マクナマラ(読み)まくなまら(英語表記)Robert Strange McNamara

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マクナマラ」の意味・わかりやすい解説

マクナマラ
まくなまら
Robert Strange McNamara
(1916―2009)

アメリカの政治家、実業家。サンフランシスコ市生まれ。ハーバード・ビジネス・スクールで経営学を学び、1940~1943年同校助教授。1946年フォード自動車会社に入社近代的かつ効率的な経営管理技術を導入してフォード社の再建に貢献し、1960年同社社長に就任。翌1961年ケネディ政権の成立とともに国防長官に起用され、同政権のもとで、柔軟対応戦略を推進するとともに国防体制の合理的再編成による経費削減に力を注いだ。とくに後者の点では、近代経営学的手法を駆使しつつ陸海空三軍の統一的戦略計画に基づく予算配分方式を導入した。また、ベトナム戦争が「マクナマラの戦争」ともよばれるようにベトナム介入政策の主要な推進者の一人でもあった。しかし1967年にはジョンソン政権の戦争拡大政策に疑念を抱き、これが原因で1968年2月国防長官を辞任した。この挫折(ざせつ)感のなかで、1967年6月マクナマラはベトナム戦争の全過程に関する詳細な研究調査を命じている(この調査報告は1971年6月に暴露され、『ペンタゴン・ペーパーズ』として知られる)。国防長官辞任後は1981年まで世界銀行総裁を務めた。1995年にはアメリカのベトナム軍事介入の過ちを認めた『マクナマラ回顧録』In retrospectを出版し、大きな反響をよんだ。また、1997年6月には、マクナマラの提唱によってベトナム戦争当時のアメリカと北ベトナム当事者が参加した非公開討議が行われた。

藤本 博 2018年11月19日]

『ロバート・S・マクナマラ著、原康訳『能率への忠誠――マクナマラの世界経営哲学』(1968・サイマル出版会)』『仲晃訳『マクナマラ回顧録――ベトナムの悲劇と教訓』(1997・共同通信社)』『東大作著『我々はなぜ戦争をしたのか――米国・ベトナム 敵との対話』(2000・岩波書店/平凡社ライブラリー)』『D・ハルバースタム著、浅野輔訳『ベスト&ブライテスト』上中下(朝日文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マクナマラ」の意味・わかりやすい解説

マクナマラ
McNamara, Robert S.

[生]1916.6.9. カリフォルニア,サンフランシスコ
[没]2009.7.6. ワシントンD.C.
アメリカ合衆国の実業家,政治家。フルネーム Robert Strange McNamara。1937年カリフォルニア大学卒業後,ハーバード大学ビジネス・スクールで経営学を専攻し,1940~43年同大学助教授。1946年フォード・モーターに入社,副社長,総支配人を経て,1960年フォード家出身でない初の社長に就任。1961年ジョン・F.ケネディ大統領に請われて国防長官に就任,コンピュータを利用して国防予算と戦略の合理化を進め,国防計画に費用対効果の原則を導入するなど,国防省の改革に手腕を発揮した。アメリカのベトナム戦争への本格介入を進めたが,のちに和平推進に転じ,1968年国防長官を辞任して世界銀行総裁に就任,1981年まで務めた。1995年に出版された『マクナマラ回顧録――ベトナムの悲劇教訓』In Retrospect: The Tragedy and Lessons of Vietnamで,ベトナム戦争に対する政策は誤りだったと認めた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「マクナマラ」の意味・わかりやすい解説

マクナマラ

米国の実業家,政治家。カリフォルニア大学バークレー校で経済学を学んだのち,ハーバード大学でMBAを取得。ハーバード大学経営学助教授を経て1946年フォード自動車会社に入り,副社長,総支配人,社長を歴任ケネディ大統領,ジョンソン大統領の下で,1961年―1968年国防長官となり,防衛上の機構・予算・戦略の合理的システム化を推進した。ベトナム戦争では,南ベトナムへの〈軍事顧問団〉の増派を続け,大規模な兵力投入と軍事的拡大を押し進めたが,武力による解決に失敗。ベトナム戦争を泥沼化させた人物として,大きな批判を浴びることになった。後年,自身の回想録で,ベトナム戦争を,「北ベトナムの侵略ではなく,南ベトナムの民衆による内戦であり,人民戦争であった」と自己批判した。1968年―1981年世界銀行総裁。
→関連項目PPBS

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android