マドンナ(読み)まどんな(英語表記)Madonna

  • 1958―
  • 歌手、俳優

翻訳|Madonna

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

1980年代以降のポップ・ミュージックを代表するアメリカの女性歌手、俳優。本名マドンナ・ルイーズ・ベロニカ・チッコーネMadonna Louise Veronica Ciccone。両親はイタリアからの移民。デトロイト郊外で生まれ育った彼女は少女時代からダンスのレッスンに熱中し、1977年、ミシガン州立大学ダンス科を中退した後、わずか35ドルの所持金を手にニューヨークへ出る。ダンス・バンドのドラムやバックシンガーを担当したり、生活費を稼ぐためヌード・モデルなどを経験する下積み時代を経て、82年にサイアー・レコードと契約。翌年デビュー・アルバム『マドンナ』収録の「ホリデー」「ボーダーライン」などがダンス・チャートでヒットし一躍注目を集め、続く『ライク・ア・ヴァージン』(1984)が世界11か国でアルバム・ヒット・チャート1位を記録する大ヒットとなる。彼女は鍛え抜かれたダンスの才能を生かすため、勃興期にあった音楽専門チャンネルMTVにいち早く着目し、プロモーション・ビデオ・クリップの制作に力を注いだ。印象的な映像とダンスが盛り込まれた優れたミュージック・ビデオは、彼女の名声を決定づけるものとなり、マドンナはマイケル・ジャクソンと並び称される、MTV時代を代表するスターの地位を得た。
 また、ビデオ・クリップ『マテリアル・ガール』(1985)に明瞭に見てとれるような、マドンナによって提示された、欲望の対象とされることを利用して周囲の男性を自在に操る女性像は、保守的な女性像とウーマン・リブをともに批判するものと受けとられた。このことによってマドンナは、保守派と革新派の双方からさまざまな非難を受けると同時に、「ワナビーズ」wannabesと呼ばれる熱狂的な少女ファンを出現させることとなった。自ら性的なヘゲモニーを握るセックス・シンボルという、マドンナが打ち出した新たな女性像は、90年代に入るとアカデミックなフェミニズムの議論にまで影響を与えるようになった。
 その後も『トゥルー・ブルー』(1986)、『アイム・ブレスレス』(1990)などヒット・アルバムを続々リリースする一方、『マドンナのスーザンを探して』(1985、監督スーザン・シーデルマンSusan Seidelman(1952― ))や『フーズ・ザット・ガール』(1987、監督ジェームズ・フォーリーJames Foley(1953― ))など映画にも多数出演し、人気女優となる。また、プロモーション・ビデオ『ライク・ア・プレイヤー』(1989)で十字架を炎上させるシーンが問題となり、各国で放映禁止になるなど、支配的な性的・宗教的モラルに抵触する活動が議論を呼ぶ。92年に発表された写真集『SEX by Madonna』は奔放な性的イメージが全面に展開されたもので、日本では一部修整されて発売された。また、自身のレコード・レーベル、マーベリックを92年に設立し、若手のミュージシャンやバンドを発掘するなど、ポップ・ミュージック界におけるもっとも活動的な企業家の一人である。
 マドンナの音楽的背景は、ゲイや黒人などのマイノリティが築き上げてきた、都市のアンダーグラウンドなディスコ文化に由来している。彼女はディスコ・ソウル・ミュージックやゴスペル・ソング、ヒップ・ホップなど都市の黒人音楽を雑食的に折衷する一方、ハウスやテクノ(『エロティカ』(1992))、エレクトロニカ(90年代テクノの隆盛後、非音楽=ノイズや生楽器の導入など、手法と形態が多様化した広義のエレクトロニク・ミュージック。『ミュージック』(2000))などのディスコ/クラブ文化の最新モードを敏感に取り入れ、それらを主流の音楽文化と接合させた。彼女の活動が支配的なモラルを壊乱するように働くのは、そのような主流の文化意識とマイノリティに起源をもつ彼女の文化的背景との摩擦によるものである。90年代以降の文化研究者たちは、マイノリティの文化資産を主流文化へと媒介するマドンナの実践に注目し、ジェンダー論やマイノリティ論、クィアー理論(性的マイノリティの観点からの文化理論)や文化社会学の視点から、多数のアカデミックな研究や批評が行われている。[増田 聡]
『スティーブン・マイゼル写真、中谷ハルナ訳『SEX by Madonna』(1992・同朋舎出版) ▽クリストファー・アンダーセン著、小沢瑞穂訳『マドンナの真実』(1992・福武書店) ▽キャシー・シュウィッチェンバーグ編著、久木葉一訳『マドンナ・コネクション』(1994・DHC) ▽スーザン・マクレアリ著、女性と音楽研究フォーラム訳「生きて語る~マドンナに見る肉体性の復活」(『フェミニン・エンディング』所収・1997・新水社) ▽J・ランディ・タラボレッリ著、吉澤康子訳『Complete Madonna ほんとうの「私」を求めて』(2001・祥伝社) ▽バーバラ・ヴィクター著、白川貴子訳『マドンナ――女神の素顔』(2003・ベストセラーズ)』

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