まっすぐに切り立った断崖(だんがい)直下のわずかな広さのくぼみを、天然の住居として利用した古代遺跡の一つ。自然の侵食作用によって岩壁につくられた大小のくぼみは、岩陰や洞窟(どうくつ)となり古代人によって雨露をしのぐ生活の場として積極的に利用された。一般的に、比較的浅い外形をもち、なだらかな傾斜で岩肌が迫るものを岩陰遺跡とよび、規模が大きく奥行が深いものは、岩びさしが明瞭(めいりょう)となるため洞窟遺跡とよんでいる。この類別はあくまでも相対的かつ便宜的なものであるが、両者は開地遺跡に比べて、夏は涼しく冬は温かく温度変化の少ない利点があるため、非常に住み心地がよい場所であったが、同時に湿気をもつ欠点もあった。しかし、多くは北側が岩壁で覆われ北風を防ぎ、南側は眺望の開けた太陽の満喫できる場所を選定する。その遺跡は、生活用具としての土器、石器のみならず、ときには貝塚さえ残している。またまれには人骨の発見もある。生活址(し)としての役割のみならず、墓地としても使われた。特例として祭祀(さいし)遺物を出土する場合もある。生活空間が限定されているため、同じ場所に何回もの生活記録をとどめ、文化層として断続的に堆積(たいせき)し、考古学上の編年研究に役だっている。旧石器、縄文、弥生(やよい)、古墳時代にみられ、重複した遺跡もある。日本のみならずヨーロッパ、アジア、アフリカにも、岩壁があり条件を満たす場所には分布する。代表的なものとして愛媛県上浮穴(かみうけな)郡久万高原(くまこうげん)町の上黒岩岩陰遺跡、長崎県佐世保市下本山町の下本山岩陰遺跡がある。
[麻生 優]
岩壁の上方がせり出して形成するひさし状の下陰に営まれた遺跡。ひさしの奥行きが深いものは半洞窟遺跡などと称して区別する場合があるが,崖の中腹のくぼみや岩棚上あるいは大岩石の下の遺跡も含まれる。いずれの場合も岩陰の下の空間は狭いために,日常一般の生活または居住の場としてよりも,むしろ特殊な機能や目的に利用されている例が少なくない。日本の旧石器時代には稀である。縄文時代草創期や早期に居住地とされているが,前期以降では狩猟のための一時的な仮泊地あるいは墓地などの利用例がある。さらに群馬県岩櫃山遺跡などの東日本における弥生時代の墳墓,福岡県沖ノ島祭祀遺跡などの古墳時代や奈良時代の祭祀関係遺跡,中世の仏教関係遺跡,南西諸島にみられる歴史時代の崖葬墓(再葬墓)などの特殊なものもある。
執筆者:小林 達雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…洞窟や岩陰,石灰岩の割れ目などを利用した遺跡の総称。洞穴(どうけつ)遺跡ともいい,岩陰のものは岩陰遺跡と呼ぶこともある。これらには,洞窟外から骨や人工遺物が二次的に流入,堆積した例を含む場合がある。…
※「岩陰遺跡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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