翻訳|mastaba
古代エジプトの個人の墳墓。その形状により,アラビア語でマスタバ(〈ベンチ〉の意)といわれる。先王朝時代末期から,とくに古王国時代全般にかけ,さらには後世まで盛んに造られた。ギーザやサッカラなどでは,貴族や重臣のマスタバが,生前王に仕えていたときと同様,ピラミッドの周囲に整然と配置されている。時代,身分,地方によりその形式,用材などはさまざまであるが,典型的には次の通りである。地上の礼拝堂と地下の埋葬室の二つの部分よりなり,埋葬室は地下の玄室とそれを結ぶ竪坑または階段でできている。竪坑は12~24mに及び,玄室は垂直に掘られた竪坑の下に置かれ,死者があの世で必要とする葬儀用品とともに石棺が安置された。この室は葬儀のあと壁がつくられ,竪坑は土や細石で埋められた。地上の礼拝堂の部分は石材を積み重ねて梯形の長方形(プラットホーム状)につくり,表面を磨いた石灰岩で仕上げた。東側には壁龕(へきがん)が彫られ,ここで葬儀が行われ,故人との交流がなされた。その後東側に入口がつくられ,北東側に擬扉false door(死者と生者を結びつける,礼拝用の扉の形をした龕)が置かれ,小型葬祭室となった。第3王朝の終りころより十字形の室を墓壁内につくるようになり,第4王朝以後では墓内の室は発達し,回廊をもつものも現れ,祀堂の南または北側にセルダーブserdāb(死者の彫像を収めた密室。長方形ないし円形の覗き穴をもつ)がつくられるようになった。死者はここを通じて焼香を受け,供物を受け取ることができた。祀堂は故人の生前の生活に関する浮彫や絵画で飾られ,死後の生活の保障が祈願された。
→ピラミッド
執筆者:中山 伸一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代エジプトのベンチ形墳墓のこと。上部構造と下部構造(地下部分)とからなり、上部構造は長方形で、側面は上に向かって急勾配(こうばい)の斜面をなし、頂上部は平坦(へいたん)になっている。四隅は東西、南北の方位に沿い、長いほうの軸線は南北に向いている。第1王朝に生まれた墳墓形式で、建造物は当初は日干しれんがであったが、やがて石に移った。第2王朝では規模も設計も精巧なものとなった。王墓の独占形式ではなく、高官の墓もまたこの形式でつくられた。地下構造は死者を納める竪坑(たてこう)、供物を置き祭事を営む祭壇室、死者の彫像を納める特別室(セルダブ)の3要素からなり、壁面にはこの世の生活を描いたレリーフが施された。大型のものには、上部構造が一辺83メートルの長さをもち、地下に58室を備えているものがある。ギザ(ギゼー)には整然と並ぶ一大マスタバ群がある。マスタバは第3王朝の王墓、階段ピラミッドを生み出したのち、高官や貴族の墓の形式として中王国時代まで愛用された。
[酒井傳六]
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低い台状の上部構造を持つ形式のもので,古代エジプトの初期王朝時代の王や高官の墓として築かれた。形状からアラビア語で「ベンチ」を意味するマスタバの名で呼ばれる。古王国時代になっても高官の墓として盛んに造営された。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…墓の上には煉瓦づくりの擁壁をめぐらし,その中に土砂をつめて,ゆるく湾曲した上面をもつ墳丘が造られた。このような長方形の台形の墓をマスタバと呼ぶ。アビドスの王墓では単純なマスタバの前面に1対の石碑と供物台が置かれ,全体を取り囲む周壁がめぐらされていた。…
…また殷墟の小屯C区で斬首墓とともに発見された小児墓,武装墓,全身墓などは宗廟の建設に伴うものだから,供犠と考えて犠牲と見る方が妥当であろう。 エジプトでは第1王朝時代のアビドスにある王墓とマスタバから殉葬が見られる。ジェル王大墓には338基,ジェト王大墓には174基の殉葬墓が付属し,ジェト王のサッカラにあるマスタバでは,周りを62基の殉葬墓がとりまいている。…
…
[王墓と帝王陵]
帝王陵の名に値する墓として,あるいは大規模な葬送儀礼が行われたことを示す墓として,かつて問題にされた墓を列挙してみよう。応神,仁徳に代表される古代天皇陵,殷の大墓,秦漢帝国以降の帝陵,朝鮮三国時代から新羅統一時代にいたる陵墓,西アジアのウルの王墓とウル第3王朝の陵,ペルシア帝国の王陵,ハリカルナッソスのマウソレウム,エジプトのマスタバやピラミッドなどが著名である。これらの墓は2種類に大別することができる。…
…英語では,教会付属の墓地をchurchyardとして区別する。
[歴史]
古代エジプトの初期王朝,古王国時代の貴族の墓は,その形状からマスタバ(アラビア語で〈ベンチ〉の意)と呼ばれる。ほぼ1対2の長方形平面で,長手方向を南北に置き,壁面が内側に傾いているのが特色で,日乾煉瓦造であるため,崩壊しにくい形にしてある。…
※「マスタバ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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