済は唯一の実体か,それとも各国民経済の集合体なのかの理解の差がこの学派の色彩を二分し,前者はとくに〈世界資本主義論〉といわれる。

 資本主義の全世界的な帝国主義への転化(19世紀末)につれて,この学派の関心は民族独立運動,軍国主義,保護関税,農業保護,小農と産業プロレタリアートの問題に移った。宇野弘蔵のいう〈資本主義の不純化傾向への逆転〉現象が,社会主義革命の現実性を背景に論じられたのである。両大戦間期日本貿易の,対アメリカ,対東南アジア,対極東貿易を内容とする構造と反日運動との関係を理論化した,日本の名和統一の〈三環節論〉はその最大の成果である。

 第2次大戦後の相次ぐ新興独立国の誕生によって,南北問題が顕在化した。それとともに,先進国に主導されてきたこれまでの国際秩序にかわって,小国も大国と同等の権利をもつという国際的民主主義の原理を体現する新国際経済秩序(NIEO)の理念が新たな問題領域を形成するようになった。このような“歴史なき民族”の現代舞台へのめざましい登場とともに,この学派は単線的発展史観を修正し,世界経済の重層的展開史を重視する新従属論(R.プレビッシュの従属論と区別された意味をもつ)を生み出している。エジプトの経済学者アミンSamir Amin(1931- )がその中心を占めてきた。さらに生産の国際化を注視する多国籍企業論も近年の課題となっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際経済学」の意味・わかりやすい解説

国際経済学
こくさいけいざいがく
international economics

国際社会の経済現象を分析対象とする応用経済学の一分野。国際社会の経済現象とは複数の国民経済にまたがる経済取引のことであり、大きく二つに分類することができる。第一は、製品、原料、中間財などの財貨とサービス(旅行者へのサービスや、船舶、保険、銀行、倉庫などのサービス)の取引である。第二は、資本や労働の国際的移動、すなわち外国への資本の貸付や外国からの借入によって生じる金融資産の取引とか、外国への移民や出稼ぎという形で現れる生産要素の移動である。

 これらの取引は国内でも行われるが、国際経済取引は、それがもつ特殊性のために、国内経済取引とは区別される。現代の国際経済取引を特徴づけるもっとも基本的な要因は国家主権の存在である。第一に、各国政府は自国内で税制、保健、工場組織、教育、社会保障、労働組合などを法律的に規制しているが、これらの法律が各国間で異なるということは、生産を行う場としての経済環境が異なることを意味する。第二に、各国政府は、国際資本移動、移民、対外送金、外国為替(かわせ)取引に対してもさまざまな規制や奨励を行っており、国内では資本や労働の移動が自由であるのに対して、国際間ではより困難であるということができる。第三に、各国が独自の通貨単位と通貨制度をもっていることから、国際取引には異なった通貨間の決済(通常は外国為替取引を媒介に行われる)とそれに伴う為替相場変動の問題が付随する。このように国際経済取引の基本的特殊性は、それが国家主権の総体的な調整に強く影響を受けるという点に求められる。そのほか、言語、生活習慣、取引慣習、その他の文化的、社会的諸条件が国によって異なっていることも、国際経済取引に特殊性をもたらす要因となる。

 このような特殊性のもとで、財貨やサービスの取引、すなわち貿易が行われる場合、その量(規模)の増大は所得と価格に依存する。また貿易構造(輸出入の商品別構成)の変化は生産要素の量や技術進歩さらに政策のあり方にも左右され、貿易の規模の増大とともに国内経済構造に変動を引き起こし、その国民経済の生産力を高めるのである。すなわち、貿易の量的、質的変化は各国民経済の生産力に影響を与えるのと同時に、各国民経済の相互依存関係を深める効果をもつ。

 現在の国際経済においては、この相互依存関係がかつてないほど深まってきており、経済問題を国際的次元で解決することが必要になっている。相互依存の国際社会では、各国は国内の重要な経済問題を単に自国だけの問題としてではなく、国際経済全体の問題として理解しなければならない。国際経済学の課題は、国際経済取引と国内経済との関係を巨視的、微視的に分析することを通じて、その理解の基礎となるような枠組みを用意することである。

[村上 敦]

『小宮隆太郎・天野明弘著『国際経済学』(1972・岩波書店)』『相原光・土屋六郎編『国際経済学入門』(1976・有斐閣)』『小島清著『応用国際経済学――自由貿易体制テキスト』(1992・文真堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際経済学」の意味・わかりやすい解説

国際経済学
こくさいけいざいがく
international economics

複数の国民経済にまたがる経済現象を対象とする応用経済学の一分野。経済学において国の相違あるいは国家間の関係が問題になるのは,(1) 労働,土地,資本などの生産要素の移動が国内と比較して限られている。 (2) 国によって風土や技術的条件が大幅に異なる。 (3) 制度や政策また貨幣が国によって異なる,などの点からである。国際経済学は,家計,企業,政府などの経済主体の経済行動に伴って生じる国際間の貿易,決済,資本移動などの現象につき,その法則性を解明し,それに関連して政府や国際機関がとる経済政策の整合性や効果の分析を主要課題とする。具体的には貿易構造,交易条件,関税,外国為替,国際収支,直接投資などのテーマがある。

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世界大百科事典(旧版)内の国際経済学の言及

【貿易理論】より

…これに対して,国際収支の均衡がいかにして達成されるかは,国際経済理論のもう一つの分科である国際金融理論の研究課題である。このような貿易理論と金融理論との仕切りはしばしば国際経済学の〈二分法dichotomy〉と呼ばれる。 各国の経常収支の均衡は,その国の総支出額,すなわちすべての財・サービスに対する支出額の総和が国民可処分所得(国民総生産と外国からの純移転受取りとの合計)に等しくなることを意味する。…

※「国際経済学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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