フランス,ドルドーニュ地方のマドレーヌMadeleine岩陰を標準遺跡とする後期旧石器時代最後の文化。マグダレニアン文化ともいう。プラカールPlacard洞窟,マドレーヌ岩陰,ビルパンVillepin岩陰の層位をもとに定義されている。全期にわたる遺物が存在したのは,シャンスラード人を伴出したレイモンドン洞窟だけであるが,19世紀末の発掘は層位を把握しきっていないからである。1万7000年前ころから1万2000年前ころまで存在した。主としてフランス,スペインに分布をみるが,イギリス(クレスウェルCreswell文化),ベルギー(チョンゲルTjonger文化),南西ドイツおよびポーランドにも同系統の文化が知られる。6期に細分され,各期を定義する遺物は骨角器である。Ⅰ期~Ⅲ期は骨製尖頭器,Ⅳ期~Ⅵ期は骨製銛の形態変化に特徴がある。石器ではⅠ期とⅡ期の差が大きく,Ⅰ期はバドゥグールBadegoule文化の名で区別されることもある。Ⅱ期以後は石器組成の差を同じ文化の変異ととらえている。彫器が搔器に比して多く,背付細石刃がⅡ期以後常に存在する。美術品も多く知られ,Ⅲ期~Ⅳ期に写実性の強い美術様式が確立され,V期にはその写実性が後退し始める。フォン・ド・ゴーム,コンバレルCombarelles,ニオー,アルタミラの諸洞窟の壁画はとくに有名である。トナカイの骨が圧倒的に多く出土するが,壁画に多くみられるバイソンの骨が発掘されることはまれである。セーヌ河畔のパンスバン,エティオル両遺跡は住居址群で知られる。
執筆者:山中 一郎
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フランス、ドルドーニュ地方のマドレーヌMadeleine岩陰(いわかげ)を標準遺跡とする後期旧石器時代最後の文化。全期にわたって遺物が存在したのはシャンスラード人を伴出したレイモンドン洞窟(どうくつ)であるが、19世紀末に行われた発掘は、層位を把握しきっていないので、前期はプラカール洞窟の遺物をもとに定義されている。1万7000年前ごろから1万2000年前ごろに存在し、主としてフランス、スペインに分布するが、イギリス、南西ドイツ、ポーランドにも同系統の文化があることが知られている。6期に細分され、I~Ⅲ期は骨製尖頭器(せんとうき)の、Ⅳ~Ⅵ期は骨製銛(もり)の形態変化に特色がある。石器ではI期とⅡ期の差が大きく、I期はバドゥグール文化の名で区別されることもある。美術品にも顕著なものが多く、リアリズムの様相が濃い美術様式が確立され、V期にはその写実性が後退し始めている。トナカイが狩猟の対象になったことが多く、パリ南東郊のパンスバン遺跡はことに有名である。
[山中一郎]
氷河時代最後のヴュルム氷期の第2期後半の旧石器時代末期の文化。フランス,ドルドーニュ県マドレーヌ岩陰遺跡にちなむ。この文化の中心はフランスであるが,他にスペイン,イギリス,ベルギー,ドイツ,オーストリア,チェコ,スロヴァキア,ハンガリー,イタリア,スイス,ポーランドにも及ぶ。ビュラン(刻刀)などフリント製石刃(せきじん)石器文化。骨角器には多くの種類があり,幾何学文や動物文をつけたものがある。フランコ・カンタブリア芸術といわれる南西フランスから北スペイン洞窟絵画は主としてこの文化に属し,クロマニョン人が担い手であった。
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