前5世紀のギリシアの彫刻家。生没年不詳。アルゴスの出身。ローマ時代の多くの模刻像で伝えられる《ドリュフォロス(長槍を担ぐ人)》(ナポリ国立考古学美術館その他),《ディアドゥメノス(鉢巻を締める人)》(アテネ国立美術館その他)など,運動競技者像の原作者。人体の理想的なプロポーションを追求し,それを理論化して《カノン(規範)》を著したが,《ドリュフォロス》は,この理論を具象化したものという。また彼は,これらの像において,体重を支える脚(支脚)と膝を軽く曲げて遊ぶ脚(遊脚)との対比を明確にし,立像に微妙な動きとリズムを与えたという。彼によって完成されたこの支脚と遊脚の関係,いわゆる〈コントラポスト〉は,ギリシア彫刻のみならず後代の美術に大きな影響を及ぼした。ポリュクレイトスは,同時代の彫刻家フェイディアス,クレシラス,フラドモンも参加してエフェソスのアルテミシオンで行われたアマゾン像の競作において1等賞を得たと伝えられる。前5世紀後半の様式を示すさまざまなタイプのアマゾン模刻像が残されているが,そのうち左肘を角柱に載せて休息する傷ついたアマゾンを表すタイプ(メトロポリタン美術館その他)が,おそらくポリュクレイトスの原作によるものと考えられている。なお,前4世紀の中ごろにエピダウロスの劇場を設計した同名の建築家は,この彫刻家の孫であったと推測されている。
執筆者:中山 典夫
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前5世紀
アルゴスの彫刻家。オリュンピア競技優勝者像やアルゴスのヘラ神殿にささげた金と象牙のヘラ像で有名。原作は失われ,現存するのはヘレニズム,ローマ時代のコピー。
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[美術]
古代ギリシアの建築術,彫刻術において〈測量竿,物差,基準〉を意味した言葉〈カノンkanōn〉は,クラシック期以来,特に人体表現の際の部分の合体に対する,あるいは各部分相互の比率を意味するようになった。この人体比率を最初に理論的に追求したのは前5世紀の彫刻家ポリュクレイトスで,のちに《カノン》を著した。この著作自体はわずかな断片を除いて失われてしまったが,彼の代表作《ドリュフォロス(長槍を担ぐ人)》は,彼の理論の具現化であり,後代の人々はこの作品をも《カノン》と呼んだ(原作は失われているがローマ時代の模刻がナポリの国立考古学美術館をはじめ各所に多く残されている)。…
…この時代は一般には前5世紀後半の盛期クラシック(〈崇高な様式〉)と前4世紀の後期クラシック(〈優美な様式〉)とに区別される(この区別と命名はウィンケルマンによる)。盛期クラシックには,ペリクレスのアクロポリス復興計画に基づき,パルテノン,プロピュライア,エレクテイオンなどの壮麗な建物が完成し,彫刻では,フェイディアス,ミュロン,ポリュクレイトスらの巨匠が活躍した。前5世紀末のペロポネソス戦争,前4世紀の絶えまないポリス間の対立・抗争を通じて,人びとの感情・思想はより現実的・人間的になり,宗教的関心もしだいに弱まった。…
…またアルゴス,サモスを含むいくつかの土地では,ゼウスとヘラの結婚を記念する〈聖婚hieros gamos〉の儀式が行われ,ボイオティア地方のプラタイアイのそれは,オークの木で作られ,花嫁に付き添う乙女とともに荷車でキタイロン山に運ばれるヘラの神像の名からダイダラDaidala祭と呼ばれていた。美術作品では,ポリュクレイトス(前5世紀後半)作のアルゴスのヘライオンHēraion(ヘラ神殿)の本尊,冠をいただき,一方の手にザクロ,他方にカッコウのとまった笏をもつ巨大なヘラの座像が有名であったが,いまではアルゴスの貨幣の図柄に往時の面影をとどめるにすぎない。彼女の聖獣は雌牛,のちには孔雀が聖鳥とされた。…
※「ポリュクレイトス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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