鉢巻
はちまき
手拭(てぬぐい)かぶりの一種。頭の鉢に手拭などの布を巻く習俗。古くは抹額(まっこう)または末額(もこう)ともよんだ。『源平盛衰記(じょうすいき)』に那須与一(なすのよいち)が「薄紅梅の鉢巻しめ」とみえるように、鎌倉時代以降は、武士が軍陣に際して、精神を引き締めると同時に、烏帽子(えぼし)の脱げ落ちるのを防ぐために鉢巻を締めたので、鉢巻は長く武装の一種と考えられていた。江戸時代になると、額のところに金具をつけたり、内部に鎖を仕込んだ鉢巻もつくられている。これに対して庶民は、ありあわせの手拭を利用して鉢巻を行い、細長く折り畳んで頭に巻き、額のところで結ぶのを向こう鉢巻、後頭部で結ぶのを後ろ鉢巻といい、しごいて撚(よ)りをかけ、結ばずに額に挟み込むのをねじり鉢巻といった。このほか、鉢巻をする習俗は、ごく近年まで各地に行われていたが、たとえば、端午(たんご)の節供に男児がショウブの葉を鉢巻にしたり、頭痛その他の病気や出産に際して布の鉢巻をしたりした。またヒッシュ、アカテヌグイなどといって、伊豆諸島の婦人たちは儀式や神仏の参拝に際して、赤、紫、浅葱(あさぎ)などの六尺(約1.8メートル)の布を二つに折った鉢巻をした。これらの習俗は、いずれも鉢巻に一種の霊力を感じているといえよう。なお現在も祭礼、芸能、生産の場において、鉢巻は重要な意義をもっているといえる。
[宮本瑞夫]
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はち‐まき【鉢巻】
〘名〙
① 頭の鉢を布などで巻くこと。また、その布。額の前で結ぶ
向鉢巻(むこうはちまき)と後
頭部に結び下げる
後鉢巻(うしろはちまき)とがある。武士が軍陣で結ぶ向鉢巻を一重鉢巻
(ひとえはちまき)といい、正面で引き違えて結ぶ後鉢巻を二重鉢巻という。
※源平盛衰記(14C前)四二「揉烏帽子引立て薄紅梅の鉢巻(ハチマキ)して」
②
土蔵の
軒下で、横に一段厚く細長く土を塗ったところ。〔紙上蜃気(1758)〕
③ 帽子のつばぎわを細布で巻くこと。また、その布。
※
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「組紐を盤帯
(ハチマキ)にした帽檐広な黒羅紗の帽子を戴いてゐ」
⑤ 樹木を移植するとき、根の周囲の土が落ちないように縄でまくこと。根巻。
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鉢巻【はちまき】
頭の横まわり(鉢)に手ぬぐいなどの布を巻く習俗。向う鉢巻,ねじり鉢巻は労働用。伊豆大島の紫縮緬(ちりめん)や新島の赤手ぬぐいの鉢巻,祭礼の稚児(ちご)の鉢巻は礼装用。鎌倉以後,軍陣の武士が烏帽子(えぼし)が脱げ落ちるのを防ぐために鉢巻をしめたので鉢巻は軍装と考えられていた。また近年まで病人や産婦が鉢巻をする習俗もあり,東北地方では女が眠るとき鉢巻をする所もあった。
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はち‐まき【鉢巻(き)】
1 額や後頭部のあたりを布・手拭いなどで巻くこと。また、その布。
2 昔、武士が武装の際、兜の下の烏帽子がぬげ落ちるのを防ぐため、ふちを布で巻いたこと。また、その布。
3 帽子のふちを細布で巻いたもの。
4 土蔵造りで、防火用に粘土と漆喰を厚く塗り込めた軒下部分。
[類語]ねじり鉢巻き・向こう鉢巻き・後ろ鉢巻き
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はちまき【鉢巻】
頭の鉢に手ぬぐいその他の布を巻く習俗。古くは抹額(まつこう)または末額(もこう)といったが,後世はもっぱら鉢巻と呼んでいる。手ぬぐいなどを細長く折りたたんで,頭の鉢に巻き,前額部で結ぶのを〈むこう鉢巻〉,後頭部で結ぶのを〈うしろ鉢巻〉といい,折りたたまずにしごいてよりをかけ,前額部にはさみ込むのを〈ねじり鉢巻〉という。きれで頭部を包むことは,もともと頭髪の乱れを防ぐために行ったものであろうが,やがて他人の面前ではこれが礼儀となり,ついには長く習俗となったもので,鉢巻の起源もこれにつながるものと考えられる。
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世界大百科事典内の鉢巻の言及
【子守】より
…なお山口県の大島のように,子守たちどうしで遊び仲間をつくることもあった。子守が締める鉢巻のことは,新潟県でモリッコツツミ,山口県や福岡県の島々でモリコカツギと呼んでいる。 ところで伊豆諸島では,子守と子守をされた子どうし,および後者と子守の家族との間で擬制的親族関係が結ばれる。…
【晴着】より
…婚礼にもかぶり物が重要視され,花嫁の角隠しは最も新しく,現代も用いられているが,それ以前に綿帽子や〈おかざき〉〈ふなぞこ〉〈かつぎ〉などがあって,かぶり方をやや変えるだけで,吉事にも凶事にも共用する。田植の手拭,宮まいり児の鉢巻,祭りのみこしかきの鉢巻,踊子の鉢巻も晴着のかぶり物で,参拝にも客前に出るにも,かぶり物をかぶるのが作法であった。つまり現代の脱帽の礼の中に,晴着の着帽の礼が残っているわけである。…
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